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光と俺

37、約束

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 お昼ご飯を食べ終わった俺とひかるは、その後もお化け屋敷に行ったり観覧車に乗ったりと、遊園地を楽しんでいた。
 そして太陽が傾き始めた頃、アトラクションをほぼ制覇した事よりも俺を携帯で撮り続ける光の姿に疲れてしまい、俺は光に抗議の声をあげたのだ。

「光、もうそろそろ写真は恥ずかしいからやめてくれよ」
「だって恥ずかしがる直ちゃん可愛いんだもん~」
「ぜ、全然可愛くないって!」

 俺はこれ以上恥ずかしい事を言われたくなくて、顔を背けながら無理矢理話題を変えようとした。

「……そ、それよりも今何時だ?」
「えーっとね、今は15時だよ」
「えっ、もう15時!? 今日は夜から全員で出るバラエティ番組の収録があるから、17時までには局に入らないといけないのに……」
「そういえばそうだった! 直ちゃんといるのが楽しすぎて忘れるところだったよ~」
「なんで光はそんな呑気なんだよ!」

 今は15時だから、家に帰ってすぐに向かえばまだ間に合う時間だ。

「準備もあるんだから、もう帰らないと……」
「えー、まだ少しだけ時間あるでしょ? 僕もう少しだけなおちゃんと遊びたい!」

 俺は光の発言にピタリと固まってしまう。
 そして口からは、否定の言葉がぽろりと溢れてしまったのだ。

「……光、それはダメだ。プロとしての自覚があるのなら、発言には注意したほうがいい。光も今がC*Fにとってどれだけ大事な時期なのか、わかってる筈だよな?」
「ご、こめん……」

 今の俺はもう芸能人じゃない。だけどプロとしての意思だけは、心の中にずっと残っている。
 なによりC*Fは最近トップアイドルに名を連ねたばかりだ。つまりそれは少しの気の緩みでも簡単に落とされてしまうほど不安定なのだ。
 そして一度落ちれば没落はまでは一瞬だろう。
 だから光のためを思って俺も強く言ってしまったのだけど……。
 しょんぼりと俺の顔色を窺いながら謝る光に、なんだか罪悪感で胸が痛い。

「僕、遊園地に来たのが嬉しくて凄く浮かれてたかも……。でもそうだよね、こんな発言はプロとして失格だよね……ごめんね、直ちゃん」
「…………っ……」

 落ち込む光を見て少し厳しく言い過ぎたと反省しながらも、何故か俺はやり直す前の世界での光を思い出してしまったのだ。
 だって俺の目には今の光が出会ったばかりの、俺を憧れの目で見ていた頃の光と重なって見えてしまったのだから……。

 あの時の光はいつも俺に怒られて、しょんぼりと寂しそうな顔をしていた。しかし俺が何度冷たく当たっても、光はめげずに俺へと話しかけてきた。
 しかしその時の俺は光の事なんて全く興味がなかったので、優しく接した事も殆どなかった。
 そして気がつけば光は俺の話なんて全く聞かなくなり、俺を嫌うようになってしまったのだ。

 当時の俺は自分に絶対の自信があった。だからこそ傲慢で他人を見下しても許されると思っていた。
 今思えば調子に乗っていたし、あまりにも子供だったわけだ。
 そんな俺が嫌われるのは当前の事だし……きっと最初から何もかも間違っていたのだろう。
 だから俺は、もう同じ誤ちを繰り返したくない。
 ……つまり、今ここで光への好感度を下げるわけにはいかないのだ。

「光、謝らなくていいよ。俺は別に怒ってるわけじゃないから」
「……直ちゃん?」

 俺の名前を弱々しく呼んだ光は、まだ落ち込んでいるのか俺と目を合わせてくれなかった。
 ……ダメだ、これじゃまだ足りない。
 もっと光の気持ちに寄り添って考えないと……って、そうか目の前にいる光はまだ高校生なんだ。それならプロとはいえ、また遊び足りないのはしょうがない事だよな?
 高校生活を普通に終えた今の俺には、遊びに出かけたいという気持ちが少しは理解できるから……。
 そう思った俺は光にそっと手を伸ばしていた。

「実は恥ずかしくて言えなかったんだけど、俺も遊園地に来てだいぶ浮かれててさ。だから本当はもっと光と遊びたいんだよ」
「っえ? 直ちゃんも、僕と同じ気持ちなの?」
「うん、そうだよ。でも今の俺はマネージャーだから、光の仕事のほうを優先しないといけないんだ。だから今日は流石に無理だけどさ、また今度一緒に光と遊びに行きたいと思ってるんだけど……ダメかな?」

 頭を優しく撫でると、光はピクリと反応して俺を見た。その顔は驚きと嬉しさで口がポカンと開いていた。

「……もしかして、次の約束をしてくれるの?」
「うん。次も遊園地でもいいし……俺は光の好きな場所なら何処にでも着いて行くよ?」
「本当?」
「俺は光に嘘なんてつかないよ」
「そっか、凄く嬉しい……じゃあ、指切りしてもいい?」
「ゆ、指切り? 別にいいけど」
「じゃあ、もし直ちゃんが嘘ついたら鎖をつけて引きずってでも遊びに連れて行くからね?」

 なんか例えが怖い。だけど光は元気が出たみたいだし、まあいいか。
 ニコニコして俺を見ている光は、すでに小指を立てて待っている。
 その指に絡ませようと俺はそっと小指を差し出した。しかし待ちきれなかった光は、俺の小指を強引に絡ませたのだ。

「っ!?」
「はい、指切り!」
「全く、光はせっかちなんだから。慌てなくても大丈夫、俺はまた光と遊びに行くって約束するよ」
「…………ふふ、約束ね」

 嬉しそうにそう呟いた光は、小指をじーっと見つめるだけで何故か中々離してくれなかった。

「あの、光……? そろそろ指を離してもらわないと時間に間に合わなくなるんだけど」
「あ、ごめんごめん。できたらこのまま小指を繋いで帰りたいなー、なんて思っちゃってさ~!」
「いや、こんな人通りで流石にそれは……」
「わかってる~、でも勿体ないから少しだけ……」
「……へ?」

 光は絡めている小指を口元に持っていくと、俺の小指を唇に押し当てたのだ。
 それに驚いた俺は、咄嗟に小指を離して引き戻してしまう。

「な、何してるんだよ!?」
「直ちゃん、顔真っ赤にしてて可愛い~」
「もう、揶揄うなって!」
「揶揄ってないよ~、これは僕からの愛情表現! つまり僕は、直ちゃんともっと仲良くなりたいって言うこと」
「ん……? よくわかんないけど、仲良くなるってそういう事だっけ……?」

 友達がひとししかいない俺は、友好関係に疎い。だから光の言ってる事が正しいのか判断がつかなかったのだ。
 光がさらに懐いてくれたのは嬉しいけど、なんかスキンシップが激しくなったような……これが仲良くなるって事なのか?

「ねぇ、直ちゃん。帰らなくていいの?」
「そうだった、もう時間がないんだった!?」

 その事を思い出した俺は光の事はいったん置いて、とりあえず急いで家に帰る事にしたのだった。
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