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一章 本命じゃないくせに嫉妬はやめて!

1、その王子逃亡中につき

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その日俺は脅された。

「ねえ、君の弟にこんな風に悪戯してもいいのかな?」

そう楽しそうに言いながら、その悪魔みたいな男は俺の乳首を弄ぶ。
でもその快楽に押し流される訳にはいかない俺は、必死に答えを返す。

「……っ、いい訳ない!」
「ああ、その顔いいよ……やはり君達は兄弟だから顔付きが似てて凄く好みだ。ねえデオ、もし君が本当に代わりになってくれるなら、俺は君の弟に手は出さないよ?」

そう話す黒髪の男は、赤い瞳を細めてニヤリと笑う。
それは悪魔の微笑みのようだった。



何故俺がこんな最低男に脅されているのか、話せば長いことになる。

あいつと初めて会ったのは、俺が父上を殺した後のことだった。



ブルーパール王国第3王子である俺、デオルライド・ブルーパールは、その日父を殺した。

それは仕方がなかったことだった。
竜の呪いを解く為にそれは仕方がないことだった。
なによりも俺の大切な兄弟を救う為には、それがどうしても必要だったのだ。

そして父上を殺した俺は国から逃亡しようとした。しかし父を殺したことでどうやら竜の封印が解け、竜達がこの王都を覆ってしまったのだ。
奴に会ったのはそんな国が混乱しているときだった。


そのときの俺は一心不乱に竜に向けて剣を振っていた。
無限に湧いてくる竜に、体力が無くなっても俺は決して諦めなかった。

「くそ、これが竜の呪いだというのなら、俺はいくらでも足掻いてみせる!!!」

そして気がついたら、俺の周りに竜はいなくなっていた。
暫くその場に立っていると、おちゃらけた声がしたのだ。

「わーお、君これ一人で全部倒したの?」

そこには黒い髪に赤い瞳を持ち、少しチャラチャラした雰囲気の男が立っていた。

「あれー?君どこかで会ったことない?」
「いや、俺は……」
「あ、俺の名前ウルだよ。君は?」
「…………」

何処かで会った事のある知り合いだっただろうかと、一瞬よく見てみたが全くわからない。
それに今、名前を名乗って素性がバレる訳にはいかない俺は、無言で男に背を向けていた。

「ふーん、まあいいや。君、強いんだね?今度手合わせしてくれない?」
「あ、ああ。また会えたら……」

きっともう会うことなどないだろうと、俺は適当に返事をしてしまった。
男はそれで満足したのか、すぐにその場から去っていった。

しかしこのとき返事をしたことに、後悔したのはその数ヶ月後になる。




それから俺は3ヶ月かけて、この国の最南端の町の一歩手前まで辿り着いていた。
追っ手から逃れる為に、遠回りして逃げていたために時間がかかってしまったのだ。

そして次の町を抜ければ、隣国であるホワイトダイヤ国へと抜ける事ができる。
ようやくここまで来れたというのに、この町についてすぐにブルーパール王国の騎士達に見つかった。

どうやら俺が何処から国を出ようとしているかバレていたようで、すでに追っ手が先回りしていたのだ。
もとは騎士団に所属していた俺は騎士達と顔見知りのために、例え変装していてもバレてしまう。

「何処に行った!」
「あっちだ!!」

そして今、町中を追われている最中であり、このままでは捕まるのも時間の問題だった。
俺にはこの町の地の利が全くない。だから今小道に隠れているが、この道がどこにつながっているかなんて全くわからないのだ。
だから俺は、とりあえず町を出るための方角が知りたかった。

一度屋根の上に登って位置を確認するか?
いや、きっとすぐにあいつらにはバレてしまうだろう。
それならもう一か八か正面衝突するしかない……。


俺は屋根の上に素早く上がると、周りを見回した。
そして町を出るための方角を覚える。
でも思った通り、屋根の上にいる何人かの騎士と目があってしまった。

「いたぞ!東方向三番方面の屋根の上だ!!」

その声が聞こえると同時に、俺は屋根の上を駆け抜けていた。

「そっちに、向かったぞ!囲め!!」
「「「了解!!」」」

その掛け声とともに、俺の周りに5人の騎士が近くまで来ていた。

「デオルライド殿下!いい加減捕まって下さい!!」
「そうですよ、別にあなたが犯人だなんて私達は皆思ってないんですから!」

彼らは俺が国王を殺した事を知らない。
だからこそ俺は捕まる訳にはいかなかった。
そして彼らを傷つける事もしたくなかった。

でもジリジリと迫ってくる方位に、俺は次の手を考えられなくなってしまう。
それ以上近づかれたら、俺はこいつらを斬ってしまう……。

「デオルライド殿下、お覚悟!!」

そう言うと一人の騎士が俺がいる屋根の上に飛び移ろうとした。
俺はここまでか……と覚悟を決めたときだった。

「うがぁっ!!」

その騎士は飛んでいる最中に頭を踏まれて地面に落ちていった。
そして俺は気がついたら何故か誰かに持ち上げられていた。
驚いた俺はその男を見上げる。
黒髪がなびく隙間から、特徴的な赤い瞳が見えた。

「いやぁ~、来て見たら危機一髪ってやつ?俺ってこういうところの運は、持ってるよねぇ~」

それは、あのとき俺にウルと名乗った軽薄そうな男の声だった。
その男は瞳を細めると、何故か横抱きにした俺を見て楽しそうにニヤリと笑ったのだ。
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