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弟と俺

20、一緒に寝る?

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 嫌な事を忘れたくて早めにベッドに入った俺は、中々眠れなくて困っていた。
 目を瞑るとどうしても龍二りゅうじの事を思い出してしまい、俺はまた体が震え始めてしまったのだ。
 俺、こんな状態で眠れるのかな……もしダメそうだったら、一度ひとしに相談してみようかな……?
 俺がそう悩んでいると、扉をノックする音が聞こえてきたのだ。

「俺だ、まだ起きてるか?」

 その低めの声は、どう聞いてもゆうだった。
 俺は先程、優が元と言い合いをしていたのを思い出して、一瞬開けるべきか迷ってしまう。
 だけど今は誰か側にいて欲しくて、俺はその扉を開けたのだ。

「優……こんな時間にどうしたんだ? もしかしてさっき勝手に部屋に戻った事……怒ってる?」
「別にその事は怒ってない。それにはじめとの会話は最後まで平行線だった。だから、なおに無駄な時間をとらせなくてよかったと思ってる」
「そ、そうなのか。じゃあそれなら、俺に何の用なんだ?」

 俺はなるべく震えてるのを誤魔化そうと、優に笑顔を向けていた。
 だけど、そんな俺を見て優はムッとした。

「直、笑顔が演技くさい……こんな姿見たらほっとけないだろ」
「え……優? お、おい勝手に入るなよ!」

 優は俺の静止を無視して、勝手に部屋に入ってきたのだ。

「ちょっと、俺は今から寝る所なんだけど?」
「それなら丁度よかった。直が心配だから今日は一緒に寝る」
「は? 一緒に寝るとか、なんでだよ!?」
「だって、直……まだ震えてる」

 嘘だろ。頑張って誤魔化そうとしたのに、全然誤魔化せてなかったなんて……。
 そう思いながらも気づいてもらえた事が少し嬉しくて、俺は優を追い出す事なんて出来なかった。
 そして扉を閉めた優は俺のベッドの上に勝手に座り、その横をポンポンと叩いたのだ。

「ほら、直も早くこい」
「いや待ってくれよ、子供の時ならまだしもこの年齢で一緒に寝るのは流石に恥ずかしい……」
「俺は恥ずかしくないから大丈夫だ」

 優は俺の腕を掴むと、無理矢理横に座らせようとした。
 だけど俺は、手を振り払ってそれを拒絶してしまったのだ。

「や、やめてくれ……」
「……直?」

 だって俺はただ少し慰めてもらえればそれでよかっただけなんだ。
 流石に今の俺は、弟でもそこまで気を許す事ができなかった。

「ご、ごめん。あんな事があったばかりだから、優でもちょっと不安なんだ……」
「直……俺はアイツとは違う。俺はただ直を安心させに来ただけなんだ。それに今日は絶対に何もしないと誓う……それでも、俺は信用できないか?」

 必死で訴える弟の姿を見て、俺の意志は簡単にグラグラと揺らいでいた。

「ご、ごめん。別に優が嫌なわけじゃなくて……」
「もしかして、俺とアイツが同じような人間に見えるわけじゃないよな?」
「いや、全く見えないけど……」
「それなら、もう少し俺を信用してくれ」

 そう言うと、優は俺の腕を先程よりも強く引っ張った。
 その力にバランスを崩した俺はベッドへ倒れこみ、気がつけば優に抱きしめられていたのだ。

「ゆ、優……!?」
「ごめん。何もしないけど、抱きしめる事だけは許してくれないか? こうしないと俺は直を安心させられないから……」

 俺はその言葉に、抵抗も反論も出来なかった。
 だって抱きしめられている俺は、優の言う通り確かに安心していたのだ。

「どうだ……? 直はちゃんと安心できてるか?」
「う、うん……」

 そう頷いたのに、俺は何故か物足りなく思っていた。
 確かにあの時はキスしてもらって震えが止まったけど…… だからって、なんで俺は優とキスがしたくなってるんだよ。
 これはただ震えを止めたいだけだから、そう自分に言い聞かせて俺は口を開いたのだ。

「あのさ優はさっき何もしないって言ったけど……き、キスもしないのか?」
「そうだな……直が嫌と言うならしない」

 それはつまり俺が嫌だと言わなければキスをしてくれるという事……?
 俺は何故か胸をドキドキさせながら優を見上げていた。

「……じゃあ、俺がして欲しいって言ったら?」

 その言葉に、優は少し驚いた顔をしながら俺を見つめていた。

「直……なんて顔をして俺を誘ってくるんだよ」
「べ、別に俺は誘ってなんかない。それに、優がしたくないなら別にいい……」

 俺が今どんな顔をしてるかわからないけど、たぶん顔にキスして欲しいと書いてあるに違いない。
 恥ずかしくて少しずつ赤くなる顔を見られたくなくて、俺は目を逸らそうとしたのにそれは出来なかった。

「何言ってるんだ、キスしたいに決まってるだろ。全く……直は俺がどれだけ我慢してるのかわかってないんだな。それに今みたいな顔されたら、すぐにでもその唇を奪いたくなるだろ……」
「え? あの、えっと……?」

 真っ直ぐなその瞳に見つめられて、今の俺は顔が真っ赤になっていると思う。
 そして俺の顎に触れた優は唇が触れそうな距離で言った。

「直……本当にしてもいいんだな?」
「う、うん……」

 俺は優を見ながら瞳を閉じる。
 そして俺達はゆっくりと唇を重ねたのだ。
 やっぱり優とキスをするのは嫌いじゃない。
 寧ろ何故か凄く安心するのだから、このままずっと続けていたい……そう思ってしまう。
 そして暫くキスを続けてようやく震えの止まった俺は、唇を離した優を見てボソリと呟いたのだ。

「優……仕方がないから今日だけは一緒に寝てもいい……」

 そう言ってから恥ずかしくなった俺は、また赤くなってしまった顔を見られないように素早く布団を被っていた。
 だけど優も俺を追いかけるようにモゾモゾ布団に入ると、後ろを向いている俺を優しく抱きしめたのだ。

「直、一緒に寝る事を許してくれてありがとな」
「別に……俺が不安で眠れないと困るから、仕方がなくだからな」
「わかったよ。……でもそれなら、直が眠るまで頭を撫でてもいいか?」
「そうだな……その方が安心できそうな気がする」

 少しくすぐったいけど、優の大きい手が俺の頭を撫でるたび不思議な気分になっていた。

「なんか変だよな、俺の方が兄なのに……」

 その言葉に、優の撫でている手がピタリと止まった。
 それを不審に思った俺は優を見ると、その顔は少し歪んでいた。

「……優?」
「俺は、直を兄とか兄弟なんて思った事はない」
「え……?」

 それなら俺は一体なんだと思われてるんだ……?

「ずっと言うか悩んでたけど、どうやらこのまま言わなかったら一生意識してもらえないと、今ハッキリとわかった」
「えっと、どういう意味だ……?」

 優は軽く呼吸を整えると、俺を真剣な瞳で見つめその口を開いたのだ。

「俺は一人の男として、直の事が好きだ」
「はぇ……?」

 俺は言われた事が理解できずに、つい変な声が漏れてしまったのだ。
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