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光と俺
40、誘い (前半)
しおりを挟むしまった……楽屋に無理矢理押し込まれた!
そう思って俺が振り返ったときには、すでに龍二が扉を閉めたあとだった。
もしかして、今俺は龍二と2人きり───?
その事があまりにも嫌でパニックになりかけた俺は、龍二の腕を振り払う。もう逃げ場なんてないのに、俺は部屋の奥まで走っていた。
「……直、いきなり手を払うなんて酷いじゃないか。それにどうして俺から逃げようとするのかな~?」
龍二は軽く手首をさすりながら少しずつ俺に近づいてくる。その姿はとても怖くて目を合わせる事なんてできない。
だけど俺はその手から逃げ出せたおかげなのか、少しだけ冷静を取り戻していた。
……落ち着け俺、この状況は以前とは違うんだ。それにラッキーな事に龍二は俺が逃げた事に気を取られたせいで、この部屋の鍵をするのを忘れたみたいだし……これなら助けを呼べばどうにかなるかもしれない!
俺は「何かあればすぐに連絡しろ」と何度も念を押してきた4人の顔を思い出し、携帯で連絡を取る為の時間を稼ごうと口を開いた。
「べ、別に俺は逃げたわけじゃない。会話をするために適切な距離をとっただけだから」
「適切? 俺としてはもっと近い方が適切なんだけどな~」
「でも俺には必要な距離だから、頼むから龍二はそこから動かないでくれると助かる……」
「ああ、そういう事か。俺には直の本心が全てわかったよ。直は俺の顔を近くで見たら照れるから、離れて欲しいって事なんだろ~?」
「……は?」
「うんうん、それなら仕方がないよな~。直が俺のカッコいい顔に慣れるまで、少しだけ離れていてあげるよ。だけど俺が我慢できなくなったら、直に遠慮なく近づくかもしれない。その時は恥ずかしくても耐えてくれるかな?」
全く話が噛み合ってないし全然違うのだけど、今反論すれば龍二は更に近づいてくる可能性があると思った俺は、今の話を聞き流してずっと気になっていた事を訊いてみることにした。
「そんな事より、何で龍二はここにいるんだよ……今は収録中じゃないのか?」
「はははっ、確かに直の言う通り今は収録中だよ。それなのに何で俺がここにいるのか、収録はどうしたのか……気になるよね~?」
「いや、気になってるから聞いてるんだけど……」
俺は龍二に対して普通に答える事だって出来るし震えも止まってるけど、まだ恐怖が残ってないわけじゃない。だから怯えてるのがバレないように、俺は龍二を強く睨みつけていた。
それなのに龍二は、そんな俺を見て何故か頬を染めるとため息をついたのだ。
「はぁ……その顔は反則だよ。直にそんな可愛くお願いされたらさ、ヒントを教えてあげたくなるだろ?」
「何言ってるのかよくわからないし、別に焦らさなくていいから。俺はただ早く教えて欲しいだけなんだけど……?」
「わかったわかった、俺の負けでいいよ。ほら、そこの収録現場が映ってるテレビあるだろ。それを見たらすぐにわかるよ?」
龍二に言われた通り、俺はテレビを見る。
そこにはFH Beastの2人が、力を合わせてミッションをクリアしてる所が映っていた。
「2人だけ? でもFH Beastの出番なのは間違いないのに何で……」
「うん。確かに今はFH Beastのターンだけど、全員参加の競技じゃなかったから俺は休憩中なんだ」
「で、でも仲間が頑張ってるなら応援しないとダメなんじゃ……?」
「大丈夫大丈夫。俺は次の準備って事で今は楽屋で着替えてる予定だし、まだ少し時間があるんだよ」
「いやいや、それなら尚更ダメだ。早く着替えにいけよ!」
「……ははっ、直は相変わらず真面目だね。でも俺は直のそういう所が可愛くて好きだな~。つい、いじめたくなっちゃうからさ」
不気味にニヤリと笑う龍二は、どうやら離れている事がもう耐えられないようで、俺に少しだけ近づいてきたのだ。
しかし俺は近づかれる恐怖よりも、今は違う事に緊張でドキドキしていた。何故なら今の俺は、背に回した手で携帯を操作していたのだ。
携帯を触ってるなんて絶対に龍二にバレる訳にはい。だから瞳は龍二を牽制しつつ、俺は全神経を指に集中させる。
……よし。ちゃんと見えてないけど着信とメッセージは残せたと思う。だから後は、助けが来るのを待つのにもう少し時間を稼げばいいだけだ。
「なぁ、龍二……。俺はさっき、それ以上近づくなって言ったよな?」
「うーん、直ったらまだ恥ずかしいのかな? もっと力抜いてもいいんだよ。……だって今日の俺は、ただ直を誘いに来ただけなんだからさ」
「俺を誘いに……?」
「ああ、そうだよ。でもその話をする前に、1つだけ確認しておきたい事があるんだけどさ~。……どうして直は、C*Fなんて2流アイドルのマネージャーをやってんのかな?」
俺はC*Fをバカにした龍二の言い方にムッとして、つい反論してしまう。
「今のは聞き捨てならないな、C*Fはもう1流アイドルだ。それにマネージャーをしてる事の何が悪いんだよ!?」
「別に1流だろうが2流だろうがどっちでもいいんだ。この際だからハッキリ言わせてもらうけど、直にはショボいアイドルのマネージャーなんて似合わないんだよ」
「なっ!? つまり龍二は、俺にマネージャーは向いてないからやめろって言いたいのか?」
「いや、違うよ。俺は直がマネージャーをやる事に反対するつもりはない。ただやるならさ、直は俺のマネージャーをした方が絶対に似合ってると思うんだ。つまり直には、俺の専属マネージャーになって欲しいんだよね~」
「…………は?」
龍二からの突然の勧誘に、俺はポカンと口をあけてしまったのだ。
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