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光と俺
34、光のお願い
しおりを挟む優と元は二人を起こしてしまった事を流石に悪いと思ったのか、歪み合うのをすぐにやめた。
そして俺は、今がチャンスだと皆を椅子へと誘導する為に声をかけたのだ。
「こうして全員集まったんだし、少し早いけど朝食にしよう。ほら皆、座って座って!」
そう言いながら俺は一人ずつ背中を押して椅子に無理矢理座らせて行く。
そしてコッソリ俺は、夜と光がいる食卓側の一番端の席へと座る事に成功した。
そのせいで優が何か文句を言いたそうにこちらを見ていたのだけど、俺はそれを見ないふりをして早速ご飯を食べ始めたのだった。
「はぁ……」
確かにご飯は美味しいのだけど、何故かため息が出てしまう。
そんな俺を光が心配そうにじっと見ていた。
「直ちゃん二人に取りあわれて大変だね」
「え……いや、別に取り合われるとかそんなんじゃないから」
「そうは見えないけどな~?」
「本当にそんなんじゃないって……」
その瞳は明らかに俺の話を信じてないと言っていた。
もしかして光は、優と元が俺に告白した事に気がついてたりしないよな……?
「もしも、もしもだけど二人に何かされたら僕か夜君に言ってね」
「……光の言う通りだよ。直に何かあれば、俺はすぐに助けに行くから……」
「……二人とも、そう言ってくれてありがとう。その気持ちだけでも凄く嬉しいよ」
さっきまで凄くギスギスした所にいたからなのか、二人の優しさが身に染みる……。
それにしてもあの二人、光と夜からあまり信用されてないのだろうか?
俺はそんな優と元が気になってチラリと見てしまい、それをすぐに後悔した。だって二人は無言で俺を見ながらご飯を食べていたのだ。
絶対に目があってるし、今の話聞こえてたよね?
そう思っていると、やはり話が聞こえていたらしい元が文句を言い始めたのだ。
「お前ら、こっちまで聞こえてるのに好き放題いいやがって……直にある事ない事吹き込むなよな」
「だって~、そう言った方が直ちゃんの好感度が上がるでしょ?」
「……えっ!?」
俺はその発言か理解できなくて、驚きのあまり光を二度見していた。
「光……お前本当に腹黒だな」
「もう、優君までそんな事言わないでよ~。それに僕は腹黒じゃなくて、あざと可愛いの! 腹黒だったらこんな事、素直に言わないでしょ?」
「あざといは、自分で言う事じゃねぇだろ?」
「全く、元の言う通りだな……光は全くあざとくない」
そう言ってため息をつく二人を見て、俺は気が付いた。
さっきまであんなにも空気が悪かったのに、今はもう穏やかな空気が流れはじめていたのだ。
もしかしてコレは光のおかげなのか……?
しかし当の光は気が付いていないのか、何故か少し不安そうな顔をして俺をじっと見ていたのだ。
「直ちゃん、二人がいじめてくるよ~! でも、もしかして直ちゃんも僕の事腹黒って思ってたりするの?」
「えっと……その……」
俺はやり直す前の世界で、光の腹黒さを存分に味わっていた。だから俺はすぐに上手い言葉が出てこなかった。
だけど俺は変に怪しまれたくなくて、無理矢理話を変えてしまったのだ。
「そ、そんな事よりもこうして場を和ませられる光は凄いと思うんだけど……?」
「……あれ、本当だ。いつのまにか空気が重くなくなってる! もしかして、僕って凄い?」
「うん、光は凄いよ」
俺の返答に光は嬉しそうに微笑むと、突然何か思い出したように言ったのだ。
「あ、そうだ! この空気なら聞けそうだから聞くけど、直ちゃんって今日学校は休み?」
「えっと、土曜だから休みだけど……何かあるのか?」
「それなら丁度よかった! 僕も夕方までは仕事がないから、一緒に何処かお出かけしない?」
「「「は?」」」
光の言葉に何故か俺を含めた全員が驚いていた。
正直俺としては、最近色々あって疲れていたので気分転換にお出かけもいいかな、なんて思ったのだけど……やっぱり、その話を簡単に許してくれない奴らがいた。
「光!? 直と二人で出かけるとか羨ましい……。それ以前に俺はそんな事、絶対に許可できない」
「優……お前本音が漏れてるぜ? だが俺からも光に一言だけ言わせてもらう。直は今日も誰かの現場についてって貰う予定だから、別にオフなわけじゃないぜ?」
思った通り俺の休暇計画を邪魔したのは、優と元の二人だった。
だけど二人の話を聞いても、光は全く引き下がらなかったのだ。
「えー、今の直ちゃんは現場に行った所で車待機なんだから、絶対にいないとダメなんて事はないでしょ? それに昨日は元君が直ちゃん独占してたじゃんか~!」
「独占って言われてもよ、それはマネージャーとしてついて来てもらっただけで……」
「それでもずっと一緒にいたんでしょ、それってずるくな~い? それに今日は確か、皆朝から仕事だった筈だし……だから今日ぐらい僕が直ちゃんを独占してもいい筈だよね。それとも二人は直ちゃんを独占出来る理由でもあるの~?」
光の畳みかけるような問いに、二人は上手く答えられないのか視線を逸らしていた。
「いや、それは……」
「確かにねぇけどよ……」
「それなら、直ちゃんと出かけてもいいよね?」
光は両手を合わせて、二人に上目遣いで可愛くお願いしていた。
あんな純粋な瞳に見られたら、断れる奴がいるわけがない。
実際、俺はあの目に負けてマネージャーになったぐらいだしな……。
「……わかった、仕方ないな。今回だけだぜ?」
「元、何勝手に決めて……!」
「優君、おねが~い! 大事なお兄さんを1日だけ貸してもらえない? 僕は絶対に直ちゃんに何もしないよ。ほら、僕の澄んだ瞳を見てよ……優君は僕の事信用できないかな?」
「……わ、わかったから、その鬱陶しい瞳をこっちに向けてくるな。そのかわり……二人で出かけるなら、直の写真を100枚ぐらい頼む」
「ひゃ、ひゃく??」
突然変な事を言い出した優に、俺は口をパクパクさせてしまう。
そんな俺を無視して、光は親指をグッと突き立てると楽しそうに返事をしたのだ。
「わかった、それぐらいなら任せてよ! 直ちゃんの最高に可愛い写真を沢山撮ってくるからね」
こうして二人はあっけなく、俺と光が出かける事に許可を出したのだ。
しかし心配性な二人は、その後もうるさかった。
「いいか、光は目立つんだから絶対にバレないようにしろよ?」
「特に今回は直もいるんだ。直が俺達のマネージャーだと世間的にバレたら、マネージャーを続けられない可能性もある。だからしっかり変装してからいくんだ、わかったな」
「わかってるよ! もう、二人とも心配性なんだからー。とりあえず直ちゃん、こんな二人は放っておいてどこに行くか早く決めよう!」
そして光は少しだけ悩んだ末に、言った。
「そうだ! 僕、誰かと行くなら遊園地に一度行ってみたいと思ってたんだ~」
「えっ、遊園地は流石に目立つような……」
「大丈夫大丈夫、皆遊園地に夢中で僕らの事なんて見てないって!」
確かにそうかもしれない……?
そう思いながら俺は、光と遊園地へと行く事を決めたのだ。
正直な話、俺も遊園地なんてやり直す前の世界でも行ったことが無かった。
だから凄く楽しみで、少し浮かれてる俺がそこにいたのだった。
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