白陽の残骸

iroha

文字の大きさ
上 下
18 / 20

番外編:おおきいねことちいさいねこ

しおりを挟む
「翡翠、どうしよう……」

 真剣な面持ちで翡翠の部屋に現れたのは、翡翠の主だ。
 ちょうど昼餉の時間で、いつもなら午前の政務を終えた王とゆっくり過ごす時間のはずだ。二人きりで過ごす時間を、と考えてその時間は翡翠も自室に戻るようにしている。
 慌てて自室の執務机から離れて翡翠が扉に近寄ると、翡翠の主は廊下を見回してから小さな翡翠の部屋へと入り込んだ。

「どうしたのです。まさか、陛下と喧嘩でも……」
「喧嘩、というわけじゃないんだ。でも、こういうことは翡翠にしか相談できなくて……」
 言いよどんだ要の胸のあたりから、にゃあ、とか細い声が聞こえた。目を丸くした翡翠に、要が困り顔で笑う。主の懐から現れたのは、子猫だった。

「ちょっと気晴らしをしようと思って、庭に出てみたんだ。頑張って探したけど、母猫の姿もなくてさ……」
「……護衛もつけずに、ですか?」
 己の侍従に、翡翠の主はばつが悪そうな顔をした。その間も子猫は鳴いて、要の手から顔を覗かせている。

「気晴らしは大切ですが、せめて俺がいる時にしてください」
 はあい、としょげた返事に翡翠はやれやれといった顔をしてから要の手の中から脱走しようとしている子猫を抱き上げた。

「俺も本当に小さい頃に羊の世話をしたことくらいしかないので、お世話ができるか分かりませんが……なんとかしましょう」
「いいの?」
 主の期待に満ちた眼差しに翡翠が頷き返したところで、無遠慮に翡翠の部屋の扉が開いた。


「あれ、紅玉まで」
 昼餉の時間は警護のために王と神子二人の近くにいることも多い紅玉が現れた。翡翠が目を丸くしていると、心持ち不機嫌そうな顔で翡翠たちを見やる。

「要。あいつが鬱陶しいから、さっさと部屋に戻ってくれ。お前が戻るまで昼餉を待つとか言い出して、面倒くさい」
「えっ! ごめん、翡翠。すぐ戻るからね!」
 そう言い置いて、翡翠の主は慌てて自身の部屋へと戻っていった。 

 部屋に残されたのは、紅玉と翡翠――そして、子猫だ。

 にゃあ、とまた鳴いた小さな生き物を、紅玉が怪訝そうな目で見てきた。

「ああ、この子? 要が連れてきたんだ。可愛いよね」
 両手で子猫を抱き上げながら、翡翠が子猫に笑いかけると、急に紅玉が子猫の襟首を片方の手でつまみ上げた。

「これはあいつが連れてきた猫だな。どうせ要に見せようと思ったんだろう。世話は石英がすると言っていた」
「ああ、そういうこと? じゃあお前のおうちも、これからはここなんだね」
 紅玉がつまみ上げている猫に向かって、満面の笑みを浮かべた翡翠の視界に、なんともいえない表情をした紅玉が映った。空いている方の手で、翡翠の柔らかな白銀の髪をかき混ぜてくる。

「……翡翠も猫を飼いたいのか?」
「俺は要の部屋にいることが多いから、生き物を飼うのは無理かなあ。……手がかかる大きいのもいるし」
 む? という顔をした紅玉に、悪戯めいた笑みを翡翠が返すと、『おろしてー』と言いたげに子猫がまた鳴いたのだった。
 
Fin.
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話

あかさたな!
BL
潜入捜査官のユウジは マフィアのボスの愛人まで潜入していた。 だがある日、それがボスにバレて、 執着監禁されちゃって、 幸せになっちゃう話 少し歪んだ愛だが、ルカという歳下に メロメロに溺愛されちゃう。 そんなハッピー寄りなティーストです! ▶︎潜入捜査とかスパイとか設定がかなりゆるふわですが、 雰囲気だけ楽しんでいただけると幸いです! _____ ▶︎タイトルそのうち変えます 2022/05/16変更! 拘束(仮題名)→ 潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話 ▶︎毎日18時更新頑張ります!一万字前後のお話に収める予定です 2022/05/24の更新は1日お休みします。すみません。   ▶︎▶︎r18表現が含まれます※ ◀︎◀︎ _____

生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた

キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。 人外✕人間 ♡喘ぎな分、いつもより過激です。 以下注意 ♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり 2024/01/31追記  本作品はキルキのオリジナル小説です。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

【R18】しごでき部長とわんこ部下の内緒事 。

枯枝るぅ
BL
めちゃくちゃ仕事出来るけどめちゃくちゃ厳しくて、部下達から綺麗な顔して言葉がキツいと恐れられている鬼部長、市橋 彩人(いちはし あやと)には秘密がある。 仕事が出来ないわけではないけど物凄く出来るわけでもない、至って普通な、だけど神経がやたらと図太くいつもヘラヘラしている部下、神崎 柊真(かんざき とうま)にも秘密がある。 秘密がある2人の秘密の関係のお話。 年下ワンコ(実はドS)×年上俺様(実はドM)のコミカルなエロです。 でもちょっと属性弱いかもしれない… R18には※印つけます。

ゆらゆら

新羽梅衣
BL
地味で内気な高校三年生の青柳夏芽(あおやぎなつめ)は、毎晩寝る前にSNSを見るのが日課だった。それは周りの話に置いていかれないための、半ば義務のようなもの。 ある夜、いつものようにネットの海を漂っていた夏芽は一枚の写真に目を奪われる。 桜の木にもたれかかった、あまりにも美しすぎる男。それは予告無く現れた一番星のようで。夏芽は、白金の髪を靡かせた無表情な彼に一目惚れしてしまう。 アカウント名は桜の絵文字。 分かっているのは顔と誕生日、そして大学の名前。 彼に会いたいと思った夏芽は、桜の君と同じ大学に入学する。 笑わないインフルエンサーと、彼を追いかけてきた平凡な後輩。そんなふたりの焦れったいピュアラブ。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...