上 下
10 / 57
マネージャーになる

10、役作り?

しおりを挟む

 二人のやりとりに、俺は何が起きたのかよくわかっていなかった。
 だってやり直す前の世界でゆうひかるは凄く仲がよかったから、こんな険悪な所を見た事がなかったのだ。
 実は、仲が悪かった訳じゃないよな……?

なおちゃん、大丈夫?」
「あ、ああ。少し驚いただけだから大丈夫だ。それより俺に他の部屋を紹介してくれるんだよな?」
「うん、それじゃあまずは1階から説明するね」

 そう言って俺達は下の階に降りたのだった。
 1階はリビングにダイニングキッチン。それとお風呂にトイレなど、生活に必要な部屋になっていた。
 そして2階には6つの部屋があり、メンバー4人の部屋とマネージャーの部屋、そして残りは倉庫として使っているようだ。
 実はやり直す前の世界で自分に必要な部屋しか知らなかった俺は、新鮮な気持ちで光の話を聞いたのだった。


 こうして全ての部屋を簡単に説明してもらった俺は今、何故か光の部屋にいた。
 しかも光の部屋は、あの見た目からは考えられないような筋トレグッズが、床や壁に置いてあったのだ。
 そのせいで俺は少しビビりながら光のベッドに座っていた。
 俺の横にはニコニコしている光がいるのだけど、なんだか距離が近い気がする……。

「一気に説明しちゃってごめんね~! だけどもしわからない所があっても、他の人じゃなくて僕に聞いてね?」
「ああ、わかったよ。それに部屋の案内してくれてありがとな、光」

 なんで光しかダメなのだろうと思いながら、俺はつい光の頭を撫ででいた。

「ふふ、直ちゃんに頭撫でてもらっちゃった!」
「ご、ごめん。感謝の気持ちで手が勝手に……」

 実は光のふわふわな髪に一度触れてみたいと思っていた俺は、完全に無意識で触っていた。
 しかも光は撫でられる事を嫌がるというよりは、何故か不満そうだった。

「え~、感謝してくれるなら他の事で返して欲しいな~」
「ほ、他の事って……?」
「そうだ! この家のお風呂って少し広いから2人ぐらいなら一緒に入れるし、今度一緒に洗いっこしてくれない~?」
「……まあ、それぐらいの事ならいいかな」
「本当、やった~!!」

 そう言って俺に抱きつく光に、まあ男同士だし兄弟で洗いっことか少し憧れてたからいいかな、なんて思ってしまったのだ。
 そんなウキウキしている俺に対して、突然光は何故か声のトーンを落としで言った。

「ねえ、直ちゃん。僕との約束を絶対に守ってくれるよね……?」

 背筋がゾクゾクとしたと思った瞬間、光は信じられないほど俺の体をきつく抱き締めたのだ。

「いっ、光、締めすぎだ!い、痛いって!?」
「……本当に? 絶対って約束してくれる?」
「わかった! わかったから、絶対約束を守るから! 腕の力を緩めてくれっ!」

 その可愛らしい顔の何処からその力が出てくるんだ!?
 きっとこれは周りにある筋トレの効果だと思うけど、光にこんな所があるなんて俺は知らなかった。

「約束守ってくれなかったら僕悲しくて直ちゃんに何するかわからないかも……ふふ、なんてね!」
「へ?」

 声のトーンを戻した光は、すぐに腕の力を抜いてくれた。
 そしてクスクス笑う姿から、もしかしてさっきのは演技だったのかと俺は困惑していた。

「僕って見た目より力が強くて、直ちゃんびっくりしたでしょ?」
「あ、ああ。それとさっきのは、演技だったんだよな……?」
「へへ、今度やる役がこういうヤンデレの役なんだ~、凄くはまり役だったでしょ?」
「ああ、すっかり光の熱演に騙されたからな。これは見るのが楽しみだよ」

 本当に凄くビックリしたけど、役作りなら仕方がない。
 そう言い聞かせて、俺はドキドキしている心臓を無理矢理納得させる事にした。

「うん、楽しみにしてて! それで僕がお茶の間をビックリさせちゃうんだから。でも直ちゃんはさっきの約束はちゃんと守ってね?」
「ああ、勿論。それに光の演技が楽しみだよ」
「え~、僕は直ちゃんとお風呂の方が楽しみなのにぃ……」

 そうボソッと呟いてるのがバッチリ聞こえていた俺は、何故か少し寒気がして首を傾げていた。
 そんな俺をじーっと見ていた光は、優と俺について質問してきたのだ。

「……ねえ、直ちゃんは優君と何処までしたの?」
「え?」
「さっきキスしてたでしょ? もしかして、もうそれ以上の事もしたの?」
「いやいや、さっき見ただろ? それ以上の事はされてないって」
「ふーん、じゃあ優君じゃないとダメなの?」

 え……それはキスが? それ以上がって事……?
 そして思考が固まっている間に、気がつけば俺は光に腕を掴まれてベッドに押し倒されていた。

「あ、あれ……なんで俺、押し倒されて……?」
「ダメなのかどうか、僕で試してみよ?」
「いやいや、それは好きな子とする物であって……だな」
「えー、直ちゃん真面目過ぎるよ~! それじゃあ今度キスシーンがあるから、直ちゃんで練習してもいい? マネージャーなんだからそれぐらいの事は付き合ってくれるよね」
「え? あ、ああ……練習なら仕方がないか……」

 光はまだ高校生なのにもうキスシーンとかあるの?
 とか混乱している間に、俺は光とキスをしていた。
 でもそれは優みたいにガッツく感じではなく、軽く啄むような可愛いキスだった。

「んっ、直ちゃん。僕初めてしてみたんだけど、どう?」
「はじめて? え!? 初めてだって!!?」
「うん、初めてするのがキスシーンだから恥かくの嫌だし、どうでもいいと思ってる子よりは憧れの人のがいいかなと思ってさ」

 何てことだ!? 俺は光のファーストキスを奪ってしまったらしい。
 これが将来、光の黒歴史とかににならなければいいけど……。

「それで、どうだった?」
「え? う、うーん……」

 俺もやり直す前の世界でなら、キスシーンぐらい何度もした事があるからわかるけど、キスシーンなら今ので充分だと思う。
 ……だからディープキスをする必要はない筈だ。
 でもそう思って挑んだ結果、相手に舌をいれられた俺は驚いてしまい何度かやり直しさせられた事がある。しかもソイツは俺が失敗する度にニヤニヤと笑っていた。
 そのせいで酷い嫌がらせだと半べそをかいた俺は、ソイツの存在がトラウマになっている事を思い出したのだ。
 だけどそんな可哀想な経験を光にまでさせたくないと思った俺は、一応ディープキスされても動揺しない心構えを教える事にした。

「そうだな大体はそれでも大丈夫だと思うけど、相手によって舌を入れてくる奴がいるかもしれないから、驚かないように一応練習しておこう」
「舌を……もしかして、僕も直ちゃんに舌を入れてもいいの?」
「光からしたら、俺なんかは嫌かもしれないけど」
「嫌じゃないよ!!」

 突然大きな声を出した光に、俺は目をパチクリさせてしまう。

「そ、そうか……?」
「寧ろ……嬉しいかも」
「え、それはどういう感情なの……?」
「そんなの、憧れの人とできて嬉しいって意味だよ!」
「そう言われると少し照れるけど、なんかおかしいような……? いやでもこれは念の為だし、練習ならいくらでも付き合ってやる!」

 光に褒められて調子に乗った俺は、せっかくだし真剣に取り組もうと思っていた。
 だって俺は、やり直す前の世界で真剣に役者もやってたんだ。半端な事や妥協は絶対に許せない。

「じゃあ、直ちゃん目を瞑って?」
「ああ、俺からエスコートしてやるから後は適当に口を離せよ?」
「わかった」

 俺は目を瞑ると唇に柔らかい物が当たった。
 そして舌を使って光の唇を軽く開いただけなのに、光の舌が俺の舌へとすぐに絡みついてきたのだ。

「んんっ!?」

 コイツ、本当に初めてか!?
 そう思えるほど光のキスは上手くて……俺は反応しそうになるのを抑えるのが精一杯だった。
 そして数分経っても、光は中々唇を離してくれなかった。
 流石にこれ以上はヤバいと思った俺は、どうにか光から唇を離したのだ。

「ひ、光! 流石に長いから」
「え、そうだったかな? 僕には数秒にしか感じなかったけど……」
「もう、10分ぐらい経ってるから!」
「あ、本当だ。でもどうだった? 僕のキス良かった?」
「あ、ああ……初めてとは思えないぐらいよかったよ」
「そっか、なら嬉しい!」

 正直上手すぎて、技術で既に負けてるなんて俺は言えなかった。
 でも嬉しそうに言う光を見て、これならその役もバッチリだろうなんて俺まで嬉しくなってしまったのだ。
 その後、もう1回と言って何度もキスをさせられた俺は、もう遅いからとなんとか光の部屋を後にしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

双子攻略が難解すぎてもうやりたくない

はー
BL
※監禁、調教、ストーカーなどの表現があります。 22歳で死んでしまった俺はどうやら乙女ゲームの世界にストーカーとして転生したらしい。 脱ストーカーして少し遠くから傍観していたはずなのにこの双子は何で絡んでくるんだ!! ストーカーされてた双子×ストーカー辞めたストーカー(転生者)の話 ⭐︎登場人物⭐︎ 元ストーカーくん(転生者)佐藤翔  主人公 一宮桜  攻略対象1 東雲春馬  攻略対象2 早乙女夏樹  攻略対象3 如月雪成(双子兄)  攻略対象4 如月雪 (双子弟)  元ストーカーくんの兄   佐藤明

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

ある日、人気俳優の弟になりました。

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!

Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。 pixivの方でも、作品投稿始めました! 名前やアイコンは変わりません 主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

ある日、人気俳優の弟になりました。2

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。 平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。

兄弟愛

まい
BL
4人兄弟の末っ子 冬馬が3人の兄に溺愛されています。※BL、無理矢理、監禁、近親相姦あります。 苦手な方はお気をつけください。

処理中です...