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俺と夜
47、フリをして
しおりを挟む「うわぁ、いい景色……!」
恥ずかしいのを我慢して着いた場所は、ハイキングコースの終着点である展望台だった。
思った通り夜の目的地は、俺のお気に入りの場所で間違ってなかったようだ。まあ、お気に入りと言っても今の俺はここに来るの初めてなんだけど……。
しかし久しぶりだとしても、やっぱ俺はこの展望台から見る街並は好きなままのようだ。
そう思いながら俺は、宝石箱の中身をひっくり返したような夜景を堪能しようと思っていたのに……俺は横からの熱い視線の方が気になってしまい、夜景どころではなかった。
いや、何でさっきからずっと俺は夜に見られてるの!?
展望台に着いてから、夜はようやく腰から手を離してくれた。そこまではよかったのだけど、その後夜は夜景じゃなくて何故か俺の顔をじっと見始めたのだ。
しかし、とうとうその視線に耐えられなくなった俺は、夜に文句を言おうとした。それなのにその顔を見た途端言葉に詰まってしまう。
夜の顔は前髪で半分見えないくせに、夜景の明かりが反射してキラキラと輝いていたのだ。
うぅっ……夜は前髪さえどうにかすればかっこいいから、そのギャップがズルいんだよ。いや、でも俺の方が絶対にカッコいいし、今は俺も夜と同じように輝いてる筈だから……!
変な対抗意識を持って見つめていると、何故か夜は嬉しそうにニコリと笑いその口を開いたのだ。
「俺の思った通り……直もこの場所、気に入ってくれたんだよね……?」
「……っ!」
純粋に俺を気にかけてくれる夜を見て、馬鹿みたいに張り合ってた事が恥ずかしくなった俺は、咄嗟に顔を背けると再び街並みを見るフリをした。
「……うっ、うんうん、凄く気に入ったよ。こんな素敵な場所を教えてくれて、ありがと……」
何故か俺は、咄嗟に初めてここに来たフリをしていた。特に理由があった訳ではないけど、嬉しそうに見つめてくる夜を俺はガッカリさせたくなかったのかもしれない。
それに夜にこの場所へ連れてきてもらわなかったら、俺は一人で来る事もなかったと思うのだ。だってここは俺が救われた場所でもあるけど、同時に嫌な事を思い出す場所でもあるから……。
だからここへ連れて来てくれた夜に、俺は本当に感謝しているのだ。
その気持ちが伝わるようにと、俺は改めて夜の方を向く。そして夜の右手を両手でギュッと握った。
急に手を握られた夜は一瞬驚いていたが、すぐにいつもと同じ微笑みに戻っていた。
いや、いつもより嬉しそう……?
なんて思いながらその顔を観察している間に、夜の左手が俺の頬をスリっと撫でたのだ。
その事に驚いた俺は、恥ずかしさのあまり声をあげてしまう。
「っな、何!? もしかして、なんかついてた?」
「ううん、直の頬が赤かったから……熱がないか心配になっただけだよ?」
「えっ、俺の顔が赤いのは……ほ、ほら! 息が上がったせい、それだけだから!」
本当は、さっきまでピッタリ引っ付いて歩いてたせいでもあるのだけど、そんな事恥ずかしくて言えない。
「あ、そうだよね……。直は疲れてるのに立たせたままで、ごめん。そうだ、あっちに座りながら景色を見れる場所があるから、そっちに行く……?」
「……うん、そうする」
───そうするって、確かに俺は頷いた。
頷いたけど……。
「あの、夜さん? どうして俺を膝の上に乗せているのでしょうか?」
確か俺は、夜に連れられて景色がよく見えるベンチに座ろうとしていた筈だ。
それなのに腕を引かれて座った先は、何故か夜の膝の上だった。
「ご、ごめん。俺の膝、固かったかな……? でもこのベンチ、背もたれがないから……俺が背もたれの代わりになろうと、思ったんだ。もしかして、座り心地悪かった……?」
「いや、そんな事は……」
寧ろ、疲れてる俺には最高の椅子です。とは、口が裂けても言えない……。
何よりさっきよりも体が密着してるせいで、俺はもの凄く恥ずかしいのだ。
「あの、誰かに見られたらまずくないか? 夜はアイドルなんだし……」
「大丈夫、こんな遅い時間に誰も来ないよ。まあ、来たとしても…………………ね?」
ね??? いや、来たとしても何!?
その続きを教えてほしいのに、聞いてもきっと誤魔化される気がする……。
そう思った俺は、夜にこれ以上何かを言うのを諦める事にした。
「はぁ……体勢についてはこのままでいいよ」
「いいの? ありがとう……」
「いや、感謝するのは俺の方だからね。それに少し話を戻すけどさ、夜はこの場所によく来るのか?」
「うん、そうだよ……。俺、この場所にいると嫌な事とか、何もかも吹き飛ぶ気がするから……昔から凄く好きなんだ。特に落ち込んだ時なんか、気がついたらここにいる感じかな……?」
ここにいる夜が、いつからこの場所に来ているのかはわからない。
でもこうして2人でまたここに来れた事が俺にはとても嬉しくて、まるでやり直す前の世界に戻ったみたいで俺はとてもリラックスしていた。
「そっかー、でも夜の気持ち凄くわかるな。ここは夜景も凄く綺麗だし、なんだか癒される」
「よかった、直にこの場所の良さが伝わって……。でも俺は夜景だけじゃなくて、ここから見る空も見て欲しいんだ」
「……空?」
俺は言われるまま夜空を見てみたが、月明かりがあるだけで星空なんて全く見えない。
「ここからの夜景は確かに綺麗だけど、その代わり星は全く見えない。でも俺にはここから見上げる空の方が、凄く気持ちが落ち着くんだ……」
「もしかして夜は夜景じゃなくて、いつも夜空を見にきてるのか?」
「うん、そうだよ。ほら、この空……こうやってじっと見ていると、なんだか吸い込まれそうにならない……?」
俺は空に向けて手を伸ばす夜と同じように腕を伸ばしてみる。
確かに風が気持ちいいけど、それで落ち着くという感覚は俺にはよくわからなかった。
「これで、直の気分が少しでも晴れてくれたら嬉しいんだけど……」
俺はこの景色よりも夜の心遣いの方が嬉しくて、感謝の言葉を口に出していた。
「……ありがと、夜がいてくれて本当によかった」
やり直す前、それに今だって、俺には夜がいてくれたから頑張れている気がするのだ。
「ううん、俺は何もしてないよ」
腕を伸ばしていた夜の手が、同じように伸ばしていた俺の手をギュッと包み込んだ。
「……夜?」
「ねぇ、直はどうしてこんな俺にまで優しくしてくれるの?」
「俺が……優しい? いや、俺なんかより夜の方が優しくないか?」
「ううん、俺なんかまだまだだよ……。だって直は好きでもない人にキスされても怒らないでしょ?」
「……へ、キス?」
「しかも誰でもって訳じゃなくて、俺達4人にだけ……直は凄く優しい、よね……?」
その言葉に、ギクリと固まってしまう。
本当の俺は自己中なだけで優しい人間なんかじゃない。だからもしもメンバー以外にキスされたら、嫌悪感で新しいトラウマになるのは間違いないだろう。
それに俺が優しく見えるのだって、4人に嫌われたくないから常に気を使って行動してるだけだ。
……もしかして、俺が無理に仲良くしようとしてるのがバレた?
俺はドキドキする心臓を抑えながら、慌てて言い訳をしていた。
「あ、当たり前だって。俺はお前らのマネージャーなんだから、友好的に過ごした方がお互い過ごしやすいだろ? その為ならキスぐらいドンとこいだって!」
よくわからない事を口走って誤魔化したけど、こんなに密着しているのだ。夜には俺の心臓がドキドキしてるのは完全にバレてるかもしれない。
確かに隠してる事はあるけど皆と仲良くなりたいのは事実なんだ……もしこれで怪しまれて夜に嫌われたらどうしよう!
そう思って悩んでいると、後からクスクスと笑う声が聞こえてきたのだ。
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「……え!? す、するって、何を? 俺には、何の事か……?」
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