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弟と俺
15、子役仲間
しおりを挟む目の前にいる青山龍二は子役時代から少し強引な所があって、俺は昔から少し苦手な奴だった。
そして龍二の楽屋に連れ込まれた俺は今、この状況はまずいかもしれないと冷や汗を流していた。
「俺に話ってなんだよ。というか、龍二はどうしてここにいるんだ?」
「あれ、風間優のドラマ観てなかった? 俺もあれに出てるんだけど……?」
「え?」
あのドラマは毎週欠かさず観ているのに、コイツがいた記憶がまったくない。
「まあ、気がつかなくても仕方がないかもね。今回俺の役、眼鏡かけたインキャだしさ~」
そう言いながら龍二は眼鏡をかける。
その姿に俺はドラマの登場人物を思い出そうとしていた。
「えっと、眼鏡のインキャ……あっ!」
確かに髪色は違うけどこんなキャラがいたきがする。
「どう、このギャップ? 俺の新しい魅力が出てるだろ」
「確かにそうかもしれないけど……いや、そんな事より俺に話ってなんなんだよ?」
俺は早くここから出たくて龍二に話を催促する。
「まあまあ、そんなに慌てないでよ。直とは久しぶりに会うだろ? だから話したい事が沢山あるんだって~」
「なら早く話してくれよ、俺は優の所に戻らないといけないんだから……」
「もう、そんなふうにつれない態度をとられると、帰したくなくなるけどな~」
目を細めてニコリと笑う龍二を見て、寒気のした俺は何も言えなくなってしまう。
「ねえ、直は知ってる? 俺は今『FH. Beasts』っていうアイドルグループにいるんだ~」
「それは、知ってる……」
だって、やり直す前の世界でもこの男はそのグループに所属していたのだから……。
「そっか~、ちゃんと俺の事も見てくれてたんだね。凄く嬉しいよ!」
「いや、たまたま知っただけだ。それに話したかった内容はどうせそれぐらいだろ? 俺はもう戻るからな」
俺は無理矢理話を切り上げて、この部屋を出ようとした。
「待って、まだ駄目だ!」
それなのに龍二は俺の腕を掴むと、力任せに俺を引き寄せたのだ。
「お、おい龍二……っ!?」
「俺はさ、ずっと直に会いたかったんだよ……!」
気がつけば、俺は龍二に抱きしめられていた。
「……っ!?」
その瞬間、俺は龍二へのトラウマを発症させてしまい恐怖で体が動かなくなってしまったのだ。
そして思い出す、何故コイツが俺のトラウマになったのかを……。
あれは、やり直す前の世界での話。
現役高校生の俺が、青春ドラマの撮影をしていた時の事だった。
そのドラマで、俺と龍二はヒロインを取り合うライバルキャラを演じていた。
だから当時はよく二人セットで行動していた為、仲が悪かったわけじゃないと俺は思っていた……。
それなのに何故かその時の龍二は、撮影中の俺へと嫌がらせをしてきたのだ。
それは青春物で稀にある、王様ゲームで運悪く当てられた男子二人が嫌々キスをするという、ただのギャグシーンだった。
だからそんなのは簡単なキスで良い筈だったのに、龍二は何故か俺にベロチューをかましてきたのだ。
しかも動揺する俺を見て、龍二は楽しそうに言った。
「ごめん、ごめん。どうやら俺ってば無意識に舌を入れてたみたいだね。次は気をつけるけど、また直の唇に触れたら無意識で舌を入れちゃうかもしれない。でも、その時は許してね?」
龍二の笑顔に寒気がした俺は、次も舌を入れられたらどうしようと酷く取り乱した。
その結果、俺はキスシーンを何度もリテイクしてしまい、コイツと何回もキスをする事になってしまったのだ。
そしてこの時、俺の傷口をさらに抉ったのは監督の言葉だった。
「いやぁ~、確かに龍二君はカッコいいから男でも動揺するよね。それで、唇はどうだったの?」
何故か勘違いされ感想まで求められた事がとてもショックだった俺は、その記憶がずっと忘れられられずトラウマになってしまったのだ。
そして次の日から龍二を見るだけで動揺するようになってしまった俺は、このドラマの撮影をプロ根性だけでどうにか演じきった。
だけど龍二が何故あんな事をしたのか、俺は最後まで理解する事は出来なかった。
……どうせ龍二の事だから俺を揶揄っただけだ。
そう結論を出した俺は、どうにかその事を忘れようと努力した。
しかし俺は龍二を見るたびにトラウマが蘇ってしまい、その動揺が少しずつ隠せなくなってしまったのだ。
そしてついに仕事にまで影響が出始めた頃、俺はその事を当時のマネージャーに相談した。
その結果、龍二との共演はNGとなった。
だからそれ以降、俺は龍二と一度も会っていなかったのだ。
そんなトラウマを思い出してしまった俺は、改めて今の龍二をチラリと見る。その姿は久しぶりに見た筈なのにあの頃とあまり変わっていなかった。
そのせいで俺には、この男があの時の龍二と重なって見えてしまったのだろう……。
俺だってコイツがあの龍二とは別人だとわかっているし、なにより芸能界を辞めた俺は共演さえもしていない。
だから目の前にいる龍二が悪いわけじゃないと頭では理解している。それでも俺は目の前の龍二が何故か怖くて全く動けなかったのだ。
そして俺を暫く抱きしめていた龍二は、顔が見えるように少し離れるとニッコリ笑顔で言った。
「ねぇ、どうして子役を辞めたのか聞いてもいいかな?」
「……………」
何か答えを返さないといけないと思うのに、俺は声が上手く出せなくて焦ってしまう。
そんな俺を見て龍二は少しイラつき始めたのだ。
「そっかぁ~、直はそんな態度とるんだね。それなら俺は直の体をぐちゃぐちゃに犯して、その理由を言ってくれるまで監禁でもしちゃおうかなぁ~?」
突然恐ろしい事を言い出す龍二に……やっぱりコイツも龍二なんだと俺はショックを受けてしまう。
そして気がつくと俺は、何故か龍二に体をまさぐられそうになっていた。
本当は嫌だと叫びたいのに全く声の出ない俺は、その手に触れられるのが気持ち悪くて顔が青ざめてしまう。
しかも龍二は何も言わない俺を待てなくなったのか、突然俺の頬を両手で包み込んだのだ。
「直……キスしてもいいかな?」
そう言うと龍二は、俺の返事なんて待たずに顔を近づけてきたのだ。
少しずつ迫ってくる龍二の唇に、俺はあの時のトラウマがフラッシュバックしてしまい、つい無意識にその名を叫んでいた。
「い、嫌だ! ゆ、優助けてくれ!!」
その瞬間、俺の願いが届いたのか突然扉がバタンと勢いよく開いたのだ。
そしてこの部屋に飛びこんで来たその人物を見て、俺は目を見開いてしまう。
「お前、直に何してるんだ!!」
だってそこには何故か本物の優がいて、これは現実なのだろうかと俺は何度も瞬きをしてしまったのだ。
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