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プロローグ 時をやり直す
1、調子に乗ってた頃
しおりを挟む「直君、今の君ならアイドルも夢じゃないよ!」
目の前でそう言うマネージャーに、俺は当たり前だろうと鏡を見た。
そこには坊ちゃんヘアーに愛くるしいまん丸お目目、まだまだ子供らしさの抜けないその顔は美少年として完成されていた。
俺の名前は風間直。
10歳のときに天才子役として一世を風靡した結果、可愛さと子供とは思えない賢さから大大大人気となり、現在も繊細な演技でお茶の間を泣かせる事に定評のある、一流の中の一流の子役だ!
「直君はもう15歳になるからね、そろそろ子役を卒業して新しい道を決めないといけないんだよ」
「だから俺をアイドルにしたいと、社長は言ってるんだろ?」
「その通りだよ!! 直君は小さくて可愛いだけじゃなく、ダンスも歌も何でもできるスーパーボーイだからね!」
「ふん、当然だ!」
その為に、これまで血反吐を吐く程の訓練をしてきたのだからあたりまえだ。
しかしこの俺が俳優ではなく、アイドルというのは社長も何を考えているんだ……?
もしかするとこの俺なら、すぐにトップアイドルになれると期待されているのかもしれない!
「それでね、直君にはこのアイドルグループに所属して欲しいんだ」
「グループだって?」
「もちろん直君がセンターであって、直君を引き立てる為のグループだよ?」
「なるほどね。それなら俺は期待に答えるために確実にトップアイドルになってみせる!!」
握り拳を作ったこの時の俺は、とても調子に乗っていた。
だからこそ、今後の人生がどうなるかなんて全く分かってないなかったんだ。
そして15歳の誕生日、俺の為に作られたアイドルグループ『Cronus*Fantazuma』は結成された。
「直君、彼らが君の為に集められたメンバーだよ?」
どうやら集められた奴らは俺の事を知っているのだろう、皆キラキラした目で俺を見ていた。
まあ、俺は一流中の一流なのだからそんなのは当たり前の事だろう。
しかしその中に一人だけ、知っている奴がいて俺は顔を歪めてしまう。
「なんで、コイツがここにいるんだ?」
「何故、と聞かれても……? 俺もこのグループに誘われたからだよ、兄さん」
そこには俺の弟、風間優が立っていた。
優も一応子役をやっていたのだけど、俺とは違い有名になる事のなかった凡人中の凡人だった。
「俺、一度でいいから兄さんと同じ舞台に立ってみたかったから、同じグループに入れた事が凄く嬉しい……」
そう言って笑う姿は、俺と一つしか歳が離れていないのにとても無邪気で……こんな奴が本当に芸能界で生き残れるのかと、いつも俺は心配だった。
だから俺は、いつものように優へと厳しい言葉をかけてしまったのだ。
「お前なんかじゃ、どうせ俺について来れない。辞退するなら今だぞ?」
「……そんなのわかってる。でも、俺は兄さんとなら頑張れるから……!」
少しショックを受けている優に言い過ぎたと思いつつも、これ以上かける言葉が俺には思い浮かばなかった。
気まずくて俺は優から顔を逸らすと、残りの3人へと視線を向けた。
「……それで、お前らは?」
「俺は火野元だ。一応直の2つ上で、一番年上だからという理由でグループのリーダーをさせて貰える事になった。これからどうぞよろしく」
リーダーだと名乗った男は、いかにも体育会系のガタイのいいやつだった。
気になったのはリーダーという点だけど、別に俺はリーダーをやりたい訳じゃないのでそこには触れない事にした。
そして次にその横の奴を見ると、少し明るめな髪をフワフワ揺らし元気に手を挙げていた。
「あの、僕の名前は水木光です! 直さんに憧れてこの世界に入ったので、一生懸命頑張ります!」
「そうか俺に憧れてか……お前、少しは見所があるかもしれないな」
「本当ですか、ありがとうございます」
嬉しそうにジャンプする光は小動物にしか見えない。その姿に、多分コイツもダメそうだなと俺はため息をついてしまう。
だから俺はすぐに最後の一人へと切り替えた。
「えっと、最後のお前は?」
「……っ」
しかし全く名乗ろうとしないソイツに、イラッとした俺は顔をよく見て驚いた。
ソイツの顔は半分が髪の毛で隠れていたのだ。
俺はその事に耐えられなくて手を伸ばす。
「最後のお前はなんで前髪で顔を隠してんだよ!」
「っ!?」
少し根暗そうなソイツの前髪を、俺はササッと左右に分けてやる。
「俺達は見られる事が仕事なのに、顔が隠れてるとかありえないだろ?」
「ご、ごめんなさい。そうですよね……あ、俺は土屋夜です。あの俺……直さんがデビューしたときからのファンで、小さい頃からずっと見てました!」
「ふーん、ファンねぇ……ファン過ぎてこの世界に飛び込んだっていうのか?」
「そ、そうです!」
顔を真っ赤にして言うコイツに、俺は鼻で笑ってしまう。
だって、この世界はそんな生温い意志では生きていけない。死ぬ気で上を目指したものだけが、真の一流になれるのだから───。
俺は目の前にいる四人を見下しながら言ったのだ。
「お前ら、そんな覚悟でここに来たのなら今すぐ辞めろ! それにお前らがいなくても、俺は一人でトップアイドルになってやるよ!!」
言ってる自分でもわかる程嫌味な発言だけど、俺からしたらこれはコイツらの為を思っての言葉だった。
だってこれからの道を考えたら、こんな甘ちゃん達は何処かで壊れる。その前に芸能界なんてやめた方がいいと思ったのだ。
だけど俺からの優しさは、彼らにうまく伝わることはなかった。目の前にいる四人の顔は絶望し、俺を唖然と見ていた。
だけどここで甘やかしてはいけないと、俺はコイツらをあえて突き放す事を決めたのだ。
しかし、その日から俺と彼らの溝が埋まる事は最後まで無かった。
そして月日は流れ、俺は20歳になっていた。
アイドルグループ『Cronus*Fantazuma』は順調に人気を集めていき、今やトップアイドルの仲間入りを果たしていた。
それなのに、何故か俺を除いた4人だけがトップアイドルとなっていたのだ。
そんな俺といえば───。
「直君、どうして君はすぐに問題を起こすんだい!?」
「え……?」
マネージャーに突然怒られた俺は、理由が分からず狼狽えてしまう。
そして横にいた元はため息をつくと蔑んだ目をしながら俺に言った。
「直、お前またパパラッチにスキャンダル撮られてたぞ? いい加減女遊びはやめろって言っただろ」
「え? まってくれよ、俺はそんな事……!」
「直君! もう言い訳は聞きたくないよ。今月だけでもう三度目、君の女遊びの酷さのせいでCronus*Fantazuma』にも影響が出てしまってるんだからね」
「す、すみません……」
俺は訳も分からず頭を下げる。
こうしないと今のマネージャーは機嫌がなおらないからだ。
そして必死に謝り続けた俺は、1時間後にようやく説教から解放されたのだった。
そんな訳で俺、風間直の人気は現在大暴落中。
スキャンダルのせいで木陰で生きるような生活をする羽目になっていた。
しかしそのスキャンダルは、何一つ本当の事なんて書かれていなかったのだ。
だって俺は今まで一度も彼女が出来た事も、女遊びさえもした事がないのに。
一体どうしてこんな事に───?
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