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元と俺
27、お世話になった人
しおりを挟むいきなり抱きしめられた俺は驚いていた。
「……は、元?」
「ありがとな。直のおかげて凄く自信ついた」
「そ、それはよかったけど……元、ここで抱きつくのはやめて欲しいかな?」
人目があまりない隅の方にいるとはいえ、ここはスタジオ内なのだから変な目で見られても困る。
「わ、悪い……なんか無意識だった。でも、なんで俺は直を抱きしめたんだろうな……?」
「は? それは俺が聞きたいんだけど?」
俺をすぐに離してくれた元は、何故か俺より驚いているようだった。
その姿に俺も困惑してると、撮影を再会するのか元を探すスタッフの声が聞こえてきたのだ。
「ごめん、とりあえず戻らないといけねぇから。それと直は引き続き俺だけを見てればいいからな」
元は何故か俺の顔を見ずにそう言うと、急いで撮影に戻って行ったのだ。
正直、抱きしめられた理由はよくわからかったけど、元のやる気がでたのならマネージャーとしてはいい事をしたのだろうか?
そう疑問に思いつつ、俺は再び元に熱視線を送ってしまったのだ。
やっぱり撮影している最中の元はかっこいい。
だから服装が変わるたびにどんな姿を見せてくれるのかと、ドキドキしてしまう。
完全に今の俺はファン目線で、元を見ていた。
それなのに先程からたまに目があうせいで、元がまた俺に向けてポーズを決めてるように思えてしまうのだ。
……もしかして俺って自意識過剰なのかな?
なんだか凄く恥ずかしくなってきた俺は、元から視線を逸らしていた。
そして顔が赤くなってないか気になった俺は、鏡を探す為に周りを見回した。
そういえばメイクさんの所に簡易的な等身大鏡があった気がする。申し訳ないけど少し後ろから確認させてもらおう……。
そう思いながら鏡の所まで移動した俺は、自分の顔をマジマジと見ていた。
確かに顔は少し赤いけど、このスタジオは現在撮影中なので今は結構暗い。これならきっと誰にもバレないだろうと、俺はホッとしたところで気がついた。
そういえば俺は勝手にここまで来てしまった。
だから元に怒られるかもしれないと、俺は慌てて戻ろうとした。
その時、後ろから誰かの視線を感じだ俺はすぐに後ろを振り向いた。そこにはじーっと俺を見ている派手な人がいて、俺は驚いてしまう。
メイクはバッチだし、足はスレンダー。
だけどガタイがいいその人は、よく見ると子役時代にお世話になったメイクのYUNOMIYAさんだった。
因みにユノミヤさんはメイク会ではかなりの有名人だった筈で、まだ事務所との繋がりが残っていた事に俺は少し嬉しく思ってしまう。
そんなユノミヤさんは俺に近づいてくると、手を振りながら笑顔で喋りかけてきたのだ。
「あらぁ~、さっきは忙しく挨拶できなかったのだけど、名前が聞こえてきたからもしかしてと気になってたのよ。やっぱり本物の直君だったのねぇ~」
どうやらユノミヤさんは俺の事を覚えくれていたらしい。
確かにオネエ口調で変わってるとは思うけど、とても優しい人だったので俺は凄く懐いていた記憶がある。
「ユノミヤさんお久しぶりです、子供の頃はとてもお世話になりました」
「ふふ、そうかもしれないわね~。それと、私の事はユノって呼んで頂戴って言ってたでしょ?」
「ユノさん……そうでしたね」
「それにしてもあの小さかった直君がこんなにも成長するなんて、驚いちゃったわ~」
「確かに、当時は平均身長よりもだいぶ小さかったですからね……」
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「それで今の年齢はいくつなの?」
「今年で19になります」
「あらぁ、もう来年には成人しちゃうのね~。時の流れが早くて本当に嫌だけど、でもこうして成長した姿が見れてよかったわ。だって直君ったらいきなり引退したんだもの、凄く驚いちゃったのよ~?」
「確かにそうですよね……でも芸能界を辞めたのは、俺の中でココが限界かなって思ったので……」
やり直す前の世界でも実際に俺のピークは子役時代だったのだから、ある意味間違ってはいないだろう。
「まだ若いのに限界なんて早すぎるわよ。それに病気とかじゃなくて本当に良かったわ~」
「心配をおかけしてすみません……でもこの通り凄く健康体なので安心して下さい。それに俺は今、普通に大学へ通ってるんですよ」
「現役大学生なのね~、そういえばさっきC*Fのマネージャーもやってるって言ってたけど、やっぱり芸能界にはもう戻って来ないのかしら?」
どうやら皆、俺の事で1番気になるのはそこなのかと少しウンザリしてしまう。
だけどそれを顔に出さないように、俺は笑顔で答えた。
「ええ、復帰するつもりは全くないですね。俺は今の生活が充実していて好きなんです」
「えー、でも勿体ないわよ~! こんなに美人で可愛いまま育ったんだもの!」
「か、可愛い……?」
俺が美人だというのは、自分でもわかってる。
だけどもしかして俺ってカッコいい系じゃなくて可愛い系だったのか……?
「ええ、そうよ~。直君は今も割と小さくて可愛いし抱きしめちゃいたいわ!」
「あの、すみません。それは遠慮しておきます」
「でもさっき相田副社長が言ってたきがするけど、直君もモデルをやれば凄く似合うと思うわよ。だけどそうねぇ~、やっぱりそのルックスを活かすならアイドルの方がピッタリなんじゃないかしら!?」
「え……?」
まさかピンポイントで『アイドル』と言われると思っていなかった俺は、胸がズキンと痛くなった。
「い、いえ……すみません。アイドルは、俺に向いていないので……」
「そんな事言わずに~、それにもし復帰したら私が専属でついてあげても良いわよ?」
ユノさんは間違いなく親切心で言ってくれてるのは凄くわかる。だけど今の俺は芸能界に戻る事は絶対にできない。
また、あんな事にはなりたくないから……。
「あら、ごめんなさい。夢中になって喋っていたけど直君、顔が真っ青よ。もしかして体調が悪いのかしら?」
そう言うと、ユノさんは凄く心配そうに俺のおでこへと手を伸ばした。
しかしその手は俺に届くことはなかった。
それは、何故か突然現れた元がその手を掴んでいたからだ。
「すみませんが……コイツに触れるのは、やめてもらえませんかね?」
えーっと、どうして撮影中の元がここに……?
そう思いながら俺は、目の前にいる元を見て首を傾げてしまったのだ。
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