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プロローグ 時をやり直す
3、落下した頃
しおりを挟む昔はあんなに無邪気だったのに芸能界の荒波に飲まれた結果、優は感情をあまり出さないクールな男になってしまってしまった。
やはり優にこの世界は向いてない、あの時意地でもとめておくべきだったんだ。
そう思いながらも、偶然会えた事が嬉しくて俺はテンションが上がってしまう。
「優じゃないか、いいところにいた!」
「なんだよ、俺はまたすぐに仕事だから用があるなら手短にしてくれ」
「あ、あのな……最近、何か欲しいものとかあったりしないか?」
流石に直球すぎたかもしれない。
これでは誕生日を祝う事がバレてしまわないだろうか……。
そう思ってドキドキ見ていたら、なんだそんな事かとため息をつかれてしまった。
「俺は疲れが取れるようなマッサージ用品が欲しいよ……それかストレスを減らせるビタミン剤とかかな」
少しおじさん臭いけど、優の為だ。しっかり頭に刻んでおこう。
「優ったらまだ若いのに変なものが欲しいんだな」
「誰のせいだと思ってる?」
「……え?」
「全部兄貴が問題ばかり起こすからだろうが! 行く現場事に文句を言われるこっちの身にもなってくれ!!」
「え、いや……その、ごめん」
優の圧に負けて、俺はつい謝ってしまう。
「謝るぐらいなら、その女癖の悪さをどうにかするんだな」
「いや、俺は何もしてない! スキャンダルだって全部嘘だって伝えたじゃないか!?」
「嘘だって? そんな訳がないだろ……何もしてないならこんなに大量のスキャンダルが出てくる訳が無いんだからな!!」
「そ、そんな……」
俺はスキャンダルの度、優だけには全部嘘だと伝えていた。だから今までの話を全く信じてもらえていないなんて思っていなかったのだ。
だけどよく考えたら俺は優に対して厳しく当たっていたわけで、もしかしたらずっと恨まれ嫌われていたのかもしれない。
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「いったぁ!」
「兄貴、コレ……またアイツにやられたのか?」
優が掴んだのは、先程夜に掴まれたせいで真っ赤になっていた腕だった。
「前にアイツと仲良くすんなって言っただろうが!!」
「え?いや、そんなこと言われても……夜はいい奴だし───」
「そうやってすぐに庇うし、次はアイツとのスキャンダルでも出すつもりか?」
「なっ、俺達はそんな仲じゃ!?」
「そう思われても仕方がないって事ぐらいわかれよ!」
確かに今の俺は、少し仲良く話すだけで誰とでもスキャンダルにされてしまう。
だから事務所内ならともかく、外では一緒にいない方がいいのかもしれない。
「いい加減これ以上俺達に迷惑かけるな。ファンタズマは今が勝負の時期なんだ、だから兄貴みたいなのに足を引っ張られると困るんだよ……。それと、さっきまで社長と兄貴の事で話し合ってきたんだ。それで兄貴は一月の謹慎が決まったから、スキャンダルが収まるまでは部屋に閉じこもってろ」
「……そんな。なんで俺に言わずに勝手に決めるんだ!」
「兄貴は本当に周りが見えてないんだな。俺の周りで兄貴がなんて言われてるか知ってるか?」
優は俺を睨みながら憎々しく言葉を発したのだ。
「兄貴は俺に引っ付いてる金魚の糞って言われてるんだよ」
「……え?」
「だからさ、いい加減俺の前から消えてくれないか?」
そう言って去って行く優の姿に、俺は何も言えなけて暫く動く事もできなかった。
そしてようやく動けるようになった俺は慌てて事務所を飛び出すと、無意識に優が欲しいと言ったものを買い込んで家まで帰ってきたのだ。
今住んでいるマンションは20階建てで、俺の部屋は11階にあった。
その部屋にフラフラしながら入った俺は荷物を放り投げて、すぐに冷蔵庫にあるお酒を手に取った。
「くっそ~! なんで俺はこんなときに誕プレなんて買っちゃったんだよ!? 優は何あげてもきっと喜んでくれないのわかってるのに……。それに周りも何なんだよ! 誰が金魚の糞だ、俺だって好きでくっついてる訳じゃないっつうの!!」
俺の愚痴は止まらない。
その勢いのまま次々にお酒を開けていく。
そして俺は、家を出たときには置いてなかった筈のアルバムが机に置いてある事に気がついた。
「あれ~、おかしいなぁ。俺こんなの出したままだったかなぁ?」
俺は昔から、朝出かける前と帰ってきたときの部屋の配置が違うという事が何度もあるため、いつも記憶違いだろうと思って気にしていなかった。
しかしそのアルバムを開くと、あからさまに写真が抜かれているような跡があり、俺は首を傾げてしまう。
「何で、写真がないんだろ……俺、写真抜いたっけ? あー、この頃は優も可愛かったなぁ~」
お酒の入っている俺はそんな疑問を片隅から吹き飛ばすと、まだ5歳ぐらいの俺と優の写真をみて懐かしがっていた。
「これって、優が5歳の誕生日を祝ってくれたときの写真か~」
俺はその写真をアルバムから抜き取ると、それを持ってベランダへと出ていた。
お酒のせいで体が火照っていた俺は、少し体を冷やしたかったのだ。
そして写真を見ながら、優に向けて悪態をつく。
「何が史上最高の美男子だ……しかも抱かれたい男NO.1ってなんだよ。優はまだ未成年だっていうのに! 全く、未成年をランキングにいれるなよな~。本当、一体どこで俺との差が開いたって言うんだよ……」
F*Cが結成された頃はまだ順調だった気がする。確かにあの頃は俺もガキだったからだいぶ調子に乗ってて、周りに迷惑をかけていた。
でも気がついたら周りに抜かれてて、そのうえにスキャンダルだらけときたもんだ。
「はぁ、本気で芸能界辞めた方が良いのかな……」
俺は優に『いい加減俺の前から消えてくれと』と言われた事を思い出して胸が苦しくなっていた。
少しうざがられているのは気がついてたけど、俺って弟にあんなにも嫌われてたんだな……ずっと一緒にいたのに全く気が付かなかった。
「くっそ~! 優の馬鹿やろ~~!!」
そう叫んで手を上げる。
その瞬間、突風に煽られて手から写真が離れたのだ。
「これは、優との大事な写真なのに!!」
酔っ払っていたせいなのかまともな思考なんてないまま、俺は不意に手摺りを乗り越えて手を伸ばしていた。
そしてなんとか写真を掴んだ……まではよかった。
「……あっ!!」
外に飛び出した俺は気がつけば写真を握りしめ、真っ逆さまに落ちていた。
ここは11階だ、もう助かるわけがない。
でもこの時の俺は冷静だった。きっとスキャンダルに追い込まれ過ぎた俺は、この瞬間を望んでいたのかもしれない。
だから俺は最後に祈った。
神様、来世は普通の生活がいいです。
もう二度と調子こいたり誰かを傷つけたりしないから……そうだ、もし戻れるなら子役時代からやり直してみたいもんだな───。
そう思った次の瞬間、世界は真っ白に染まった。
きっとこの時、俺は地面に叩きつけられて即死だった筈だ。
それなのにまだ意識がある事に俺は不思議に思い、ここが天国なのかと思いながらゆっくりと目を開けた。
目の前には俺の子役時代のマネージャーが、何故か立っていた。
焦った俺は自分の体を確認する。
その体はまだ成長しきっておらず小さい。
「あ、あれ……?」
これはまさかと、俺はもう一度マネージャーを見た。
その嬉しそうな顔を俺は見た事がある。
確かこの後マネージャーはニコリと笑い俺に言うのだ。
「直君、今日呼び出したのは君に聞いて欲しい事があるからだよ」
一語一句聞いたことのある言葉に、俺は次にくる言葉がわかってしまったのだ。
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