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弟と俺

19、作戦会議

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 駐車場からリビングはそんなに遠くない筈なのに、そこに着くまで結構な時間が経っていた。
 それは何故かといえば俺を運びたいと言い続けるメンバーが、リビングまでの短い道を邪魔するせいで中々前に進めなかったからだ。
 だけどそれでもゆうは、最後まで俺を他のメンバーに渡す事はなかった。

 そして俺は今、リビングのソファーに座っていた。
 しかも優は俺の横を当たり前のように陣取っているし、何故か俺の肩を抱いていた。
 だけど優があまりにも心配そうに俺を見つめるので、それを聞く事は出来なかった。

「いいか、話は俺がするから直は俺の隣にいるだけでいい。あと話の内容で具合が悪くなったら、俺に寄りかかれよ」
「わかった、けど……」

 俺は優から視線を外し、向かいの椅子に座っている他のメンバーを見た。
 3人は思った通り、俺に凄く過保護な優を怪しんでいた。
 その中で一番最初に口を開いたのはひかるだった。

「ねぇ、そろそろ直ちゃんに何があったのか早く教えてよ」
「そうだぜ、車の中で言えなかったのにもちゃんと理由があるんだろう?」
「……え? 本当に直に何かあったの……俺だけ、全然気が付かなった……」

 間違いなくわかってる二人とは違って、よるだけは優の言葉を素直に受け取っていたようだ。
 もしかすると車の中がギズギスしていたのも気がついていないのかもしれない。
 だけどそんな夜を見て、俺は今のまま純粋でいて欲しいと思ってしまったのだ。
 そして優は3人の態度を見て、ぶっきらぼうに答えた。

「俺はこの話をお前らに話すのだって嫌だと思ってる。……だけど今後も直がマネージャーとして仕事をする為には、この話を共有しておく必要があると思ったんだ。だから必要最低限の事だけは話してやるが、車中での事はお前らに教えるつもりはない」
「え~! そんなの凄く気になって、眠れなくなっちゃうじゃんか~」

 光は流石に納得がいかないのか、頬を膨らませて怒っていた。
 しかしそんな光を宥めたのは何故かはじめだった。

「落ち着けって、これ以上の詮索は直がいない時の方がいいぜ」
「そ、そっか……直ちゃんがまた傷つくのは嫌だもんね……」
「そういうわけだ、今は我慢しておけ」

 まさか元がそんな気遣いをする奴だとは思ってなくて、俺は少し驚いでしまう。
 そして軽く光の頭をポンポンした元は、改めて優を見ていた。

「俺達は優が極度のブラコンなのは知ってるから、そう簡単にドン引はしないんだけどな。でも今は話せる所だけでもいいから、直に何があったのか教えてくれ」
「ああ、もちろん必要な事だけ話すが───」

 そして優は皆に、撮影スタジオでおきた事を話し始めたのだ。
 俺が子役時代の仲間である青山龍二あおやまりゅうじに出会った事や、ソイツに言い寄られ抱きしめられた俺が異常に震えていた事。
 そんな龍二が今後も俺に接触しようと思っている事……。
 そんな話を優がしている間、その時の事を思い出してしまった俺はしがみつくように優の肩に顔を埋めていた。

「今後、青山龍二みたいな奴が他に現れないとも限らない。なにより直は天才子役だった過去があるせいで、今も知名度は結構あるからな。それはお前らも、わかってるだろ?」
「ああ、確かに知ってるぜ……。俺達は優と同じメンバーってだけなのに風間直ともよく会うのかとか、彼は今も元気にしてるかどうか聞かれる事があったからな……」

 そんな話、俺は初耳だった。
 しかもどうやら全員そういう経験が一度はあるのか、凄く嫌そうな顔をしていた。

「やだよね~。そういう人って直ちゃんをどうにか芸能界に引き戻したい人と、直ちゃんに今も心酔してる変な人しかいなくて気持ち悪いんだよね」
「光、気持ち悪いって言うのは言い過ぎだよ……」
「えー、気持ち悪いものは気持ち悪いよ。それに夜君も、思った事はもっとハッキリ言っていいと思うんだけどな~」

 そんな会話を聞きながら俺は過去に出会った人達を思い出す。
 俺の近くには金の事しか考えてない奴らに、気持ち悪く擦り寄ってくる奴らもいた……。
 そう考えると、俺は芸能界で会いたくない人物が結構いる事に気がついたのだ。

「つまり芸能界には今も直を狙ってる奴が少しはいる筈だ。もし俺達のマネージャーが風間直だとバレたら、直接接触しようとしてくる奴らも増えるだろう」
「成る程ね。確かにそのせいで、直がマネージャーを辞めたいとか言うようになったら俺らが困るからな。それだけは避けないといけねぇよな……」
「そう言う訳だから、今から直に変な虫がつかないように作戦会議をする」

 こうして4人は俺の事を真剣に話し始めたのだ。
 俺としては話し合いをしてくれるのは嬉しい。
 だけど作戦会議までされるのは流石に恥ずかしくて、俺はその話し合いを真面目に聞くことができなかった。

 暫くして話し合いを終えた4人は、俺に『直の防犯対策案』と書かれた紙を渡してきたのだ。
 たぶんタイトルを考えたのは優だと思うのだけど、優にとって相手が犯罪起こすのは当たり前の事なのだろうか?
 そう思った俺は、少しゾッとしたのだった。

「じゃあ、書いてある事を詳しく言うからよく聞いとけよ」

 そして紙に書いてある注意点を夜、光、元、優の順に言い始めたのだ。

「直が迎えに来る時間についてだけど……俺達が終わる時間を過ぎても構わないから、なるべくギリギリに来て欲しいな……」
「もし早く着いても絶対に車から出たらダメだからね。直ちゃんは車内で大人しく待ってて!」
「今後の事だが直は挨拶回りが必要になってくるけど、絶対に俺達メンバーと一緒にやらないとだめだぜ」
「いいか、直。誰かに話しかけられても勝手に何処かに行くのは駄目だ。俺達が監視できるような目の届く場所にいてくれ」

 そして俺はその4点だけは絶対に守るようにと、優に何度も約束させられたのだった。
 だけど俺は4人があまりにも過保護過ぎて、これでいいのかと心配になってしまう。

「こんな状態で俺は、本当にマネージャーと言えるのか不安になってきたんだけど……」
「大丈夫だって、まだ仮免みたいなもんだし。そのうち直が自分であしらえるようになったら、もう少し緩くするって」

 どうやら元は割とそこまで重大に思っていないのか、軽い感じでそう言った。
 しかし元の言葉を聞いた優は、すぐに反論したのだ。

「元、勝手な事を言うな。そんなの当分は駄目に決まっている」
「いやいや、流石にそれは過保護過ぎるだろ?」
「だが、直を守るにはもう少し時間がいるんだ!」

 立ち上がる優につられて、元も立ち上がると何故か二人はそのまま揉め始めてしまったのだ。
 そして俺が困惑しながら二人を見上げていると、いつのまにか俺の横には夜がいた。
 その事に驚いて声を上げそうになった俺の唇を、夜の人差し指が塞ぐ。

「しっ」

 夜は俺が声を上げなかったのを確認すると、何故か数回唇をプニプニさせ名残惜しそうにその指を離したのだ。
 その事に俺は少しドキッとしながら、夜の瞳を見つめていた。
 
「直、後は俺と光がどうにかするから先に部屋で休んでてもいいんだよ……?」
「え……いや、そんなの悪い」
「ううん、全然そんな事ないよ。それに大変な目にあったのは直なんだから……だから今日は早く寝て嫌な事は忘れた方がいいと思う」

 俺には夜が本心でそう言ってるのがわかった。
 だからその優しさが嬉しくて、俺は素直に頷いたのだ。

「ありがとう。それなら今は夜の言葉に甘えさせてもらおうかな……」

 こうして一人リビングを後にした俺は、自分の部屋へ戻りながら先程の事を思い出して不思議に思っていた。
 まさかあの二人が俺の事であんなにも揉めるなんて、やり直す前の世界ならありえない事だよ……。
 俺は知らなかったけど、もしかしてC*Fってよく喧嘩をするようなグループだったのだろうかと、俺は首を傾げながら自分の部屋に入ったのだった。
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