上 下
6 / 57
マネージャーになる

6、寮

しおりを挟む

 されるがままに口内を舐められた俺は、離れていくゆうの顔に何が起こったのかわからないまま、ポカンと口を開けていた。

「凄いマヌケ面だな」
「は、……え? 今、何した……?」
「別に何でもいいだろ。それに、そろそろ着く」
「着くって、何処に?」
「何処って、俺達Cronus*Fantazuma クロノス*ファンタズマの4人が暮らす寮だ」
「……へ?」

 先程の事でまだ思考が追いついていないのに、どうやら次の驚きポイントはもうすぐそこまで迫ってきているようだ。
 俺は優につられてその寮を見上げる。
 そこには確かにC*Fが住んでいる寮があった。

 どうして俺がこの寮を知っているかといえば、やり直す前の世界でも同じ寮に住んでいたからだ。
 まあ、住んでいたといっても俺は相次ぐスキャンダルでここにいるのが気まずくて、すぐに出て行ってしまったのだけど……。その結果、一人暮らしのマンションから落ちて死ぬとか情けないよな。


「俺は駐車場に止めてくるから、二人は先に降りてろよ」

 はじめに言われて俺達は寮の前に降ろされていた。
 だけど俺は突然連れて来られた事に驚き過ぎて、足が動かなくなってしまったのだ。
 優はそんな俺を見て、鼻で笑った。

「ふっ、どうした。もし動けないならまた抱えてやろうか?」
「だ、大丈夫だから!! って、優!? 何勝手に持ち上げようとしてるんだよ!?」

 抵抗しているのに全く力が敵わない俺は、何故かまたお姫様抱っこされてしまったのだ。

「直は軽すぎるな……一人暮らしを始めたと聞いたが、ちゃんと食べてるのか?」
「待ってくれ! なんでその事を優が知ってるんだ?」

 母さんには俺が家を出たことは絶対誰にも言わないでくれとお願いしてある……。だから、もし優に聞かれたとしてもあの母さんなら言わない筈だ。
 でもそれなら優は一体誰から聞いたんだ?

「それは、だな……」

 優が言いづらそうに顔を逸らした瞬間、玄関の扉が突然開いたのだ。

「あれ~? 外がうるさいと思ったら、優君帰ってたの?」

 そこに現れたのは、C*Fのメンバーである水木光みずきひかるだった。
 明るいフワフワの髪に愛くるしい顔。
 その裏で、俺は何度毒舌を吐かれた事か……。
 やり直す前の光を思い出してしまった俺は、顔が見えないように優の胸に顔を埋めていた。
 光とは初対面なんだからそんな事言われるわけないのに、俺は何を怖がってるんだよ……。

「光、ただいま」
「おかえり~、優君が抱えてる人って……あっ! そっか、今日は前に言ってた新しいマネージャーさんが来る日だったんだ! ねぇ、どんなマネージャーさんなの? 僕にも顔を見せてよ~!!」
「…………いや、それはダメだ。後で全員一緒に顔合わせするから、それまでは大人しく待ってろ」

 優は何か思う事でもあったのか、何故か光から俺を隠すように後ろを向いたのだ。

「ちぇっ~! はじめ君はもう顔を見てるんでしょー、ずる~い!」
「ワガママ言うなら、会わせるのは一番最後にするけどいいのか?」
「もう、優君の意地悪! いいよ、早く見せて貰うために夜君連れてリビングで待ってるから! ちょっと、夜くーん!!」

 そう言いながら走っていく光に俺はホッとため息をつく。
 だけどそんな俺の態度に、優が疑問を抱かない訳がなかった。

「もしかして、光と知り合いなのか?」
「いや、初めて会ったけど……」

 流石に、やり直す前の世界では同じグループだったなんて言えないからな。
 しかし優にどう言い訳するべきかと考えていると、後ろからタイミングよく声がした。

「お前ら、まだ玄関にいたのか?」

 どうやら車を置いてきたはじめが、もう戻ってきたらしい。
 その姿に優もこれ以上は俺に聞く事は出来ないと思ったのか、元に返事をしていた。

「好きでいるわけがないだろ。さっきまで光に玄関を遮られていたんだ」
「あー、光は新しいマネージャーが誰なのか凄く楽しみにしてたから仕方がない。それにこの俺だって楽しみだったんだんだぜ、伝説の子役ってのに会えるのがな」

 そう言って俺の頭を撫でる元に、俺は違和感を覚えてしまう。
 おかしい、コイツこんな奴だったか?
 俺の知ってる元は、いつも面倒くさそうに俺を見てため息をつく奴だった。だからこんなふうに頭を撫でられた事なんて今まで一度もない。
 でもそれが少し嬉しかった俺は、されるがままに撫でられていた。
 それなのに何故か優はその手を突然払ったのだ。

「おい、勝手に直に触れるな」
「なんだ、お触りも禁止かよ」
「当たり前だろ。直は俺のだからな」
「……は?」

 えーっと、これはどういった状況で?
 二人の会話が全く理解できない俺は、何で二人が睨み合ってるのかもわからない。

「じゃあ、俺が横から奪ったら怒る?」
「直の事、詳しくもない癖にふざけた事を言うな」
「あー、やっぱふざけてるってバレたか~!」

 頭をかきながら笑う元を見て、どうやら俺は揶揄われていた事に気がついたのだ。
 と、言う事は優のも本気じゃないんだよな……?

「直、バカのせいで嫌な思いをさせて悪かったな。こんなバカは置いて早くリビングに連れてってやるよ」
「え? あ、はい。って、違う! いい加減俺を降ろせよ!!」

 混乱しているせいでつい頷きそうになってしまった。
 だけど、まだお姫様抱っこされたままだった事を思い出した俺は手足をバタつかせる。

「直、暴れたら危ないだろ」
「でもこのまま行くのは絶対に嫌だ!」

 今の俺には、どうしてもお姫様抱っこが嫌な理由が1つだけあった。
 俺はよるにこの姿を見られたくなかったのだ。
 やり直す前の世界で俺と唯一仲の良かった夜は、最後まで俺のファンでいてくれた。だから夜はこのやり直したこの世界でも、伝説の子役である俺のファンでいてくれると俺は信じていた。
 そんな夜にこんな情けない姿を絶対に晒したくない……。
 しかしそんな俺の思いは、二人に届く事はなかった。

「そうかそうか、優に抱っこされるのは嫌なんだよな? それなら、ムキムキで安定感のある俺にお姫様抱っこされた方が安心だろ?」
「元に直は渡さない」
「いや、二人ともなんでそうなるんだよ! 俺はどっちも嫌だっていってるだろ。頼むから俺を降ろしてくれよ!?」
「「ダメだ!!」」
「えぇっ!? なんでだよ~!!」

 こうして俺の悲痛な叫びは虚しく響き渡った。
 そのまま俺はリビングまで持ち運ばれてしまい、先に待機していた光と夜にバッチリこの姿を見られてしまったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

双子攻略が難解すぎてもうやりたくない

はー
BL
※監禁、調教、ストーカーなどの表現があります。 22歳で死んでしまった俺はどうやら乙女ゲームの世界にストーカーとして転生したらしい。 脱ストーカーして少し遠くから傍観していたはずなのにこの双子は何で絡んでくるんだ!! ストーカーされてた双子×ストーカー辞めたストーカー(転生者)の話 ⭐︎登場人物⭐︎ 元ストーカーくん(転生者)佐藤翔  主人公 一宮桜  攻略対象1 東雲春馬  攻略対象2 早乙女夏樹  攻略対象3 如月雪成(双子兄)  攻略対象4 如月雪 (双子弟)  元ストーカーくんの兄   佐藤明

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

ある日、人気俳優の弟になりました。

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!

Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。 pixivの方でも、作品投稿始めました! 名前やアイコンは変わりません 主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

ある日、人気俳優の弟になりました。2

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。 平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。

兄弟愛

まい
BL
4人兄弟の末っ子 冬馬が3人の兄に溺愛されています。※BL、無理矢理、監禁、近親相姦あります。 苦手な方はお気をつけください。

処理中です...