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マネージャーになる
10、役作り?
しおりを挟む二人のやりとりに、俺は何が起きたのかよくわかっていなかった。
だってやり直す前の世界で優と光は凄く仲がよかったから、こんな険悪な所を見た事がなかったのだ。
実は、仲が悪かった訳じゃないよな……?
「直ちゃん、大丈夫?」
「あ、ああ。少し驚いただけだから大丈夫だ。それより俺に他の部屋を紹介してくれるんだよな?」
「うん、それじゃあまずは1階から説明するね」
そう言って俺達は下の階に降りたのだった。
1階はリビングにダイニングキッチン。それとお風呂にトイレなど、生活に必要な部屋になっていた。
そして2階には6つの部屋があり、メンバー4人の部屋とマネージャーの部屋、そして残りは倉庫として使っているようだ。
実はやり直す前の世界で自分に必要な部屋しか知らなかった俺は、新鮮な気持ちで光の話を聞いたのだった。
こうして全ての部屋を簡単に説明してもらった俺は今、何故か光の部屋にいた。
しかも光の部屋は、あの見た目からは考えられないような筋トレグッズが、床や壁に置いてあったのだ。
そのせいで俺は少しビビりながら光のベッドに座っていた。
俺の横にはニコニコしている光がいるのだけど、なんだか距離が近い気がする……。
「一気に説明しちゃってごめんね~! だけどもしわからない所があっても、他の人じゃなくて僕に聞いてね?」
「ああ、わかったよ。それに部屋の案内してくれてありがとな、光」
なんで光しかダメなのだろうと思いながら、俺はつい光の頭を撫ででいた。
「ふふ、直ちゃんに頭撫でてもらっちゃった!」
「ご、ごめん。感謝の気持ちで手が勝手に……」
実は光のふわふわな髪に一度触れてみたいと思っていた俺は、完全に無意識で触っていた。
しかも光は撫でられる事を嫌がるというよりは、何故か不満そうだった。
「え~、感謝してくれるなら他の事で返して欲しいな~」
「ほ、他の事って……?」
「そうだ! この家のお風呂って少し広いから2人ぐらいなら一緒に入れるし、今度一緒に洗いっこしてくれない~?」
「……まあ、それぐらいの事ならいいかな」
「本当、やった~!!」
そう言って俺に抱きつく光に、まあ男同士だし兄弟で洗いっことか少し憧れてたからいいかな、なんて思ってしまったのだ。
そんなウキウキしている俺に対して、突然光は何故か声のトーンを落としで言った。
「ねえ、直ちゃん。僕との約束を絶対に守ってくれるよね……?」
背筋がゾクゾクとしたと思った瞬間、光は信じられないほど俺の体をきつく抱き締めたのだ。
「いっ、光、締めすぎだ!い、痛いって!?」
「……本当に? 絶対って約束してくれる?」
「わかった! わかったから、絶対約束を守るから! 腕の力を緩めてくれっ!」
その可愛らしい顔の何処からその力が出てくるんだ!?
きっとこれは周りにある筋トレの効果だと思うけど、光にこんな所があるなんて俺は知らなかった。
「約束守ってくれなかったら僕悲しくて直ちゃんに何するかわからないかも……ふふ、なんてね!」
「へ?」
声のトーンを戻した光は、すぐに腕の力を抜いてくれた。
そしてクスクス笑う姿から、もしかしてさっきのは演技だったのかと俺は困惑していた。
「僕って見た目より力が強くて、直ちゃんびっくりしたでしょ?」
「あ、ああ。それとさっきのは、演技だったんだよな……?」
「へへ、今度やる役がこういうヤンデレの役なんだ~、凄くはまり役だったでしょ?」
「ああ、すっかり光の熱演に騙されたからな。これは見るのが楽しみだよ」
本当に凄くビックリしたけど、役作りなら仕方がない。
そう言い聞かせて、俺はドキドキしている心臓を無理矢理納得させる事にした。
「うん、楽しみにしてて! それで僕がお茶の間をビックリさせちゃうんだから。でも直ちゃんはさっきの約束はちゃんと守ってね?」
「ああ、勿論。それに光の演技が楽しみだよ」
「え~、僕は直ちゃんとお風呂の方が楽しみなのにぃ……」
そうボソッと呟いてるのがバッチリ聞こえていた俺は、何故か少し寒気がして首を傾げていた。
そんな俺をじーっと見ていた光は、優と俺について質問してきたのだ。
「……ねえ、直ちゃんは優君と何処までしたの?」
「え?」
「さっきキスしてたでしょ? もしかして、もうそれ以上の事もしたの?」
「いやいや、さっき見ただろ? それ以上の事はされてないって」
「ふーん、じゃあ優君じゃないとダメなの?」
え……それはキスが? それ以上がって事……?
そして思考が固まっている間に、気がつけば俺は光に腕を掴まれてベッドに押し倒されていた。
「あ、あれ……なんで俺、押し倒されて……?」
「ダメなのかどうか、僕で試してみよ?」
「いやいや、それは好きな子とする物であって……だな」
「えー、直ちゃん真面目過ぎるよ~! それじゃあ今度キスシーンがあるから、直ちゃんで練習してもいい? マネージャーなんだからそれぐらいの事は付き合ってくれるよね」
「え? あ、ああ……練習なら仕方がないか……」
光はまだ高校生なのにもうキスシーンとかあるの?
とか混乱している間に、俺は光とキスをしていた。
でもそれは優みたいにガッツく感じではなく、軽く啄むような可愛いキスだった。
「んっ、直ちゃん。僕初めてしてみたんだけど、どう?」
「はじめて? え!? 初めてだって!!?」
「うん、初めてするのがキスシーンだから恥かくの嫌だし、どうでもいいと思ってる子よりは憧れの人のがいいかなと思ってさ」
何てことだ!? 俺は光のファーストキスを奪ってしまったらしい。
これが将来、光の黒歴史とかににならなければいいけど……。
「それで、どうだった?」
「え? う、うーん……」
俺もやり直す前の世界でなら、キスシーンぐらい何度もした事があるからわかるけど、キスシーンなら今ので充分だと思う。
……だからディープキスをする必要はない筈だ。
でもそう思って挑んだ結果、相手に舌をいれられた俺は驚いてしまい何度かやり直しさせられた事がある。しかもソイツは俺が失敗する度にニヤニヤと笑っていた。
そのせいで酷い嫌がらせだと半べそをかいた俺は、ソイツの存在がトラウマになっている事を思い出したのだ。
だけどそんな可哀想な経験を光にまでさせたくないと思った俺は、一応ディープキスされても動揺しない心構えを教える事にした。
「そうだな大体はそれでも大丈夫だと思うけど、相手によって舌を入れてくる奴がいるかもしれないから、驚かないように一応練習しておこう」
「舌を……もしかして、僕も直ちゃんに舌を入れてもいいの?」
「光からしたら、俺なんかは嫌かもしれないけど」
「嫌じゃないよ!!」
突然大きな声を出した光に、俺は目をパチクリさせてしまう。
「そ、そうか……?」
「寧ろ……嬉しいかも」
「え、それはどういう感情なの……?」
「そんなの、憧れの人とできて嬉しいって意味だよ!」
「そう言われると少し照れるけど、なんかおかしいような……? いやでもこれは念の為だし、練習ならいくらでも付き合ってやる!」
光に褒められて調子に乗った俺は、せっかくだし真剣に取り組もうと思っていた。
だって俺は、やり直す前の世界で真剣に役者もやってたんだ。半端な事や妥協は絶対に許せない。
「じゃあ、直ちゃん目を瞑って?」
「ああ、俺からエスコートしてやるから後は適当に口を離せよ?」
「わかった」
俺は目を瞑ると唇に柔らかい物が当たった。
そして舌を使って光の唇を軽く開いただけなのに、光の舌が俺の舌へとすぐに絡みついてきたのだ。
「んんっ!?」
コイツ、本当に初めてか!?
そう思えるほど光のキスは上手くて……俺は反応しそうになるのを抑えるのが精一杯だった。
そして数分経っても、光は中々唇を離してくれなかった。
流石にこれ以上はヤバいと思った俺は、どうにか光から唇を離したのだ。
「ひ、光! 流石に長いから」
「え、そうだったかな? 僕には数秒にしか感じなかったけど……」
「もう、10分ぐらい経ってるから!」
「あ、本当だ。でもどうだった? 僕のキス良かった?」
「あ、ああ……初めてとは思えないぐらいよかったよ」
「そっか、なら嬉しい!」
正直上手すぎて、技術で既に負けてるなんて俺は言えなかった。
でも嬉しそうに言う光を見て、これならその役もバッチリだろうなんて俺まで嬉しくなってしまったのだ。
その後、もう1回と言って何度もキスをさせられた俺は、もう遅いからとなんとか光の部屋を後にしたのだった。
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