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一章 本命じゃないくせに嫉妬はやめて!

32、困惑

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俺は昨日、頭が混乱したまま倒れてしまった。
そのため昨日はそのことについてよく考えることは出来なかった。
だから今朝、冷静になって考えてみると色々とおかしいと気がついたのだ。
そのため今の俺はとても不機嫌だった。

何よりもおかしいのは、ウルが俺をイルの代わりとして抱いていた訳じゃないということ……。
確かに昨日は流されて嬉しいと思ってしまったのも事実だけど、それでも何のために今までウルは俺を抱いていたのか全く理由はわからなかった。

それによく考えたら、あいつはイルが好きなはずなのに、俺に対してあんな事をしていた訳で……もしかしてウルは、タイプなら誰でも良いのだろうか?
そう思ってしまうとやはりウルは不埒な最低男なのだと、さらに嫌悪感が増してしまう。
だからその事については帰ってから絶対に聞いてやると思いつつ、俺は機嫌が悪いまま宿屋を出たのだった。


そして今の俺は、隣に立つ男を睨みつけながらギルドに向かう道を歩いていた。
そんな俺の気持ちなんて全く知らないウルは、何故かニヤリと笑いながら言うのだ。

「デオ、俺の顔をそんな可愛く睨みつけてどうしたの?」
「可愛くないし、俺に対して可愛いとか言わないでくれ……恥ずかしい」

先程まで俺に対してそれを言うことはおかしいと嫌悪感があったはずなのに、実際に言われてしまうと何故か少し嬉しくなってしまい、恥ずかしくて怒るに怒れなくなってしまう。

何より、可愛いというのが本当に俺に向けて言っているのだと理解してから、そう言われるのが前よりも恥ずかしくて仕方がないのだ。
だから俺は、顔が赤くなるのを見られないようにと顔を背けようとした。

「もう、そうやってすぐ顔が赤くなるところも可愛いのに~」
「もう、やめてくれ……」
「ダメだよ~。デオはこんなにも可愛いから、すぐに俺の腕の中に閉じ込めたくなっちゃうよね?」

そう言うとウルは、突然俺を抱きしめた。
そのことに俺は驚きの声を上げてしまう。

「なっ!?こ、こんなところでいきなり抱きつくな!」

ここは道端なので、周りには少ないけど人だっている。
気になってチラリと見回すと、何人か驚いてこちらを見ているのがわかってしまい、俺は恥ずかしくて離れるために暴れようとした。
それなのに、さらにギュッとされて動けなくなってしまう。

「暴れても無駄だよ?」
「う、うるさい!!なら、早く離れてくれ!」
「ダメだよ。今は周りに見せつけてる最中だからね……?」
「なななな……!?」

わざと人前で抱きついてきたらしいウルに、俺はさらに顔が熱くなってしまう。
よく考えると何故かウルは、今朝からよく抱きしめてくるようになった気がするのだ。
それは朝起きてから始まり、準備しているときも、さらに食堂でもされてしまい怒ったばかりだというのに……。

しかもこっちはまだ混乱している最中で、どう反応していいのかわからない。
ウルは何故こんな事をするようになったんだ……?いや、昨日のことで心境の変化でもあったのだろうか?
そうだとしても、こんなところで抱きつくのは恥ずかしいからやめてほしい……。

「そうだなぁ~、やめてほしいならさっきまで何について考えていたのか俺に教えて?」
「……別に、たいした事じゃない。ずっと最低男について考えていただけだ」
「え?俺のこと考えてくれてたの?」
「自分で最低だと認めているのはどうかと思うが、確かに俺はウルの事を考えていた。昨日はつい流されてしまったけど、俺はこれでも怒っているんだ!だから今日は帰ったらもう一度、話し合いをするからな」

ウルが嬉しいようなそうでもないような微妙な顔で苦笑すると、名残惜しいのかゆっくりと体を離したのだ。
そしてため息をついたウルは、少し言い訳をしてきた。

「話し合うと言われてもね……俺はデオのことをイルとして見てるなんて一言も言ってないからね?」
「うっ、そうだけど……ってその話は夜にするから!」
「……しょうがないね、わかったよ」

ウルがここを去る前に、この事はスッキリさせておきたかった。この話し合いで俺達が今後どう接するのかが決まるはずなのだ。
でも俺はイルのためにウルを止めようと思う気持ちは変わらない。だからあとはウルが俺を捨てさえしなければ……。

そう少し不安になった俺は首を振り、そのモヤモヤを端に追いやる。
今はそれよりも、目前に迫るもう一つの不安要素を乗り越えなくてはならない。
だから俺は、その元凶であるウルを再び睨みつけていた。

「えっと、デオ……今度は何かな?」
「何かなじゃない。俺はウルのせいで、ギルドに行くのも本当は凄く不安なんだからな!」
「ん~、俺のせい?えっと、ギルドと言えば昨日のことかな?」

そうだ。
昨日あんな事があって、もしかしたら既に噂が広まってるかもしれないと思うと、俺はギルドに行くのが怖くなってきていた。
周りから蔑まれた目で見られたらどうすれば……。

「大丈夫、大丈夫。ここのやつら少し変だから」
「いや、大丈夫な訳ないだろ!?」

俺はウルが何を言ってるのか意味がわからず、とりあえず後ろをついていく。
そしてウルは何も気にせずにギルドの中に足を踏み入れたのだった。
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