26 / 57
元と俺
26、世界一カッコいい男に
しおりを挟む副社長との挨拶をなんとか終わらせた俺は今、メイクをする元を横で見ていた。
元は彫りが深いから、メイクをすると不思議な色気がでるのだ。
他のメンバーにはない、これが大人の色気ってやつなんだと……童顔な俺とは正反対で正直な話、少し羨ましかった。
そんな事を考えていると、いつのまにかメイクが終わった元が俺を覗き込んでいた。
「直、何考えてんだ?」
「っ!?」
突然声をかけられたせいで肩をビクッと跳ねさせた俺を見て、元はおかしそうに笑っていた。
「くく……ごめんごめん。そんなに驚くなんて思ってなかったからさ」
「別に何も考えてない……ってか、顔が近くないか?」
カッコいいと思っていた顔が目の前にあって、俺は何だか恥ずかしくなってしまい顔を逸らしてしまう。
「わるいな、直が俺に見惚れる所が見たくてな」
「……は?」
「くく……本気にするなよ」
「な、何だよ。俺を揶揄っただけか……」
「それもあるけどさ、直に言いたい事があったのは事実だぜ?」
元は俺の耳元に近づくと、小声で言ったのだ。
「今から撮影で離れるけど、変な奴に話しかけられても出来るだけ無視しろよ? 撮影中は俺に熱視線だけ送ってればいいんだからな」
元は俺にウィンクを飛ばすと、そのまま撮影に向かったのだ。
そして撮影中、俺はずっと元から目が離せなくなっていた。
カシャカシヤとシャッターを切る音がする度に、その存在感に引き込まれてしまう。
撮影中の元はどうみても別人みたいだったのだ。
きっと元のこの姿しか見た事がなかったから、男の俺でも元に惚れていたかもしれない。そう考えるとC*Fの中で、元だけ男性人気も高いのも頷ける。
それに元のカッコいい所が筋肉からきてるのだとしたら……俺も筋トレしをたら元みたいになれるかもしれないよな?
なんて俺が真剣に考えている間に休憩に入っていたのか、何故か元は一直線に俺の所まで戻って来たのだ。
「直、撮影中ずっと俺を見てただろ。凄い熱視線を感じだから俺も張り切って直の為にポーズを決めてたんだぜ?」
「……俺の為?」
「ああ、直だって子役時代にモデルの仕事をした事ぐらいあるだろ? だから直の前で恥ずかしいカッコは出来ないなと思ってな」
真面目な顔で言う元は、真剣にモデルに打ち込んでいるのだろう。
だけど俺は子役時代もやり直す前のアイドル時代も、実はモデルの仕事をそんなにやっていない。
それなのに俺の感想を待っている元にそんな事いえるわけがなくて、俺はとりあえず本当にただ思った事を伝えたのだ。
「元は服を魅力的に見せるのが上手いと思う。何よりも元自身に人の目を惹きつける才能があるよ!」
だから俺も元から目を逸らせなかったわけなんだけど……流石にそんな事、恥ずかしくて言えるわけがないよな。
俺がそう思っていると、元は何か納得したのか頷いていた。
「そうか、人の目を惹きつける才能か……それは優よりも上なのか?」
何故そこで優の名前が出てくるのだろうかと、俺は首を傾げながら考えていた。
元は男らしいカッコ良さで惹きつけられるし、優は謎の色気で惹きつけられるのだ。
「うーん、そうだな。二人とも違う魅力があると思うけど……今はまだ見られる事を意識している元の方が、その能力は高いと思う」
「そうか……直から見たら俺のが勝ってるんだな」
凄く嬉しそうにグッと握り拳をつくった元は、優に物凄く対抗意識を持っているようだった。
「元、それは今だけだからな……もし優が自分から意識し始めたら、どうなるかわからないよ?」
「なら俺は、優に追いつかれないように頑張るだけだぜ?」
元が熱い所があるのは知っていた。
だけどそれなら、何であんな性格が悪いのかと俺は疑問に思ってしまったのだ。
「……そんな真っ直ぐな対抗意識を持ってる癖に、何で優に嫌がらせをするんだよ?」
「嫌がらせは俺の趣味だからな。でもそれはオフの時しかしないと俺は決めているんだ。だからアイドル中の俺は、正々堂々と勝負してるつもりだぜ?」
思い返してみると、確かにそれは元の言う通りだった。
それはつまり仕事で真剣勝負をするような元が、スキャンダルで俺を陥れる可能性は低いと言う事にならないか……?
俺がそう悩んでいると、突然元の手が俺の頬に触れたので驚いてしまう。しかも元は俺を見つめると、頬を親指でスリスリしながら言ったのだ。
「お前には言っておくが……俺はズルなんてせずに、自分の実力だけで優よりも上になりたいんだ。そしていつか俺は、C*Fのセンターを優から奪ってやる。だから直も、俺をしっかり見ていてくれよ!」
元のその真っ直ぐな姿はとてもカッコよくて、つい俺はそれが口から溢れていた。
「元って、凄くカッコいいんだな……」
「何言ってんだ、そんなの今更だろ?」
俺は返事が返ってきた事にとても驚いてしまう。
そして俺は気がついたのだ。
「も、もしかして今の声に出てた!?」
「バッチリ出てたけど……もしかして俺があまりにもカッコいいからポロッと出たのか?」
「そ、そんなわけないだろ!」
俺は恥ずかしさのあまり顔を手で隠してしまう。
だって今の俺は顔が赤くなってる自信があるのだ、そんなの元に見られたら絶対に揶揄われるに決まってる。
そう思っていたのに、何故か元は俺の頭を軽く撫で始めたのだ。
「俺の事、カッコいいって言ってくれて嬉しいぜ。ありがとな、直」
「……元?」
何故か元は、突然真面目なトーンで言った。
その事が気になってしまった俺は、指の隙間から元を見てしまう。
「俺はさ、誰よりもカッコいい男を目指してるんだ。だから直に素直に『カッコいい』って言ってもらえて凄く嬉しかったんだぜ? それに……もしかしたら直にも笑われるかもしれねぇんだけど、俺は本気でモデル界の頂点を目指してるんだ。こんな事を俺が言うのは少し変か?」
元の顔は少し不安そうで、その事に驚いたのは俺だった。
だって元の夢なんて初めて聞いたし、こんな弱気な姿も初めて見たのだ。
さっきまであんなにもカッコ良かったのに、そのギャップに俺はキュンっとしてしまう。
いやまて、何でキュンってしてるんだ俺は……元の疑惑はまだ完全に晴れた訳じゃないんだぞ。
そう思うのに、今の俺は元なら絶対に出来る! そう強く思ってしまったのだ。
「お、俺は……元なら絶対に世界一カッコいい男になれるって、思うけどな」
「なぁ、直……顔を隠されたままだと、本気で言われてる気がしないんだけど?」
その事にムッとした俺はまだ少し赤い顔を晒して、この熱い気持ちを元にぶつけていた。
「お、俺は本気で元なら出来るって思ってるよ! 元は俺から見てもかっこいいし、絶対に世界で一番カッコいいモデルになれる! それに俺もマネージャーとして、元の魅力を引き出す為の手伝いをしてやるよ。だから一緒に頑張ろうな、元!」
言い切った俺は、完全に笑顔になっていた。
そんな俺を見た元は目を見開くと、何故か固まってしまったのだ。
「あれ……は、元? 俺、変な事言ったか?」
「いや、直の言葉に少し驚いただけだ。今までのマネージャーはお前にはモデルよりも筋肉があるんだから、バラエティの方が向いてるとしか言わなかったからな……」
「はぁ!? 何だよそのクソなマネージャー、元の良さを全然わかってないじゃん。筋肉があるからこそ元のスタイルの良さが際立つのに……だから絶対に元はモデルの方があってるよ!!」
「直……そうだよな、俺は何も間違ってなかったんだよな」
そう言いながら微笑んだ元は、何故か突然俺を抱きしめたのだ。
3
お気に入りに追加
701
あなたにおすすめの小説

ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
学園の天使は今日も嘘を吐く
まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」
家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア

弟は僕の名前を知らないらしい。
いちの瀬
BL
ずっと、居ないものとして扱われてきた。
父にも、母にも、弟にさえも。
そう思っていたけど、まず弟は僕の存在を知らなかったみたいだ。
シリアスかと思いきやガチガチのただのほのぼの男子高校生の戯れです。
BLなのかもわからないような男子高校生のふざけあいが苦手な方はご遠慮ください。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる