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プロローグ 時をやり直す
4、時が戻ってから
しおりを挟む「直君、今の君ならアイドルも夢じゃないよ!」
その光景は俺が14歳の頃、マネージャーからアイドルをやらないかと言われた時と、全く同じ状況だった。
俺は一応、鏡でその姿を確認する。
坊ちゃんヘアーに愛くるしいまん丸お目目、まだまだ子供らしさの抜けないその顔は間違いなく、当時の俺そのもので ───。
あ、アイドルになる前まで時が戻ってる!!?
「直君、どうしたのかな。アイドルは興味なかった?」
少し眉を寄せるマネージャーに申し訳なく思いながら、俺は混乱する頭をフル回転させて考えた。
もし俺がこのままアイドルになって、今度こそグループのメンバー達と良好な関係を築く事ができたとしたら、未来は変わるかもしれない。
だけどよく考えろ、どれ程グループ関係が良好になったところで、俺を執拗にパパラッチしていたやつの正体がわからない以上、スキャンダル地獄から抜け出す未来はやって来ないだろう。
それならばいっそ、スキャンダルされない立場になるというのはどうだ?
しかしその為には、芸能界をやめる方法しか今の俺には思いつかなかった。
確かに芸能界に未練はある。だけどいずれ来る不幸な世界へ戻るくらいなら、俺は芸能界を引退する事を選んでやる。
もう二度と周りからいらない存在だと思われたくないから───。
そう決心した俺は、マネージャーの手を取り残念そうに言ったのだ。
「マネージャー、俺は子役としては天才だったと思う。だけど子役を卒業する事はできない」
「それってどう言う事かな、直君?」
「俺は子役を卒業せずに、子役のまま引退する事にする」
「な、何を言い出すんだい!? そんなにアイドルになるのが嫌だというのなら、別の道に……」
「違うんだ! 俺は子役としての自分が好きだった。だからそれ以外の自分を認められない」
「な、直君。君にそこまで子役としてのプライドがあったなんて……! そこまで言うのなら仕方がないね。直君の意思はとても固いようだし、私はその意思を尊重するよ!」
こうして俺、風間直は子役のまま電撃引退する事になった。
そのおかげで引退会見や、引退ライブのような盛大なイベントを開催してもらうという、子役としては異例の扱いを受けたまま俺は芸能界を去ったのだ。
しかし俺がいなくなったのに、アイドルグループ『Cronus*Fantazuma』は結成されてしまった。
違うところといえば、センターが俺の代わりに最初から優になっていたところだろう。
どうやらあの伝説の子役、風間直の弟という売り込みをしているようで優はとても忙しそうだった。
その結果、優は忙しさのあまり実家での生活が困難となり、寮へと移る事になったのだ。
その日、荷物を取りに来た優と久しぶりに話せると俺は楽しみにしていた。
それなのに俺の前に現れた優は、まるでやり直す前の世界で見た優のように、俺を睨みつけていたのだ。
「兄貴……どうして俺の前から逃げた?」
「……へ?」
言っている意味が全くわからなくて、俺は瞬きをして聞き返してしまう。
「逃げたってどう言う意味だ?」
「俺は兄貴と一緒のグループになれると聞いていたからアイドルグループに入ったのに……凄く嬉しくて楽しみにしていたのに、なんで突然芸能界を辞めるなんて言い出したんだよ。俺には兄貴が何を考えているのか全くわからない!!」
どうやら優は、この世界でも俺と同じグループになる予定でスカウトされたらしい。
確かに俺が断るなんて社長達も思っていなかっただろうからな……優にはアイドルが嫌で逃げ出したと思われても仕方がない。
それにやり直す前の世界の優は、俺と同じグループになれて嬉しいと言っていたような気がする。だから俺が芸能界を引退した事で、優をとてもガッリさせてしまったのかもしれない。
もしかして俺はまた優を傷つけてしまった……?
罪悪感に苛まれた俺は何か言い訳をしなくてはと思ったのに、何も言葉は出てこなかった。
だって辞めた理由を優に言えるわけがない。
あのまま芸能界にいたら俺の人生はスキャンダル地獄の挙句、死ぬかもしれないなんて……絶対に信じてもらえないよな。
そして優は何も言えない俺を見て、震えながら言ったのだ。
「やっぱり、俺には何も言いえないんだ……そうか、わかった。兄貴は俺の事が嫌いなんだ、だから……!」
「いや、そうじゃない!」
「何が違うんだよ! 辞めるときだって俺には何も言ってくれなかった癖に……俺は絶対に兄貴を許さない。いつかトップアイドルになって兄貴を見返すまで、この家には帰ってこないから!」
そう言って家から飛び出した優に、俺は何も言えなかった。
暫く動けずに落ち込んでいた俺を見た母さんに、「いつかわかってもらえる日が来るわよ」なんて励まされてしまい、俺はつい泣いてしまったのだった。
それから一年が経ち、俺は今年高校に入学した。
芸能界をやめたとはいえ知名度がソコソコある為、周りから遠巻きにされる日々を過ごしていた俺にもついに友達ができたのだ。
そいつの名前は多田野仁。
なんと幼少期の幼馴染みらしいのだけど、俺はあんまり覚えてなくて申し訳ない。
しかも芸能活動をしている間はずっと俺のファンだったらしくて、ちょっと恥ずかしかった。
そんな仁はちょっと変わってるやつで、たまに俺をじっと見て何か考えながら、ずり落ちる眼鏡をよく直す癖があった。
そして俺にしょっちゅう言うのだ。
「直は本当に芸能界に戻りたいとは思ってないんだな?」
「当たり前だ。俺は今の生活が楽しくていい」
「ならよかった……直は絶対にそのままでいてくれよ」
とても安堵するその姿に、俺は何度も首を傾げてしまう。
だって仁のその言い方は、まるで俺が芸能界に戻ったら何か不幸な事がおきるのを知っているような口ぶりだったから。
だけど仁がやり直す前の世界を知ってるわけがないのに───なんで気になるのだろうか?
俺は仁とそんなやりとりを繰り返しながらも、高校3年間を楽しく過ごした。
そして今年、俺は大学へと進学する。
しかも俺達は同じ大学に行く事になったんだけど、それは仁が俺に合わせたように思えたのだ。
そして高校3年間の間、俺はちゃんとC*Fも追いかけていた。
最初は俺がいた頃よりもなかなか芽が出なかったようだけど、やり直す前の世界でトップアイドルに上り詰めただけのカリスマ性は本当にあったようだ。
C*Fは一度ヒット作を出した後から遺憾なくその実力を発揮するようになり、その人気は鰻登りだった。
そして現在、すでにC*Fはトップアイドルとなっていた。
それは俺がいた頃よりもだいぶ早いトップの座で、もしあのとき俺が足を引っ張っていなければ……なんて思った俺は少し落ち込んでしまったのだ。
だって俺のスキャンダルがでるようになったのは、大体この頃だったから……。
しかしそれはやり直す前の世界の話で、今の俺には関係ない。
俺はあの頃と今では全く違う道を進んでいるし、この調子ならスキャンダル地獄になる事もなく普通の人生を送れる筈なんだから───。
この時の俺は、本気でそう思っていた。
それなのに意外な方法で芸能界へと戻る事になるなんて、俺は全く思っていなかったのだ。
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