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俺と夜
51、社長室にて
しおりを挟む俺が今後の事を勝手に妄想して青ざめてる間に、記者会見についての話し合いは順調に進んでいた。
「私は記者会見をするのなら、出来るだけ早い方が良いと思っているんだよ」
「って事は明日中には、って感じですか?」
「そうだね……夕方には出来るよう手配したいと考えているのだけれど、君達のスケジュールは大丈夫そうかい?」
3人は顔を見合わせると、すぐに携帯や手帳を見て予定を確認し始めた。
そして間住さんへと、最初に答えを返したのは優だった。
「俺は明日オフなので、いつでもいいです」
「そうか、休みだったのにすまないね……」
「いえ、直の為なら休みなんて必要ありません」
「はは、そうか。優は兄想いの良い弟のようだね」
間住さんは俺達が仲のいい兄弟なのだと思ったのか、嬉しそうに微笑んでいた。
だけど優からそれ以上の感情が見えるような気がした俺は、これ以上深く聞かれない事を祈ってしまう。
そんな俺の思いが通じたのか予定を確認していた光が、2人の話に割って入ったのだ。
「はいはーい! 僕の予定だけど明日は20時に元君とラジオがあるよ?」
「俺も明日の仕事はそれだけだぜ。それにしても今週の担当が俺達って事、優はちゃんと知ってたんだろうな?」
悪びれもせずに首を振る優の姿に、元はため息をつく。
そんな2人を見ていた間住さんは、微笑ましいモノを見るような目をしながらその番組名を言った。
「クロノスの毎回違うメンバーが二人でお届けする番組『Magical Time』。私もたまに聞いているけど、確かそのラジオは生放送だったよね?」
「うん、生放送だよ。でも放送時間は夜だから、会見後でも間に合うとは思うけど……」
「それなら、このビルで収録できるようにすればいいだけの話だよ。私の方から局と話しをつけて機材と人材はこちらで手配しよう」
なんか、俺がいなくてもサクサク話し合いが進んでいくけど……この場所に俺は必要なのかな?
そう思いながらも俺は落ち着いて話し合う3人の姿を見て、こんなにも不安になってるのは俺だけのようだと少しだけホッとしてしまう。
だからこそ後ろ向きな妄想をしてしまった事が申し訳なくて、俺はそれを頭から完全に追いやる為に首を振る。
しかもブンブンと大袈裟に首を動かしたせいで、俺が入り口にいる事を間住さんに気づかれてしまったのだ。
「おや、どうやら直も来てくれたようだね。夜、直を呼んできてくれてありがとう」
「い、いえ……俺にはそれぐらいしかできないですから……」
社長に椅子へ座るように促された俺達は、唯一空いていた社長の横隣に夜と並んで座る。
そんな俺達の向かいには、何故か顔をムッとさせている3人が座っていた。
「それでは全員集まった所で、明日の話をしよう。直には話したと思うのだけど、3人には暫くの間このビルで過ごしてもらう予定だよ。でもね、夜だけは普通に仕事をさせるつもりなんだ。だから直には夜の送り迎えをして欲しい。スキャンダルの事で記者に囲まれるかもしれないが、出来るだけ夜を守ってやってくれないかい?」
「……は、はい。わかりました、夜の事は俺に任せて下さい!」
俺が出来る事は少ない。だから頼まれた事ぐらいはしっかり頑張ろう。
そう思って胸をドンと叩く。
夜はそんな俺の姿に感動したのか、何故か嬉しそうに腕を広げた。
「直……俺のために、ありがとう!」
そして気がつけば、俺は夜に抱きしめられていたのだ。
「ちょ、ちょっと夜!? いや、これぐらいマネージャーとして当たり前の事だし、気にしなくていいから。そ、それよりもそんな強く抱きしめられたら苦しいってば……!」
「ご、ごめん……」
謝る声は弱々しいのに、夜は腕の力を緩めただけで俺を離すつもりはないようだった。
しかし、抱きしめられている俺の姿をよく思ってない3人が、さっきから夜を睨んでいる事に俺は気づいていた。
俺はその視線に、何故か胸がモヤモヤしてしまったのだ。
なんだろ、この感情……。
俺は誰とも付き合ってない。それなのにどうして浮気現場を見られたような、そんな罪悪感が湧くんだろう…………もしかして俺、この中の誰かを意識してるのか───?
そう思った途端、俺の胸がドクンと跳ねた。
え? 嘘だよね……俺が、この3人の誰かを好きなんて……。
ありえないと思いつつも、その視線に耐えられなくなった俺は夜を無理矢理引き剥がしてしまう。
「夜、ごめん……これだと話し合いが出来ないから、今は離れてほしい!」
「あっ…………俺、皆がいるのに……。直、ごめんね……」
シュンとしてしまった夜を見てハッと冷静になった俺は、きっとモヤモヤしたのも3人に告白されて変に意識したのが原因に違いないと結論付けて、頭の片隅へと追いやってしまう。
そして夜を引き剥がしたせいでなんだか気まずい空気になってしまったので、俺は話題を変えようとずっと気になっていた事を聞いてみる事にしたのだ。
「コホンっ……。あのー、さっきチラリと聞こえたんですけど 記者会見をするってのはどういう事ですか……?」
「ああ、今回の記事は3人一緒に抜かれたうえに、直を女性に見えるよう修正までするという、ある種とても悪質なモノと言えるだろう。だから記者会見を開いて今回の記事は作られたデマだと、内容を全面的に否定するんだよ。そしてそのついでに、1ヶ月後に開催されるライブの宣伝も兼ねてしまおうかと思っている訳さ」
つまり間住さんは、記者会見で集めた人達を盛大に騙して宣伝の場として使うつもりなのだろう……相変わらず使える物は何でも使うところは昔から変わっていないようだ。
それよりも今、俺の耳に重大な話が聞こえた気がした。
そう、それはライブの事だ。
なんと俺は、C*Fのライブがある事を今の今まですっかり忘れていたのだ。
マネージャーになる前、俺はC*Fの1ファンとしてなんとかチケットをゲットしていたのに、最近の怒涛の展開でライブの事なんて記憶の彼方へと消えていたようだ。
よく考えれば、今まで4人の仕事が思ったりよも少なかったのも、ライブに備えて仕事量を調整していたからという事だろう。
チケットは既に売り切れているのだけど、更に席を増やすつもりなのかネット配信するのかはわからないが、この記者会見はいい宣伝になる筈だ。
記者会見に向けて対策もしてるし、これならきっと大事にはならないよね……?
そう思うのに、どうしてこんなにも不安が拭えないのだろう。
もしかすると、今回は乗り切れたとしてもスキャンダルが今後続かないとは限らない。俺がそう思っているからかもしれない。
俺の時だって、1回目は嘘だと信じてもらえた。
だけど……2回、3回と続くうちに、まわりの人達は話が嘘なのか本当なのか疑い初め、一度疑いを持ってしまえば心が離れるまでに時間はかからなかったのだから……。
「直、顔色が悪いようだが大丈夫かい?」
「いや、別にそんな事は……」
「直、辛いなら俺の膝に頭を乗せろ」
「え?」
向かいの椅子に座っているのに突然よくわからない事を言い出した優に、俺はドン引きしてしまう。
「えー、優君ずるーい! それなら僕の膝の方がきっと柔らかいよ?」
「いや、それなら鍛えてる俺のがもっと柔らかいに決まってるぜ」
「ちょっと、待って! 皆して突然何を言いだすんだよ!? 膝枕なんて恥ずかしいし、何よりお前らとは物理的に距離があるから無理だって。それに俺は隣にいる夜の肩を貸してもらうから大丈夫だよ」
そんな俺の言葉に一番驚いていたのは夜だった。
「え、え!? 直は、俺なんかの肩でも大丈夫、なの……?」
「全然大丈夫だし、俺は夜の肩がいい……もしかして、夜は俺がもたれかかるの嫌だった?」
「そ、そんな事ない。直の役に立てるなら凄く嬉しいよ……」
少し照れ臭そうに笑う夜を見て安心した俺は、ゆっくりとその肩にもたれかかる。
3人が何か文句を言いたそうにこっちを見ているのに気づいていた俺は、再び謎の罪悪感を感じてしまい目を逸らしてしまう。
そして、そんな俺達の様子を見ていた間住さんが、何故か突然笑い出したのだ。
「はははっ……! そうか、そうか。直はメンバーと、もうこんなにも仲良くなっていたんだね。どうやら天然タラシの直は健在のようで安心したよ」
「ちょっと、間住さん!? 子供の時代の変な作り話はやめて下さいよ。それに今はそんな話より、記者会見の話の方が重要ですからね?」
「いや、すまないね。決して揶揄うつもりじゃなかったんだよ。それに直に言われてしまったからね、ここからはこの6人で記者会見の事を真面目に話し合う事にしようか」
こうして俺達は記者会見の話を詰め始めたのだ。
しかし話し合いの最中に、本格的に気分が悪くなってしまった俺はすぐ社長室を退出するはめになり、そのせいで記者会見についての話を殆ど聞く事が出来なかった。
そして、その日の深夜0時───。
C*Fのスキャンダルは、俺達の予想通りニュースサイトに上がった。
それはあっという間にネットに拡散され、翌朝にはSNSのトレンドをほぼ埋めつくしたのだった。
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