12 / 57
マネージャーになる
12、アルバム
しおりを挟む扉の前には、勢いよく扉が開いたせいなのか驚いた顔をしている夜が立っていた。
とにかく焦っている俺はこれ以上元と2人きりになりたくなくて、夜を部屋に入れようとした。
「よ、夜! さっきまで元と話してた所なんだけど丁度終わったんだ。だから俺に用があるなら部屋に入っていいからな」
「えっ、元がどうして直の部屋にいるの……?」
「いや、それは……」
「なんだ、俺がいたら変なのか?」
いつのまにか起き上がっていた元は、俺の後ろに立って夜を見ていた。
その姿は既にいつのもの元に戻っていたのに、なんか俺との距離が凄く近い気がするのはなんでだろう?
「いや、変とかじゃないんたけど……元が人の部屋にいる事がなんだか意外だったから……」
「……そうか? でも確かに直の部屋に来たのも、契約書にサイン貰いにきただけだしな」
「そ、そうなんだ……」
「それで、夜は何しに来たんだ?」
「えっと、その……さっき引っ越し業者の人がトラック内に忘れ物があるからって、コレを持ってきてくれたんだ」
そう言って夜が取り出したのはアルバムだった。
「あ、それ俺のアルバム……」
しかもそれは俺が時を遡る直前、ベランダから落ちる前に見ていたアルバムだった。
「なんでこれだけトラックに残ってたんだ……?」
「えっと、多分……部屋の形を保ったまま家具とかを運んだから、もしかしたら本棚の隙間から溢れ落ちたのかもしれない……」
「へー、そういう引越しの方法もあるんだな」
俺にはそれが想像ができなくて、首を傾げてしまう。
「でも、こんな遅い時間に来たのは直の迷惑だったかな……?」
「そんな事ないけど、アルバムは明日渡してくれてもよかったんだぞ」
「で、でもコレは直にとって大事な物だと思ったから……なるべく早く渡してあげたかったんだ」
もしかして、あんなにも諦めずに扉をノックしてた理由はそういう事……?
でも夜が来てくれなかったら元に襲われていたんだよな。
そう思った俺は、とりあえず夜に感謝することにした。
「夜、わざわざ部屋まで持って来てくれてありがとな」
「いや、こんなの別にお礼を言われる事じゃないよ……。それに引越し屋さんも気をつけて欲しいよね、これは直の大切な思い出なのに……」
そう言いながら少し顔を逸らした夜は、少し怒っているようだった。
俺の為に怒ってくれるなんてやっぱり夜は優しい。そんなところは全く変わってなくて、俺は少し嬉しかった。
しかしそんな俺達の雰囲気が元は気に入らなかったのか、何故か夜に冷たい声で言ったのだ。
「夜、アルバムを届けたならもう用はないだろ? それに明日は早くから仕事だった筈だ。夜は他の奴らよりも朝が苦手なんだから早く寝ておけよ」
「う、うん。わかってるんだけど、アルバムをどうしても今日中に渡しておきたくて……」
「それなら、もう渡し終えたんだから早く部屋に戻るぞ」
「わ、わかった。それじゃあ直……おやすみ」
「俺も、もう行くからな。直、明日からよろしく頼む」
元は夜を押しながら一緒に部屋から出ていった。
扉が閉まる前に、元は俺に向けてウィンクをしたのが見えた。
あれは絶対に契約の事忘れるなよって意味だろなと、ため息をついたのだ。
そして誰もいなくなった部屋を見てベッドに腰かけた俺は、なんとなくアルバムをめくっていた。
やっぱり芸能界を引退するまでは、全く一緒の写真が並んでいるよな……。
そう思っていたのに、俺は何故かあの写真だけない事に気がついたのだ。
「優に誕生日を祝ってもらった時の写真がないような……?」
いやそんなバカなと俺はアルバムをひっくり返し、何処に挟まれていないか確認する。
何度かパタパタさせていると、隙間から写真が一枚ヒラリと落ちた。
それを拾ってよく見ると、それは間違いなく探していた写真で……俺はとても安堵したのだ。
「無くなってる訳じゃなくて本当によかった……」
でも何故かその写真が異様に黒いような気がした俺は、もしかして裏に何か書いてあるのだろうかと写真を裏返し、驚いてしまったのだ。
「っ!?」
そこには、まるで血が固まったような色をした字が書かれていた。
しかも走り書きのせいで本物の血文字に見えてしまい、俺は怖くなってしまったのだ。
「何だよコレ、こんなの前は書かれてなかったは筈なのに……」
しかも文字が所々霞んでいるせいで、凄く読みづらい。
だけどその文章に気になる単語が見えた俺は、読める所だけ頑張って読んでみる事にしたのだ。
「もし、時をやり直し……この文章を読んだなら覚えていてくれ、……スキャンダル……犯人は……C*F……、……の…………だ。くそ、ここだけ全然読めない。えっと……この……人物には絶対に近づくな、気をつけろ……」
何とか読み取れた部分はコレだけだった。
……でも、ちょと待って欲しい。この文章ってもしかして、俺が時をやり直す前の世界にいた誰かが書いた物じゃないのか……?
しかもこれは、俺をスキャンダル地獄に落とした犯人の名前が書いてあるのだと思う。
それなのに真ん中の大事なところだけ、滲んだり黒ずんだりしていて全く読めないとか……。
だけどそこには、何よりも信じがたい事が書いてあったのだ。
「この話を信じるなら、俺はC*Fの誰かに嵌められたって事になるんだけど……?」
そんなまさかと思いつつも、俺はあの地獄のような日々を思い出して少しずつ血の気が引いていく。
俺の前から消えろと言った優、諦めた顔をした元、俺の事を嫌っていた光……そして一人だけ優しかった夜。
確かにあの時の俺は夜以外のメンバーから嫌われていたけど、あの中に俺を嵌めて嘲笑ってる奴がいたって事なのか……?
「でも、アイツらがそんな事するとは思えないんだけど……」
もし時をやり直す前の俺がこれを見たなら、この文を信じていたかもしれない。だけど俺は、今のアイツらを知ってしまったせいなのか、逆にその文章が信じられなかったのだ。
まぁ確かに今も優には嫌われてるし、元なんて俺を脅してきてるのだから怪しいといえば怪しい。でもこの二人がわざわざ間接的に俺を落とし入れようとするとは思えないんだよな……。
「それに今の俺はC*Fのメンバーじゃないし、違う道を進んでるんだ。だから同じような事は起きない筈だし、きっと大丈夫……」
俺はそう呟きながら写真をはさみ直すと、不安な気持ち事封じ込めるようにアルバムを本棚へとしまったのだ。
そしてベッドに寝転んだ俺は、そういえば仁に返事をしようとしていた事を思い出して携帯が手元にない事に気がついた。
「えっと、携帯どこ置いたっけ……?」
すぐに床に置いた事を思い出した俺は、携帯を手に取り再び驚いてしまう。
だってそこには、先程見た件数の倍ぐらい仁からの着信があったのだ。
「仁のやつ、流石に鬼電しすぎたろ。でも明日、どうやって仁に説明したらいいんだろう……」
そう思いながら、俺は仁に『俺は大丈夫だから心配するな。それと忙しいから詳しい事はまた明日連絡する』と、メールしたのだった。
2
お気に入りに追加
694
あなたにおすすめの小説
双子攻略が難解すぎてもうやりたくない
はー
BL
※監禁、調教、ストーカーなどの表現があります。
22歳で死んでしまった俺はどうやら乙女ゲームの世界にストーカーとして転生したらしい。
脱ストーカーして少し遠くから傍観していたはずなのにこの双子は何で絡んでくるんだ!!
ストーカーされてた双子×ストーカー辞めたストーカー(転生者)の話
⭐︎登場人物⭐︎
元ストーカーくん(転生者)佐藤翔
主人公 一宮桜
攻略対象1 東雲春馬
攻略対象2 早乙女夏樹
攻略対象3 如月雪成(双子兄)
攻略対象4 如月雪 (双子弟)
元ストーカーくんの兄 佐藤明
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ある日、人気俳優の弟になりました。
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!
Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。
pixivの方でも、作品投稿始めました!
名前やアイコンは変わりません
主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
ある日、人気俳優の弟になりました。2
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる