39 / 57
光と俺
39、楽屋で
しおりを挟むグループ名が書いてあると言う事は、今日の収録には確実に龍二もいる───。
俺は前に会ったとき龍二に襲われかけた事を思い出してしまい、震えそうになる体を抱きしめた。
龍二は俺に嫌がらせする為、何故か俺に抱きついてきたりキスしようとしたり……何を考えているのか分からないとても怖い男だった。
……そうか。だから皆、俺を楽屋から出したくないと言ったのか……。だけどこんな事なら、あのとき帰りたいとしっかり言うべきだった。
そう思っても、もう遅い。
今の俺は一人で楽屋から出られない。ここから外に出たら、いつ龍二に遭遇するか分からないのだ。
くそ、奴さえいなければ俺も皆が頑張ってるところを見れかもしれないのに……。
そう龍二を恨めしく思っていると、突然俺の携帯が鳴り響いたのだ。
───いやまさか、そんなわけないよな?
龍二は俺の電話番号なんて知らない。
だから絶対に違う。
そう自分に言い聞かせて、俺はバクバクする心臓を押さえながら自分の携帯を手に取った。
落ち着け俺、龍二から電話がくるわけがないんだ……。
俺は深呼吸すると、恐る恐る携帯に出ているその名前を見る。
そこには……『火野元』と表示されていた。
その名前にホッとした俺は、ようやく通話ボタンを押したのだ。
『元だ。出るのが遅かったけど、何かあったか?』
「ううん、何もないよ。でも……電話が元からで、よかった」
『よかった……?』
「いや、こっちの話。俺……ちゃんと楽屋で大人しくしてたし、大丈夫だって……」
どうしよう、元と話してるのに声が震える。
お願いだ、電話越しだから誤魔化されてくれ。
そう思ったのに、元からは何の返事もなかった。
『…………』
これは、絶対に怪しまれてるよな……。
どうにか言い訳しようと思った俺は、とりあえず口を開く。
「元……本当に何もないし、大丈夫だから……」
『あー。いや、はっきりと言わせてもらうぜ。……直、声が震えてる。やっぱり何かあったんじゃないか? もしかして既に誰かが会いに来たとか……!?』
「いや、何もないよ! ただ、置いてある紙を見ちゃって……」
『あっ、しまった! そこに共演者リストを忘れちまったのか……直、悪かったな。別に秘密にしてたわけじゃねぇんだ。先に伝えたら直が一緒に来てくれない気がして何も言えなかった。凄く自分勝手で悪いとは思ってるんだけど、直にはなるべく俺の近くにいて欲しかったんだよ』
「……元」
本当は勝手に決めた事に対して文句の一つでも言いたかった。それなのに俺は、元の声を聞いてるだけで先程の恐怖がだいぶ和らいでいくのを感じてしまい、何も言い返せなかったのだ。
でもそれは元一人だけじゃなくて、皆が近くにいるから安心できたのだと思う。
もし今いる場所が車の中で収録に龍二がいる事を知っていたら、俺は終わるまでずっと震えていた筈だから……。
『あー、なんか柄でもない事言ったせいで周りがうるさくて悪いな。……お前ら、俺は直と話をしてるんだから静かにしろって』
電話の向こうから、光と優が『なに直ちゃん落とそうとしてんの!?』『元、変われ』なんて騒いでる声が聞こえてきて、俺はクスリと笑ってしまう。
『直、今笑ったか? よかった、少しは元気がでたみたいだな』
「うん、ありがとう。心配かけてごめん……」
『直は俺達の我儘でここにいるんだから謝るなよ。それと、もうすぐ本番が始まるから暫く連絡は出来なくなる。でも俺達全員で隙を見て確認するから、直はこまめに連絡しろよ?』
「うん、わかった」
『それとさっき確認したんだが……その部屋についてるテレビ、音は出ないが一応収録現場の一部が見れるらしいぜ』
「え、本当?」
「ああ、つけてみろよ」
俺は急いで備え付けのテレビをつける。
そしてチャンネルを変えていくと、パッと明るい部屋が映し出されたのだ。
収録現場にはきっと定点カメラが置いてあるのだろう。四人が俺に向けて手を振っていた。
「あ、見えた!」
『そうか、よかったぜ。流石に何時間も楽屋で暇させる訳にはいかねぇからな』
「なんか、気を使わせてごめん……」
『だから直が謝る事じゃないから。それよりも、直はそこで俺達の活躍を見ながら待っててくれよ!』
『直ちゃん、直ちゃん! 僕頑張って直ちゃんを笑かせにいくからね?』
『おい、光! 携帯を取ろうとするなって……』
電話越しに皆の声が聞こえてくる。それが凄く嬉しくて、俺は少しだけ収録が始まるのが楽しみになっていた。
「皆、収録頑張って。C*Fが爪痕残すのを楽しみにしてるから!」
そう言って電話を切ると、すぐにその収録は始まった。
その番組はゴールデンタイムの大人気バラエティ番組だった。二組のゲストチームがスポーツにトークや謎解き等、さまざまな事に挑戦して勝ち負けを競うのだ。
特に今回はスペシャル番のため勝ち抜き戦になっているようで、もしここで勝ち上がり爪痕を残せたらC*Fはさらに有名になるだろう。
そう思いながらテレビを見ていた俺は、ある人物を見つけてしまい固まった。
共演者リストを見たときから覚悟はしていた……だけど、なんでだ───?
どうして龍二はこっちを向いてるんだよ!?
もしかして龍二は俺がテレビ越しに収録現場を見てるのに気がついてるのか……?
俺は画面越しなのに龍二と目があった気がして、顔を背けてしまう。
落ち着け俺……実際に龍二と目があったわけじゃないし、画面越しならまだ耐えられる。それにカメラに映っている限り、あの男がここに現れる事はない。
だから画面にいてくれた方が安心できると自分に言い聞かせて、俺は改めてテレビを見る事にした。
そしてC*Fがいい感じに番組を盛り上げ始めた頃、いつのまにか俺は恐怖よりもメンバーの応援に熱中していた。
そのせいでこのときの俺は少し気が緩んでしまったのだと思う。
収録が始まってから1時間が経とうとしていた。
スペシャル番なので収録は今日だけではないとは思うけど、見ている感じでは順調に進んでいるようにみえる。
そして今の俺は凄く困った状態になっていた。
───どうしよう、凄く御手洗いに行きたい。
俺は遊園地から急いで帰ってきたせいで、ずっと御手洗いに行けてなかったのだ。
しかもこの控室には御手洗いはついていない。
だから御手洗いに行くには、ここを出るしかないわけで……。
絶対に出たらダメなのはわかってるけど、あと何時間もここで尿意を耐える方が無理だ。
そして必死に思考を巡らせた俺は、一つの策を思いついたのだ。
龍二がテレビに映ってる間にお手洗いに行けば鉢合わせる事はないだろう。
そうなると、あとは時間との勝負だった。
「丁度次は龍二のグループが挑戦するみたいだし、行くなら今しかない……!」
こうして俺はお手洗いに行くため必死に走った。
それはもう、久しぶりの全力疾走だった。
でもそのおかげなのか、俺は龍二と会う事なくお手洗いについたのだ。
後は楽屋に戻るだけだと、この時の俺は気分もスッキリして完全に気が抜けていたのだと思う。
だからC*Fの楽屋目前まで人がいる事に全く気がつかなかった俺は、その人物を見て驚いた。
「え、なんで……?」
俺の目には、何故か青山龍二が立っているように見えたのだ。しかも龍二はニタリと笑いながら俺に手を振っていた。
……嘘だろ、今の時間なら龍二は間違いなく収録中の筈なのに、どうしてこんな所にいるんだ?
まさか幻覚じゃないよなと、俺は何度も目を擦ったのにそこにいる龍二は消える事はなかった。
「……楽屋にいなかったのは驚いたけど、こうして待ち伏せしたのは正解だったね」
その声を聞いて龍二が本物だとようやく認識できた俺は、パニックをおこして逃げ出そうとした。
しかし慌てたせいで足がもつれた俺はすぐ龍二に腕を掴まれてしまい、恐怖で動けなくなっていた。
「どうして俺から逃げようとするのかな?」
「ひっ……」
ニヤリと笑う龍二は楽屋の扉を開けると、俺の腕を引いて一緒に中へと入ったのだ。
1
お気に入りに追加
694
あなたにおすすめの小説
双子攻略が難解すぎてもうやりたくない
はー
BL
※監禁、調教、ストーカーなどの表現があります。
22歳で死んでしまった俺はどうやら乙女ゲームの世界にストーカーとして転生したらしい。
脱ストーカーして少し遠くから傍観していたはずなのにこの双子は何で絡んでくるんだ!!
ストーカーされてた双子×ストーカー辞めたストーカー(転生者)の話
⭐︎登場人物⭐︎
元ストーカーくん(転生者)佐藤翔
主人公 一宮桜
攻略対象1 東雲春馬
攻略対象2 早乙女夏樹
攻略対象3 如月雪成(双子兄)
攻略対象4 如月雪 (双子弟)
元ストーカーくんの兄 佐藤明
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ある日、人気俳優の弟になりました。
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!
Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。
pixivの方でも、作品投稿始めました!
名前やアイコンは変わりません
主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
ある日、人気俳優の弟になりました。2
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる