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光と俺
35、遊園地
しおりを挟む俺は光と一緒に都内にある割と大きな遊園地に来ていた。
正直なところ、遊園地なんて初めて来た俺はだいぶ浮かれていると思う。
だけど今更はじめてなんて恥ずかしくて言えない俺は、その事がバレないように光が何処へ行きたいか聞く事にしたのだ。
「光は最初に行きたい場所とかあるのか?」
「えっと……ごめん、直ちゃん。本当なら僕がエスコートできたらよかったんだけど、遊園地って初めてだからどんなアトラクションがあるのかよくわかんなくて……。でも、できるなら僕は直ちゃんと一緒にこの遊園地を全部制覇したいな!」
「ぜ、全部!? このアトラクション数を全部は流石に無理かもしれないけど……とりあえず端から順番に行ってみるか?」
「うん、それでいいよ!」
こうして俺達は、本当に遊園地の端から順番に制覇を始めたのだった。
そして初めての遊園地を経験した俺は、絶叫系がダメな事をこの身を持って理解したのだ。
光にバレないようにしてるけど、これ以上連続で絶叫系に乗るのは無理かもしれない。
そう思った俺はフワフワして気持ち悪いのを何とかしようと空を見上げて、もう既に太陽が高い位置まで来ているのに気がついたのだ。
今は何時かと時計を確認すると、時刻はもう12時を過ぎていた。
「もうお昼頃だけど、どうする?」
「うーん、そうだな~」
少し悩んだ光は俺の顔をチラッと見ると、何故か俺の頬にそっと手を添えたのだ。
「あ、あの……光? 何か俺の顔についてる?」
「ううん、顔が青白くて心配になっただけ~」
「……え? そんなに言うほど白いかな」
「うん、真っ白過ぎて直ちゃんがすぐに倒れるじゃないかって、僕が心配になるぐらいにはね」
「ははは、そっかぁ……」
ああ、もう最悪だ。
これは完全に絶叫が苦手なのが光にバレてる。
そう思った俺は恥ずかしくなってしまい、光から目を逸らしてしまった。
光はそんな俺の頬を2、3度スリスリ撫でると、名残りおしそうにその手をゆっくりと離したのだ。
「うーん、僕は直ちゃんに休憩して欲しからな~。今の時間は混んでるかもしれないけど、もうお昼にしない?」
「……なんか気を使わせてごめんな。だけど光がそう言ってくれるのは凄く助かるよ。恥ずかしい事に俺はそろそろ限界だったから」
「別に直ちゃんが謝る必要もないし、寧ろ恥ずかしがる姿はもっと見たいかな……」
「……は?」
言われた言葉を理解できなくて、俺は凄くマヌケな顔をしてしまった。
それなのに、光は何故かそんな俺の酷い顔をパシャリと携帯で撮ったのだ。
「ひ、光? なんでこんなカッコ悪い顔を撮るんだよ!」
「え~、凄い可愛い顔してたから……つい。それと今の恥ずかしがってる顔も可愛いから撮っちゃおーっと!」
「お、おい。こんな顔撮るなって!」
俺は恥ずかしさのあまり手で顔を隠そうとして、その手を光に掴まれてしまったのだ。
「可愛い顔を隠したらダメだよ~? これは後で優君に送るんだから」
「ゆ、優に!? 頼む、こんなカッコよくないのは優に見せないでくれ!!」
優にだけはこんな姿を見られたくなくて、俺は手を合わせて光に懇願していた。
光はそんな俺の姿を見てさらに一枚写真を撮ると、突然ボソッと呟いたのだ。
「……でも、この可愛い直ちゃんを他の人に見せるのはもったいないかもしれない……」
「へ?」
「うん、コレは僕のお気に入りにして……優君にはキメ顔してる直ちゃんだけ見せる事にするね!」
「光……ありがとう!」
お気に入りとかはよくわからないけど、とりあえず優に恥ずかしがってる写真を見られなければそれでいい。
そう思いながら、俺はホッとため息をついてしまったのだ。
そして携帯をしまった光は、思い出したように言った。
「そうだ、お昼ご飯をどうしようかって話の途中だったよね」
「あ、そうだった。早く行かないとさらに混んでくるよな……。光は食べたい物とかある?」
「うーん、そうだな~。乗り物は僕が選んだから、お昼ご飯は直ちゃんが好きな物を選んでいいよ?」
「え、俺が選ぶのか……これは責任重大だな。えーっと、お昼を食べるなら光の事がバレないように個室の方がいいし……そんなレストランはこの遊園地にあったっけ?」
俺はパンフレットを開いて、食事処の一覧を確認する。
割と大きな遊園地なだけあって食事処の種類は和洋中と豊富で、個室がある場所も書かれていた。
そんな中、俺が目を止めたのは中華料理のお店だった。
光は辛い物が好きなはずだし、個室もある。ここなら丁度いいかもしれない。
そう思いながら、俺はパンフレットを光に見えるように開いたのだ。
「この中華料理屋なんてどうかな? 確か光は辛い物が好きだったよね?」
「……え? どうして直ちゃんがその事を知ってるの? 僕、雑誌とかだと好きな物は甘い物って答えてるのに……」
ギクッ。
そういえば俺がその事を知ったのは、前の世界で光から直接聞いたからだった。
つまり、今の俺がそれを知っている事自体がもの凄く変だ。
そう思った俺はつい目を逸らしながら、一生懸命言い訳を考えていた。
「えーっと、それはだな……恥ずかしいから言いたくなかったんだけど、実は他のメンバーから少しだけ光の事を先に聞いておいたんだ」
「………………」
何も言ってこない光に、流石に今の発言は怪しまれただろうかと心配になった俺は、チラリと光を見て驚いた。
光は目を見開きながら、何故か顔を真っ赤にして俺を見ていたのだ。
「あの、光……顔が赤いけど大丈夫か?」
「ご、ごめん。まさか直ちゃんが、僕の事を知ろうとしてくれるなんて思ってなかったから。なんでだろう、凄く照れちゃって……。でも別に嫌なわけじゃないからね。どちらかというとすっごく嬉しい。ありがとう、直ちゃん!」
光は満面の笑顔で本当に嬉しそうだった。
だけど俺はその純粋な瞳を真っ直ぐ受け止められなくて、また目を逸らしてしまう。
だって本当の理由が理由なだけに、後ろめたさがあったのだから仕方がない。
「と、とにかく時間がもったいないし早く食べに行こう!」
「うん!」
こうして俺達は遊園地の中央にある中華料理屋に向かったのだっだ。
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