37 / 57
光と俺
37、約束
しおりを挟むお昼ご飯を食べ終わった俺と光は、その後もお化け屋敷に行ったり観覧車に乗ったりと、遊園地を楽しんでいた。
そして太陽が傾き始めた頃、アトラクションをほぼ制覇した事よりも俺を携帯で撮り続ける光の姿に疲れてしまい、俺は光に抗議の声をあげたのだ。
「光、もうそろそろ写真は恥ずかしいからやめてくれよ」
「だって恥ずかしがる直ちゃん可愛いんだもん~」
「ぜ、全然可愛くないって!」
俺はこれ以上恥ずかしい事を言われたくなくて、顔を背けながら無理矢理話題を変えようとした。
「……そ、それよりも今何時だ?」
「えーっとね、今は15時だよ」
「えっ、もう15時!? 今日は夜から全員で出るバラエティ番組の収録があるから、17時までには局に入らないといけないのに……」
「そういえばそうだった! 直ちゃんといるのが楽しすぎて忘れるところだったよ~」
「なんで光はそんな呑気なんだよ!」
今は15時だから、家に帰ってすぐに向かえばまだ間に合う時間だ。
「準備もあるんだから、もう帰らないと……」
「えー、まだ少しだけ時間あるでしょ? 僕もう少しだけ直ちゃんと遊びたい!」
俺は光の発言にピタリと固まってしまう。
そして口からは、否定の言葉がぽろりと溢れてしまったのだ。
「……光、それはダメだ。プロとしての自覚があるのなら、発言には注意したほうがいい。光も今がC*Fにとってどれだけ大事な時期なのか、わかってる筈だよな?」
「ご、こめん……」
今の俺はもう芸能人じゃない。だけどプロとしての意思だけは、心の中にずっと残っている。
なによりC*Fは最近トップアイドルに名を連ねたばかりだ。つまりそれは少しの気の緩みでも簡単に落とされてしまうほど不安定なのだ。
そして一度落ちれば没落はまでは一瞬だろう。
だから光のためを思って俺も強く言ってしまったのだけど……。
しょんぼりと俺の顔色を窺いながら謝る光に、なんだか罪悪感で胸が痛い。
「僕、遊園地に来たのが嬉しくて凄く浮かれてたかも……。でもそうだよね、こんな発言はプロとして失格だよね……ごめんね、直ちゃん」
「…………っ……」
落ち込む光を見て少し厳しく言い過ぎたと反省しながらも、何故か俺はやり直す前の世界での光を思い出してしまったのだ。
だって俺の目には今の光が出会ったばかりの、俺を憧れの目で見ていた頃の光と重なって見えてしまったのだから……。
あの時の光はいつも俺に怒られて、しょんぼりと寂しそうな顔をしていた。しかし俺が何度冷たく当たっても、光はめげずに俺へと話しかけてきた。
しかしその時の俺は光の事なんて全く興味がなかったので、優しく接した事も殆どなかった。
そして気がつけば光は俺の話なんて全く聞かなくなり、俺を嫌うようになってしまったのだ。
当時の俺は自分に絶対の自信があった。だからこそ傲慢で他人を見下しても許されると思っていた。
今思えば調子に乗っていたし、あまりにも子供だったわけだ。
そんな俺が嫌われるのは当前の事だし……きっと最初から何もかも間違っていたのだろう。
だから俺は、もう同じ誤ちを繰り返したくない。
……つまり、今ここで光への好感度を下げるわけにはいかないのだ。
「光、謝らなくていいよ。俺は別に怒ってるわけじゃないから」
「……直ちゃん?」
俺の名前を弱々しく呼んだ光は、まだ落ち込んでいるのか俺と目を合わせてくれなかった。
……ダメだ、これじゃまだ足りない。
もっと光の気持ちに寄り添って考えないと……って、そうか目の前にいる光はまだ高校生なんだ。それならプロとはいえ、また遊び足りないのはしょうがない事だよな?
高校生活を普通に終えた今の俺には、遊びに出かけたいという気持ちが少しは理解できるから……。
そう思った俺は光にそっと手を伸ばしていた。
「実は恥ずかしくて言えなかったんだけど、俺も遊園地に来てだいぶ浮かれててさ。だから本当はもっと光と遊びたいんだよ」
「っえ? 直ちゃんも、僕と同じ気持ちなの?」
「うん、そうだよ。でも今の俺はマネージャーだから、光の仕事のほうを優先しないといけないんだ。だから今日は流石に無理だけどさ、また今度一緒に光と遊びに行きたいと思ってるんだけど……ダメかな?」
頭を優しく撫でると、光はピクリと反応して俺を見た。その顔は驚きと嬉しさで口がポカンと開いていた。
「……もしかして、次の約束をしてくれるの?」
「うん。次も遊園地でもいいし……俺は光の好きな場所なら何処にでも着いて行くよ?」
「本当?」
「俺は光に嘘なんてつかないよ」
「そっか、凄く嬉しい……じゃあ、指切りしてもいい?」
「ゆ、指切り? 別にいいけど」
「じゃあ、もし直ちゃんが嘘ついたら鎖をつけて引きずってでも遊びに連れて行くからね?」
なんか例えが怖い。だけど光は元気が出たみたいだし、まあいいか。
ニコニコして俺を見ている光は、すでに小指を立てて待っている。
その指に絡ませようと俺はそっと小指を差し出した。しかし待ちきれなかった光は、俺の小指を強引に絡ませたのだ。
「っ!?」
「はい、指切り!」
「全く、光はせっかちなんだから。慌てなくても大丈夫、俺はまた光と遊びに行くって約束するよ」
「…………ふふ、約束ね」
嬉しそうにそう呟いた光は、小指をじーっと見つめるだけで何故か中々離してくれなかった。
「あの、光……? そろそろ指を離してもらわないと時間に間に合わなくなるんだけど」
「あ、ごめんごめん。できたらこのまま小指を繋いで帰りたいなー、なんて思っちゃってさ~!」
「いや、こんな人通りで流石にそれは……」
「わかってる~、でも勿体ないから少しだけ……」
「……へ?」
光は絡めている小指を口元に持っていくと、俺の小指を唇に押し当てたのだ。
それに驚いた俺は、咄嗟に小指を離して引き戻してしまう。
「な、何してるんだよ!?」
「直ちゃん、顔真っ赤にしてて可愛い~」
「もう、揶揄うなって!」
「揶揄ってないよ~、これは僕からの愛情表現! つまり僕は、直ちゃんともっと仲良くなりたいって言うこと」
「ん……? よくわかんないけど、仲良くなるってそういう事だっけ……?」
友達が仁しかいない俺は、友好関係に疎い。だから光の言ってる事が正しいのか判断がつかなかったのだ。
光がさらに懐いてくれたのは嬉しいけど、なんかスキンシップが激しくなったような……これが仲良くなるって事なのか?
「ねぇ、直ちゃん。帰らなくていいの?」
「そうだった、もう時間がないんだった!?」
その事を思い出した俺は光の事はいったん置いて、とりあえず急いで家に帰る事にしたのだった。
2
お気に入りに追加
694
あなたにおすすめの小説
双子攻略が難解すぎてもうやりたくない
はー
BL
※監禁、調教、ストーカーなどの表現があります。
22歳で死んでしまった俺はどうやら乙女ゲームの世界にストーカーとして転生したらしい。
脱ストーカーして少し遠くから傍観していたはずなのにこの双子は何で絡んでくるんだ!!
ストーカーされてた双子×ストーカー辞めたストーカー(転生者)の話
⭐︎登場人物⭐︎
元ストーカーくん(転生者)佐藤翔
主人公 一宮桜
攻略対象1 東雲春馬
攻略対象2 早乙女夏樹
攻略対象3 如月雪成(双子兄)
攻略対象4 如月雪 (双子弟)
元ストーカーくんの兄 佐藤明
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
ある日、人気俳優の弟になりました。
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!
Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。
pixivの方でも、作品投稿始めました!
名前やアイコンは変わりません
主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
ある日、人気俳優の弟になりました。2
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる