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俺と夜
45、誰が1番?(後半)
しおりを挟む真剣な顔で俺を見る優と元と光は、俺が誰の名前を上げるのかを静かに待っていた。
しかし、その反応に困ったのは俺の方だった。
だって俺はこの3人をどう思ってるかの答えなんて、本当は全く出ていないのだ。だから今はどうにか誤魔化すしかないわけで……。
「えっと……そうだな、なんというか俺は皆が好きだよ。ほら、俺ってこう見えて博愛主義だから皆平等に好きなんだ。えーっと、うん……これでいいかな?」
完全に適当な返事をしてしまった……でもこんな返事では、流石に3人は納得してくれないよな?
そう思いながら目を逸らした俺を見て、3人は盛大なため息をついたのだ。
「それは俺達と同じ意味での『好き』じゃないだろ?」
「そうだよ! こっちはマジの真面目に聞いてるのに~」
「なんだよ、そんな事言われても仕方がないじゃないか! 俺もお前らも男だし、それ以前に俺は初恋もまだだから、好きって感情がどんなものかよくわからないんだからなっ……!」
「「「……………………」」」
頼むからそこは黙らないでくれよっ!
だって、俺に恋愛経験が無いのは事実なんだ。
しかも今までこんな話誰にもした事がなかった俺は、勢いで言ってしまった事が恥ずかしくて顔を伏せてしまう。
そして俺は情けない事に、心の中で少しだけ言い訳をしはじめたのだ。
別に恋愛が出来なかったのは俺のせいじゃない。
だってやり直す前の世界では、芸能界に縋り付くのに必死でそれどころじゃなかったし、今の俺は生き延びる事に必死で、愛とか恋について考える時間なんてなかったから……。
そう思って落ち込み始めた頃、俺の恋愛感に驚いて何も言えなくなっていた3人の中で元だけが、少し緊張した声色で俺に質問してきたのだ。
「なら聞くけどさ……直は今んところ、俺らが男同士だから嫌だって思ってるわけじゃねぇんだな?」
「……え? まあ、確かに戸惑ってはいるよ。だけどよく考えたら男だから気持ち悪いだとか、男だから嫌だとは一度も思った事ないかも……」
その言葉に3人がホッとしたのが伝わってきた。
あんなに自信満々で迫ってきたくせに、それでも心のどこかでその事を気にしていたのかもしれない。
それに3人の空気のせいで、俺が恥ずかしい事を言ったような気がしてしまい、照れ隠しをしようとして俺は必要ない事まで言ってしまったのだ。
「そ、それに俺が嫌だと思ってたら、お前らと何度も……き、キスなんてする訳ないから……!!」
「「「え……?」」」
その言葉に3人は固まった。
あれ、なんか部屋の温度が急激に下がったような…………あっ!?
俺は自分の失言に気がついてしまい、顔を青くする。
しまった……! あの言い方だと、俺が3人と何度もキスをしたと言ってるようなモノじゃん!?
確かに、俺が誰かとキスしてる姿は既に見られてた気がするけど、流石に3人全員からそれも何度もキスされてるとは思わないよな……。
しかしそれだけ聞くと、まるで俺が最低な人間みたいだ。でも拒めたのに拒まなかったのは俺の方だし、やっぱり俺が悪いんだろうか?
そう思ってしまった俺は、言い訳をしようと口を開いた。
「いや、今のはそう言う意味じゃなくて……!」
「直、それはつまり元だけではなく光ともキスをしたと言う事か? しかも何度も?」
「いや、あの……」
「まってよ、僕の事より元君との事が驚きなんだけど! 本当に元君も直ちゃんにキスしたの!? しかも二人して、何回直ちゃんにキスしてるのさ~。そんなのずるくない!?」
「光、それはこっちのセリフだろうが!? お前だって、どうせ直と何回かキスしてんだろ?」
「でも二人だって抜け駆けしてんじゃんか~!」
「「お前にだけは言われたくない!!」」
そのままヒートアップしてきた3人は立ちあがると、再び言い争いを始めてしまったのだ。
その姿に自分が罪悪感を持つのがなんだか馬鹿らしくなってきた俺は、もうこいつらに付き合う体力も気力もなくなってしまい、話を聞く気になんてなれなかった。
何より俺はこれでも一応病み上がりなのだ。
こんな話を聞いてたら、なんかまた熱が上がりそうだし部屋に戻ってもいいかな……?
そう思った俺は歪み合う3人を放置して、気づかれないようにコソッと部屋を抜け出したのだった。
はぁ……。俺、このままマネージャーをやっていけるんだろうか?
そんな事を考えながら階段を登っていた俺は、これからの事に頭を抱えつつ何度もため息をついていた。
だってマネージャーになってまだ1週間しか経ってないのに、こんなにグッタリしてるなんて絶対におかしいに決まっている。
そう思いながら階段を上りきると、丁度そこには夜の姿があった。
もう21時を過ぎているのに何処かに出かけるのか、夜は寮の鍵を手に持っているように見えた。
「夜、今から出かけるのか?」
「うん、そうだけど……直、もしかしてまだ熱あるの? 顔色悪いけど、大丈夫……?」
「大丈夫だよ、もう熱は下がってるからね。ただ、まだ少し疲れが取れてなくて……」
確かに、さっきまでは本当に横になりたい気分だった。しかし今の俺は夜の癒しオーラを浴びたからなのか、もう疲れなんて吹き飛んでいた。
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そう思った俺は、もごもごと口ごもってしまう。そんな俺を心配そうに見ていた夜は、突然何か閃いたのか手を合わせたのだ。
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