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弟と俺
13、大学にて
しおりを挟む俺はF*Cのマネージャーになった事を、仁にどう説明するべきか今も悩んでいた。
そして悩みすぎた結果、俺は大学で仁を避けてしまったのだ。
とはいえ次の授業は仁も一緒に受けているから、絶対に顔を合わせるんだよな……。
そう思いながら教室の前に着いた俺は今、中に入れず困っていた。
何故なら、仁が教室の前で待ち伏せしていたからだ。
「直、散々逃げ回ってくれたみたいだけど流石にもう逃げられないよ……?」
顔だけ見たらニコリと笑ってるけど、絶対に怒ってるやつだコレ……。
そんな仁は俺の腕を掴むと、何故か教室から離れるように歩き出していた。
次の授業はどうするんだ? 俺は一瞬そう思ったけど、今の仁に何も言えるわけがなかったのだ。
そんなわけで食堂に連れてこられた俺は仁の向かいに座っていた。
しかし仁はこっちを見ているだけで何も言ってこなくて、その視線に耐えられなくなった俺は自分から声をかけてしまったのだ。
「ひ、仁……もう4限始まってるけど?」
「授業よりも、今は大事な事があると思うんだ」
「いや、俺は授業のが大事だと思うんだけど……」
「そんな訳ないだろ、今の俺には授業よりも直の方が大事だ!」
バンっと机を叩く仁に俺はビビっていた。
だって俺は、仁がこんなにも怒ってるところなんて見た事がなかったのだ。
「俺は昨日、直が連れ去れたのに何も出来なかった……。だから心配になって何度も電話したのに全く繋がらないし、やっと連絡が来たと思ったメールはそっけないし、今日大学に来たら避けられるしで凄く不安になったんだからな!」
「いや、ごめん……ちょっと驚く事が多過ぎて俺もまだ頭の中ごちゃごちゃでさ、ちゃんと答える余裕がなかったんだよ」
「驚く事って……まさか、直をまた芸能界に連れ戻そうって話じゃないよな!?」
「いや、違うって!」
「本当に、本当か?」
身を乗り出して圧をかけてくる仁にコクコク頷いた俺は、そういえば以前から仁が俺の芸能界復帰を嫌がっていた事を思い出したのだ。
きっと仁の事だから俺の事を心配して言ってくれてるのだろうけど、そこまで必死になる理由はなんだ……?
俺がそう疑問に思ってる間に、どうやら仁は俺の話をようやく理解してくれたのか、少しホッとした表情をしていた。
「そっか、直を無理矢理芸能界に戻そうって話じゃなくてよかった……。でも俺が心配してるのはそれだけじゃないんだからな。直が風間優に連れ去られた後一体何があったのか、ちゃんと教えてくれよ」
「……ああ、わかったよ」
こうして俺は、優に連れ去られた後の話を仁にした。
俺がC*Fメンバー4人の住む寮に無理矢理連れてかれた事、そこで何故かマネージャーになって欲しいと頼まれた事、それをだいぶ端折って仁に伝えたのだ。
流石に全員からのスキンシップが異様に激しくて、何故かキスされたり抱きつかれたりした事は話さなかったけど……。
そして仁は俺の話を聞いたうえで、きっぱりと言った。
「直、悪い事は言わないからC*Fのマネージャーはやめた方が良いと思う、というかやるなよ!」
「え、そんな事いわれても……」
「まさか、昨日の今日でもう契約済なんて事はないよな!?」
「えっと、それが……ごめん! 俺もう既に契約しちゃったんだ」
手を合わせて謝る俺を見て、仁は頭を抱えたのだ。
「なんで俺に相談もせず、勝手に契約してるんだよ?」
「いや、なんで仁に相談する必要があるんだよ? それにアイツらマネージャーがいなくて困ってるみたいだったし、それに条件も良くて今はお迎えだけで良いって話だったからさ……」
「そんな事言って、どうせC*Fのメンバーに無理矢理押し切られたんじゃないのか?」
実際、光の泣き落としに負けた俺は少しドキリとしてしまう。
だけどそんな事を今の仁に言えるわけなくて、俺は不自然な笑顔を返していた。
「そ、そんな事ないって……」
でも仁はそんな俺を見てすぐに嘘だと気がついたのか、盛大にため息をついたのだ。
「全く……すでに契約してるなら、簡単にやめろとは言えないもんな。それによく考えたらマネージャーは芸能人じゃないし、そこまで心配しなくてもいいのかもしれない……」
何故か俺と同じような考え方をし始めた仁に、説得するなら今しかないと俺は頷きながらその話に同意したのだ。
「そうそう、マネージャーなら人目に出る訳じゃないから仁も安心だろ?」
「そうだけど、本当にそれだけですむのかな……」
「いや、なんで俺じゃなくて仁がそんなにも思い詰めてるんだよ? 俺なら大丈夫だって!」
「でも俺が心配してるのは、別に直の事だけじゃないから……」
そう言って少し俯いた仁は、手に持っている携帯の画面をチラリと見たのだ。
しかし対面に座っている俺には、一体そこに何が写っているのか全くわからなかった。
「俺の事だけじゃないなら、仁は一体誰を心配してるんだよ。もしかして今見てる携帯にその答えはあるのか?」
俺はその携帯を奪ってその画面を見てやろうと思ったのに、仁は手早く携帯をカバンに入れたのだ。
「これはダメだ。今は言えない……それにこんな俺でも、悩みの一つや二つはあるんだからな」
「なんだよ、俺は全て話したのに……仁は親友の俺に何も教えてくれないのか?」
「ふーん、じゃあ直はさっきの話で本当に全部だって言いきれるのか?」
眼鏡を上げてニコリと微笑む仁に、俺はつい目を逸らしてしまう。
これでは俺は隠してますと言ってるようなものなのに……。
「やっぱり全部の事は教えてもらえないようだし、俺も言わなくても大丈夫だよね?」
「うっ……そ、それは……」
「それに俺はこれ以上、直がマネージャーをやる事に文句は言わないと決めたから安心していいよ」
「ほ、本当か?」
「うん。それに俺も、少し思いついた事があるんだ。折角だしこの機会に試してみようかと思う」
仁は何かを決意したのか、真剣な顔で俺を見ながら言ったのだ。
「……俺は後悔したままなのは嫌だから、今やれる事を頑張ってみる」
「えっと、ごめん。俺は仁が何言ってるのかよくわからないんだけど?」
「直はわからなくてもいいんだよ。それよりも、もうすぐ授業が終わるけど……直は今から仕事だったりする?」
「え! もうそんなに時間が経ったのか?」
俺は慌てて時計を見ると、4限が終わるまで後10分を切っていた。
「ヤバい、授業終わったらすぐ帰らないと間に合わない!」
今日のスケジュールだと18時には迎えに行かないといけないので、早く帰って準備しないとまずいのだ。
慌てる俺を見て仁は複雑そうな顔をしながら言った。
「初仕事頑張ってな。だけど何か困った事があったら真っ先に相談してくれよ。俺もどうしようもなくなったときは、直に相談するから……」
「ああ、わかった」
少し仁の態度が気になったけど、時間のない俺は急いで大学を飛び出したのだ。
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