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元と俺
28、引き寄せられて
しおりを挟む唖然とするユノさんの手を離した元は、俺の肩を抱き寄せながら言った。
「お前は俺のモノなんだから、簡単に人に触られそうなにるんじゃねぇよ……」
「……は?」
突然何を言い出すのかと、俺はポカンとしてしまう。
そして元の言葉を聞いていたスタッフが、周りでキャーキャーと騒ぎ出したのだ。
「ねぇねぇ、俺の物って一体どう言う事かしら?」
「やだぁ、そのままの意味じゃないの~」
元は俺の事を単に奴隷としか見ていないので、そのままの意味なんかじゃ絶対にない。
それなのに、どうやらユノさんまで俺達の事を勘違いし始めたのだ。
「あらあら、まあまあ。ごめんなさいね、まさか二人がそんな関係だったとは知らなくて……」
「ち、違います! 俺と元はそんな関係じゃ!?」
「そんな恥ずかしがらなくてもいいのよ~。性別の壁なんて関係ないし、こう見ると二人ともお似合いだわ!」
「だから、本当に違うんですってば!」
元に肩を抱かれたまま言ってるせいなのか全然信じてもらえなくて、俺は凄く焦っていた。
このままだと俺と元が付き合ってるという、ありもしない噂が広まる可能性がある。だから俺はこうなったのは全部お前のせいだと、元をキッと睨みつけた。
それなのに何か考え事をしていた元はハッと俺の視線に気がつくと、慌てて手を離しながら俺達の事を否定したのだ。
「申し訳ないですけど、直の言う通り俺達は別に付き合ってないですよ。どうやら俺の言い方のせいで皆さんを勘違いさせてしまったようですね」
「え~、それなら二人が恋人同士というのも完全に私の勘違いって事かしら?」
「ええ、俺達は本当に恋人とかそんな関係じゃありませんよ。なにより直はC*Fの大事なマネージャーなので、俺のモノと言うより俺達全員のモノだと言えますかね。それに直を大事に扱わないと怒るメンバーが一人だけいるんで……だからコイツには、あまりちょっかいをかけないで貰えると助かります」
今の話でスタッフさん達も納得してくれたのか、俺達の誤解は解けたと思う。
だけど元の話に出てきたすぐに怒るメンバーっていうのは優の筈で……そんな話をしたら今度は優に変な噂が流れるんじゃないのか?
そう思った俺は、すぐに元へと耳打ちをした。
「元、メンバーの事をそんなふうに言っても大丈夫なのか?」
「それなら大丈夫だと思うぜ。どうせ皆、そのメンバーが優だとすぐに気づく筈だからな」
「いや、優だから大丈夫っていう意味がわからないんだけど……?」
「俺はアイツにブラコンって噂が流れたところで問題ないと判断したんだよ。寧ろあの完璧野郎のこんなマイナス面を知ってしまったんだから、積極的に噂を流して少しでも嫌がらせしねぇとな」
「お前……」
馬鹿だろ、俺はそう言ってやりたかった。
だって完璧人間が持つマイナス面って、ギャップがあって可愛いと好意的に捉える女性の方が多い気がするんだよな……だから元が思ってる効果はない筈だ。
そう思っていると、周りのスタッフが同じような事をヒソヒソ話してるのが聞こえてきたのだ。
「Cronus*Fantazumaで風間直を心配しそうなのって、一人しかいないわよね?」
「えー、誰よ?」
「ほら風間直と風間優って……」
「そっか二人って兄弟だったわよね」
「って、事はつまり……優君は超ブラコンって事じゃない?」
「マジ~? 凄く意外だけど優君がお兄ちゃん大好きなんて、可愛いところあるのね!」
なんて既に優の株が爆上がりしているようだった。
その反応に思った評価と違ったからなのか、元は少しムッとすると何故か俺を抱きしめたのだ。
「おい、元!? さっき誤解を解いたばかりなのに、なんでこんな事するんだよ!」
「……俺にもわからねぇ。ただお前と優の話が盛りあがってるのを聞いてたら、なんか無性に腹が立ってきた」
「はぁ? 変な八つ当たりの仕方はやめろ!」
突然抱きしめたりするから、ヒソヒソ話してたお姉様方が凄くこっちをガン見してるじゃん!
俺は早く離して欲しいのに、元は俺達を見ているスタッフに聞こえるように言ったのだ。
「色々妄想するのは構いませんけど、憶測で好き勝手変な噂を流すのはやめて下さいよ?」
元は騒いでるスタッフに向けてニコリと笑った。
その瞬間、女性達は皆顔を真っ赤にして黙ってしまったのだ。
これが男の色気なのか……?
なんて俺が思っていると、唯一平気そうなユノさんが頷きながら元に返事を返したのだ。
「……そうよねぇ、確かに元君の言う通りだわ~、今はどんな事がスキャンダルに繋がるかわからないんだもの。皆、今日の話はここのスタジオ内で完結させるのよ~」
ユノさんはこの撮影のまとめ役もしているのか、ヒソヒソと喋っていた女性スタッフ達に釘をしっかり刺していた。
「変に気を使わせてしまったようですみません。ですがユノさんも、あまり直の事は言いふらさないでもらえると助かります」
「あら~、直君はマネージャーなのに?」
「伝説の子役がマネージャーをしてるって事が変に広まったら、直は俺達のマネージャーが出来なくなるかもしれませんから……そうなったら困るのは俺達です」
その話にユノさんは元と俺を交互に見ると、何かを納得して頷いたのだ。
なんだかユノさんは、絶対に勘違いしてると思うんだけど……大丈夫だろうか?
「ええ、わかったわ~。元君はこんなにも可愛い直君が芸能界に取られる可能性を心配しているのよね?」
「そんな感じです。だって直は俺達にとって、とても大切なマネージャーですからね」
そう言いながら元は、俺を更にギュッと強く抱きしめたのだ。
だけど俺には、どうして元がこんな誤解を生むような事をしてくるのか全く理解が出来なかった。
しかも俺から離れた元は何事もなかったように撮影に戻っていったせいで、俺は更に困惑したのだった。
その後、不思議な事に俺に話しかけて来る人は誰も居なくなっていた。
だけど周りからは凄く優しい瞳で見守られてる気がして、俺は少し居心地が悪かったのだ。
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