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一章 本命じゃないくせに嫉妬はやめて!
5、本命がいるのに?
しおりを挟む俺は今、如何わしいお店までウルを追いかけたうえに、隣の部屋からウルの姿を覗き見るというおかしな状況に困惑していた。
でも俺は、そんなウルから目が離せなかった。
ウルにとって、相手が誰でもいいのはわかっていたはずなのに、こんなところでそれを見せつけられてしまい、俺は何故か動揺してしまったのだ。
何故俺が、こんな気持ちになるんだ?
まだ会って2日目で……あんな、あんな事をしてきたうえに、俺の事を欲しいと言うような変な男なのに。なんで俺はショックを受けているんだ……?
でも、これでわかったことがある。
やはりウルにとっては俺も遊びの一人でしかなかったんだ。
それなのに、褒められて少し喜んだ俺はただの間抜けだ。
そう思い、俺はウルをただの最低男とレッテルを貼りなおす。
そして目の前で楽しそうに話している相手の女性を観察してしまう。ほぼ下着姿の女性は出るところは出て、締まるところは締まっていた。その姿に、何故か俺は自分と比べてしまう。
こんな筋肉ばかりのゴツい男より、女の子のがいいに決まってる……。
いやまて、なんなんだ……これでは俺がまるで嫉妬しているみたいだ。
そんなわけがないと首を振りウルの方を見ると、とうとう本番を始めるのか女性達がその下着さえも脱ぎ始めているのが見えた。
女性達がキャイキャイいいながらウルに抱きつく。
それを楽しげに見るウルを見た瞬間、何故か俺は無性に耐えられなくて、隣の部屋へと飛び出していた。
後ろから「旦那様、いけません!!」と声が聞こえたけど、その声を無視して俺はウルの前に出る。
ウルは俺の態度に驚くこともなくニヤニヤとこちらを見ていた。その姿に怒りの目を向けてしまう。
「ウル、いったいどういう事だ?」
「どう、というのは~?」
「女性のところへ遊びに行くとは聞いていたが、なんでこんなところにきたんだ?」
「興奮を抑えるためだよ?それにしても、人の部屋に入り込むなんてデオは変態なのかな?」
「そ、そんなことはない!だけど….ウルは俺が欲しいって……」
つい気にしていた言葉がポロリとこぼれてしまって、俺はすぐに口を閉じる。
こんなこと言うなんて本当に嫉妬しているようにみえるじゃないか……。
「確かに言ったけどね。俺は別にウルを好きなわけじゃないんだよ」
「…………そ、そうなのか……?」
そんな事はわかっていたはずなのに、ウルの口から直接言われたことにさらにショックを受ける俺がいて、そのことに戸惑ってしまう。
俺はウルを好きなわけでもないのに、先程から何故こんなにショックを受けてばかりいるんだ……?
それなのに、ウルは更に俺を追い詰める。
「いい事教えてあげるよ」
「いい事?」
「そうだよ~。それはね、俺の好きな人のことだよ」
「……ウルお前、好きな人いたのか?」
驚いた俺は目を見開いてしまう。
こいつは好きな人がいるというに、それなのに俺にあんな事を言ったのか……?
「そうだよ。俺は、君の弟であるイルレインが好きなんだ」
イルレイン。
それは俺の可愛い可愛い一番下の弟の名前だった。
俺が国に置いて来た唯一の心残りでもある。
そして家族の中で一番大切にしている存在であり、俺は弟のために父親を殺すことを決めたといっても過言ではなかった。
それほど大切にしている存在を、この最低男は好きだと言う。
そんなこと、俺が許せるわけがなかった。
もしイルがこいつと結ばれたら、イルが不幸になる未来しか見えなかったのだ。
だから俺は怒りのあまりウルに叫んでいた。
「イルを傷つけるやつは許さない!!」
気がついたときには俺はウルに向けて殴りかかっていた。
周りの女性達が悲鳴を上げたのが聞こえたけど、俺は気にせずにウルの懐に入り拳をその綺麗な顔に向けて打ち込む。
「はい、可愛いパンチだね」
しかし、それは簡単に止められてしまった。
ウルが強者である事はわかっていたが、そんな簡単に止められるとは思っていなかったのだ。
「くっ、その手を離せ」
俺は掴まれた手を諦めて、ウルに蹴りを入れるため足を振り上げる。
それなのに、その足も簡単に止められてしまう。
「ここで喧嘩はご法度だよ?そんな悪い子にはお仕置きが必要だよね?」
「なっ!?」
足を引っ張られたと思ったら俺の体は少し宙に浮いた。そして気がつけば俺はまたウルに抱き上げられていた。
それも、まるで俺がウルに抱きついているかのような体勢で、俺は落ちないように咄嗟にウルの背中に足をまわしていた。
「わお、デオったらダイタンなんだから~」
「違う!この体勢落ちそうで……」
「え?デオは俺から離れたくないんだね~仕方ないなぁ」
「ヒィッ!」
そうふざけて言うウルは、抱きついている俺のお尻を揉み始めた。しかもたまに、割れ目をスリっと触るのでビクッとしてしまう。
確かに今の服は分厚いからまだましだけど、それでも前触られたときの指の感触を思い出してしまうのだ。
だから俺は抗議の声を上げる。
「や、やめろ……」
「やめたらお仕置きにならないでしょ?」
そう言われて、ようやく状況を理解し冷静になってきた俺は、今すぐやめてほしくてウルに懇願していた。
「殴りかかったのは悪かったから……話し合いをさせてくれ……っ!」
「じゃあ、いったん宿に帰ろうか~。誰かさんが喧嘩を吹っかけてくれたから、そろそろここにはいられなさそうだし……」
きっと俺達の喧嘩を止めるために、誰かが向かって来ているのだろう。すでに足音がこちらまで聞こえ初めていた。
でもこんな姿、誰かに見られたくない。
だから俺は大人しくコクンと頷く。
するとその体勢のまま、ウルはいまだに隣の部屋で唖然としている女性に向けて言った。
「じゃあ俺達帰るね?迷惑かけたし、俺はいいもの見れたから満足したので、沢山追加料金払っておくね~」
ベットの上に硬貨を置いて、ウルは窓の方へと歩き出す。
「だ、旦那様?お帰りはそちらでは……」
お金を受け取りに来た女性は弱々しくそう伝えようとした。
しかしウルはそれを無視して窓を開ける。
「だ、旦那様!ここは4階ですよ?正気ですか!」
「うるさいなぁ、俺は今最高に楽しいんだから邪魔しないでよね」
「ひぃ……!!」
ウルからの殺気にその女性は腰が抜けたのか座り込んでしまう。
「ウル、そのへんにしろ」
「ふーん、俺を嗜めるつもりなんだ?デオは全く状況がわかってないんだね……さっき言ったよね?お仕置きだって。だからデオは宿に戻ったらお仕置きの続きだよ?」
「はぇっ?」
先程のでお仕置きとやらは終わったと思っていた俺は、つい変な声を出してしまった。
そしてウルは俺を抱えたまま、その部屋を飛び降りたのだった。
その部屋の女性が「何よあれ、痴話喧嘩……?」と呟いた声は俺の耳に届く事はなかった。
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