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マネージャーになる
8、マネージャー
しおりを挟む本当に断ろうって、断ってやるって……そう思ってたのに。
何故か俺の意思はすでに揺らいでいた。
「何で~!! 直ちゃん、俺達のマネージャーやってくれないの?」
だって仕方がないじゃないか……光が潤んだ瞳で、俺を抱きしめながらそう訴えかけてくるんだから!
俺には光の頭に垂れている犬耳が見えてしまい、断る事なんて出来なかったのだ。
それによく考えたら芸能界に関わるとはいえ、タレントじゃなくてマネージャーだし……きっとスキャンダルなんてあり得ない、はずだよな?
そう思ってしまった俺は、仕方がなくマネージャーになる事を承諾したのだった。
そして俺は、改めて自己紹介をした。
「俺の名前は風間直ここにいる優の兄だ。身長とかは逆転してるからって、俺の方が弟に見えるなんて言ったら怒るからな。それと明日からお前らのマネージャーになるけど、俺は大学生だから授業の合間合間しか行けない事を許して欲しい。そうじゃないと流石にマネージャーを続ける事は出来ないからな……」
「ああ、その事なら大丈夫だ。なにせ俺たちはもう2年ぐらい新しいマネージャーが見つかってないからな」
「……は?」
俺は元の話に、こんな超人気アイドルにマネージャーがいないなんて事ありえるのか? と、驚いてしまう。
そういえばやり直す前の世界ではマネージャーが変わる度、俺の為にわざわざ有能な人を連れてきてくれてた記憶がある。
だからもしかすると俺がいなかった事で、C*Fには変なマネージャーしかつかなかったのかもしれない。
そうだとしても、マネージャーがずっといないなんて有り得ないよな……?
「まあ、色々訳があるんだよ。新しいマネージャーが見つかっても3日も持たなかったりな」
「あれはアイツが悪い」
「来る人来る人、変なのばっかなんだもん~」
優と光はその時のマネージャーを思い出したのか、少し嫌そうな顔をしていた。
その様子に変なマネージャーがついたのは事実のようだけど、多分マネージャーがいないのはコイツらのせいもあるのだろうと俺は思ったのだ。
だってコイツらは嫌いな奴にはとことん毒舌になるからな……まあ、俺は自分の身で実証済みだけど。
「そんな訳で、マネージャーがいない事には慣れてるんだ。だからマネージャーとはいえ、今の直にお願いしたいのは主にコイツらのお迎えだな」
「お迎え……?」
「俺達って最近人気者だからさ、どうしても出待ちが酷いんだよな。だからそろそろタクシーじゃなく安心できる車で帰りたいわけだ」
どうやら人気者には人気者の苦労があるらしい。
俺は人気者になる前にその人気が地に落ちたせいで、アイドルになってからは出待ちなんてされた事ないのにな……。
「後、確認してなかったが直は免許持ってるよな?」
「ああ、もちろん」
「ならよかった。直には明日から俺達4人の仕事が終わる順に拾ってもらって、この家まで送り届けて欲しい」
「わかった、それぐらいなら大学通いの俺にもできそうだ。だけどマネージャーというよりは運転手さんって感じだよな……」
「まあ、それは今だけだ。少し慣れてきたら、空いてる時間で普通のマネージャー業も覚えてもらうからな。それで直が大学を卒業した時は、そのまま俺達の本格的なマネージャーになってもらうつもりなんだけど……大丈夫そうか?」
もし大学を無事に4年で卒業できたとしたら、俺は22歳になるだろう。
その時点でやり直す前よりも既に長生き出来ている事になる。
そうなればもうスキャンダルの心配もないだろうし、多分大丈夫だよな……?
「出来そうなら、やってみるよ」
「そうか! それならこれからよろしく頼む。詳しいスケジュールは後でメールしておくから見ておいてくれ」
「ああ、わかった」
「よーし、皆喜べ! これで俺達もマネージャーのいない日々から解放されるぞ」
「やったー!! 直ちゃん今日からよろしくね!」
光にギュッと抱きしめられた俺は、今日からという言葉に首を傾げる。
「いやマネージャーになるのは明日からだし、俺はもう帰ってもいいのか……?」
「何を言ってるんだ。直は今日から、この寮で俺達と一緒に暮らす事になる」
「……は?」
俺は優の言った事が全く理解できなくて固まってしまった。
それなのに優は詳しい説明もしないまま、何故か今も俺に抱きついている光を引き剥がそうとしていた。
「光はいつまで抱きついてるんだ。いい加減、直から離れろ」
「やだよー! 羨ましいなら優君も抱きつけばいいのに~」
光は優に向けて可愛く舌を出す。
それにムッとした優は、本当に俺を抱きしめるつもりなのか腕を広げながら近づいて来たのだ。
その姿にようやく我に帰った俺は、焦りながら優へと言った。
「いやいや待ってくれ! それに、一緒に暮らすってどう言う事だよ?」
「それは、そのままの意味だが? 既に直の借りていた部屋は解約済みだし、荷物はここへ運ばれてるから安心するといい」
「は!? 何、一体どういう事だよ部屋を解約した!? それに荷物がここにあるって……」
こんな無茶苦茶な話があるか?
だってせっかく親元を離れて一人暮らししてたのに、なんで突然ルームシェアになるんだよ!?
俺は混乱しているのに、優は更に不安な事を言い出したのだ。
「安心しろ、荷物はすでに直が住んでいた部屋と同じ配置で置かれている。だから荷解きも必要ない」
「余計に安心できないよ!? 早く俺の荷物を確認しないと……それで俺の部屋はどこなんだ?」
「直の部屋はこっちだ。勿論、俺が案内してやる」
そう言って俺の腕を掴んだ優は、他の3人を見て言ったのだ。
「自己紹介は終わったんだから、もう解散でいいだろ? それに直は、俺1人で連れて行く」
「え~、優君ずるい!」
「ずるくない、これは当たり前の特権だ。だから直から離れろ!」
「イヤだってばぁ~!」
「……待って、何この状態!?」
なんで俺は二人に取り合いされてるんだ?
二人に挟まれて困惑している俺はどうしたらいいのかわからなくて、とりあえず元に救いの目を向けていた。
元は俺達の姿にため息をつくと、何故か光だけを引き剥がしたのだ。
「ええ、何で僕だけ~?」
「二人とも少し落ち着け。光だって、直に用があるなら後で部屋に行けばいいだろ?」
「確かにそうなんだけど、直ちゃんと優君を2人にするのはなんだか心配なんだよね」
「……光は俺を何だと思っているんだ? それに俺は家族として直に話があるだけだ。だから俺達の邪魔をするなよ」
そして優は俺の手を握って歩き始めたのだ。
しかも途中で気がついたのだけど、なんで優は俺と恋人繋ぎをしているのだろうか?
俺はそう疑問に思いながら、リビングを後にしたのだ。
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