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マネージャーになる
6、寮
しおりを挟むされるがままに口内を舐められた俺は、離れていく優の顔に何が起こったのかわからないまま、ポカンと口を開けていた。
「凄いマヌケ面だな」
「は、……え? 今、何した……?」
「別に何でもいいだろ。それに、そろそろ着く」
「着くって、何処に?」
「何処って、俺達Cronus*Fantazumaの4人が暮らす寮だ」
「……へ?」
先程の事でまだ思考が追いついていないのに、どうやら次の驚きポイントはもうすぐそこまで迫ってきているようだ。
俺は優につられてその寮を見上げる。
そこには確かにC*Fが住んでいる寮があった。
どうして俺がこの寮を知っているかといえば、やり直す前の世界でも同じ寮に住んでいたからだ。
まあ、住んでいたといっても俺は相次ぐスキャンダルでここにいるのが気まずくて、すぐに出て行ってしまったのだけど……。その結果、一人暮らしのマンションから落ちて死ぬとか情けないよな。
「俺は駐車場に止めてくるから、二人は先に降りてろよ」
元に言われて俺達は寮の前に降ろされていた。
だけど俺は突然連れて来られた事に驚き過ぎて、足が動かなくなってしまったのだ。
優はそんな俺を見て、鼻で笑った。
「ふっ、どうした。もし動けないならまた抱えてやろうか?」
「だ、大丈夫だから!! って、優!? 何勝手に持ち上げようとしてるんだよ!?」
抵抗しているのに全く力が敵わない俺は、何故かまたお姫様抱っこされてしまったのだ。
「直は軽すぎるな……一人暮らしを始めたと聞いたが、ちゃんと食べてるのか?」
「待ってくれ! なんでその事を優が知ってるんだ?」
母さんには俺が家を出たことは絶対誰にも言わないでくれとお願いしてある……。だから、もし優に聞かれたとしてもあの母さんなら言わない筈だ。
でもそれなら優は一体誰から聞いたんだ?
「それは、だな……」
優が言いづらそうに顔を逸らした瞬間、玄関の扉が突然開いたのだ。
「あれ~? 外がうるさいと思ったら、優君帰ってたの?」
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明るいフワフワの髪に愛くるしい顔。
その裏で、俺は何度毒舌を吐かれた事か……。
やり直す前の光を思い出してしまった俺は、顔が見えないように優の胸に顔を埋めていた。
光とは初対面なんだからそんな事言われるわけないのに、俺は何を怖がってるんだよ……。
「光、ただいま」
「おかえり~、優君が抱えてる人って……あっ! そっか、今日は前に言ってた新しいマネージャーさんが来る日だったんだ! ねぇ、どんなマネージャーさんなの? 僕にも顔を見せてよ~!!」
「…………いや、それはダメだ。後で全員一緒に顔合わせするから、それまでは大人しく待ってろ」
優は何か思う事でもあったのか、何故か光から俺を隠すように後ろを向いたのだ。
「ちぇっ~! 元君はもう顔を見てるんでしょー、ずる~い!」
「ワガママ言うなら、会わせるのは一番最後にするけどいいのか?」
「もう、優君の意地悪! いいよ、早く見せて貰うために夜君連れてリビングで待ってるから! ちょっと、夜くーん!!」
そう言いながら走っていく光に俺はホッとため息をつく。
だけどそんな俺の態度に、優が疑問を抱かない訳がなかった。
「もしかして、光と知り合いなのか?」
「いや、初めて会ったけど……」
流石に、やり直す前の世界では同じグループだったなんて言えないからな。
しかし優にどう言い訳するべきかと考えていると、後ろからタイミングよく声がした。
「お前ら、まだ玄関にいたのか?」
どうやら車を置いてきた元が、もう戻ってきたらしい。
その姿に優もこれ以上は俺に聞く事は出来ないと思ったのか、元に返事をしていた。
「好きでいるわけがないだろ。さっきまで光に玄関を遮られていたんだ」
「あー、光は新しいマネージャーが誰なのか凄く楽しみにしてたから仕方がない。それにこの俺だって楽しみだったんだんだぜ、伝説の子役ってのに会えるのがな」
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おかしい、コイツこんな奴だったか?
俺の知ってる元は、いつも面倒くさそうに俺を見てため息をつく奴だった。だからこんなふうに頭を撫でられた事なんて今まで一度もない。
でもそれが少し嬉しかった俺は、されるがままに撫でられていた。
それなのに何故か優はその手を突然払ったのだ。
「おい、勝手に直に触れるな」
「なんだ、お触りも禁止かよ」
「当たり前だろ。直は俺のだからな」
「……は?」
えーっと、これはどういった状況で?
二人の会話が全く理解できない俺は、何で二人が睨み合ってるのかもわからない。
「じゃあ、俺が横から奪ったら怒る?」
「直の事、詳しくもない癖にふざけた事を言うな」
「あー、やっぱふざけてるってバレたか~!」
頭をかきながら笑う元を見て、どうやら俺は揶揄われていた事に気がついたのだ。
と、言う事は優のも本気じゃないんだよな……?
「直、バカのせいで嫌な思いをさせて悪かったな。こんなバカは置いて早くリビングに連れてってやるよ」
「え? あ、はい。って、違う! いい加減俺を降ろせよ!!」
混乱しているせいでつい頷きそうになってしまった。
だけど、まだお姫様抱っこされたままだった事を思い出した俺は手足をバタつかせる。
「直、暴れたら危ないだろ」
「でもこのまま行くのは絶対に嫌だ!」
今の俺には、どうしてもお姫様抱っこが嫌な理由が1つだけあった。
俺は夜にこの姿を見られたくなかったのだ。
やり直す前の世界で俺と唯一仲の良かった夜は、最後まで俺のファンでいてくれた。だから夜はこのやり直したこの世界でも、伝説の子役である俺のファンでいてくれると俺は信じていた。
そんな夜にこんな情けない姿を絶対に晒したくない……。
しかしそんな俺の思いは、二人に届く事はなかった。
「そうかそうか、優に抱っこされるのは嫌なんだよな? それなら、ムキムキで安定感のある俺にお姫様抱っこされた方が安心だろ?」
「元に直は渡さない」
「いや、二人ともなんでそうなるんだよ! 俺はどっちも嫌だっていってるだろ。頼むから俺を降ろしてくれよ!?」
「「ダメだ!!」」
「えぇっ!? なんでだよ~!!」
こうして俺の悲痛な叫びは虚しく響き渡った。
そのまま俺はリビングまで持ち運ばれてしまい、先に待機していた光と夜にバッチリこの姿を見られてしまったのだ。
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