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監禁十三日目
監禁十三日目① 駅
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俺は地元あるS駅のロータリーにいた。ミニバンの運転席には葉子がいる。そもそも運転免許を持たない優夜に車は使えない。だから、運転手兼監視役として葉子が来たのだ。
──何が葉子さんは忙しい、だ。
心の中で毒づく。葉子は忙しくてできないという、あれはやはり紫音の方便だったのだ
S駅は決して大きな駅ではないが、近年で駅周辺に新興住宅が建ち並び、駅の大きさに反して利用者の多い駅であった。
夕方の時間帯で、帰宅する会社員や学生が駅から次々と吐き出されていく。この中に、莉乃がいるのだろうか。
莉乃はどこか遠くへ行ってしまったような気持ちでいた。しかし、その駅は優夜の最寄り駅からたった二駅しか離れていなかった。
「情報によれば、彼女は五分後に到着予定の電車に乗っている。人が多いから見逃さないようにね」
「どこからそんな情報が?」
優夜の問いに葉子は、ふふっと笑みを浮かべるだけであった。
紫音によると莉乃は今この駅から十分ほど歩いたところにあるマンションに一人で住んでいるらしい。そのマンションは住宅街からは少し外れており、人通りも少ない。そこを狙うというのだ。
辺りに人がいなくなったところで、面識のある優夜が近づき、隙をついて改造スタンガンで気絶させ、横につけた
車に乗せるという手筈だった。優夜が手に持つスタンガンは、おそらく自分を気絶させたものと同じだろう。
屋敷から駅までは後ろ手に手錠をされ、目隠しとヘッドホンで音楽を聞かされた。
「もちろん特定されないために、回り道をして行くことになるから長旅になるよ」
そこまで屋敷の場所をひた隠しにしたいのだろう。その言葉の通り、二時間以上車に乗っていた。山道のような場所わ抜けた感覚こそあったが、場所を特定することは困難だろう。
暫くして電車がやったきた。あれに、莉乃が……
また駅から多くの人が出てきた。あれだけたくさんの人が、それぞれの人生を生きている。すぐそこに、いつもの日常があるはずなのに、車の中と外の境目は果てしなく広がっていた。
スタンガンで葉子を気絶させ、警察に駆け込もうかと何度も考えた。しかし、運転席と後部座席の間には分厚いプレートが取り付けられており、運転席にいる葉子に手を出すことはできなかった。車にはカメラが取り付けられていた。
「これで君を監視している。何か変な動きがあれば、わかるだろ?」
紫音のムカつく顔が思い出された。
人混みの中に、その姿を見つけた。どうやら、葉子も見つけたようだ。懐かしい横顔、しかし忘れられない横顔。その再会が、こんな形になるなんて。
莉乃は半袖の薄いピンクのノースリーブのブラウスに、白のロングスカートを履いていた。その姿を見た瞬間、優夜の心は、莉乃と恋をしていた日々がフラッシュバックした。
俺は、やっぱり莉乃が、好きだった。なのに、俺は、これから君を拉致するのか。
──何が葉子さんは忙しい、だ。
心の中で毒づく。葉子は忙しくてできないという、あれはやはり紫音の方便だったのだ
S駅は決して大きな駅ではないが、近年で駅周辺に新興住宅が建ち並び、駅の大きさに反して利用者の多い駅であった。
夕方の時間帯で、帰宅する会社員や学生が駅から次々と吐き出されていく。この中に、莉乃がいるのだろうか。
莉乃はどこか遠くへ行ってしまったような気持ちでいた。しかし、その駅は優夜の最寄り駅からたった二駅しか離れていなかった。
「情報によれば、彼女は五分後に到着予定の電車に乗っている。人が多いから見逃さないようにね」
「どこからそんな情報が?」
優夜の問いに葉子は、ふふっと笑みを浮かべるだけであった。
紫音によると莉乃は今この駅から十分ほど歩いたところにあるマンションに一人で住んでいるらしい。そのマンションは住宅街からは少し外れており、人通りも少ない。そこを狙うというのだ。
辺りに人がいなくなったところで、面識のある優夜が近づき、隙をついて改造スタンガンで気絶させ、横につけた
車に乗せるという手筈だった。優夜が手に持つスタンガンは、おそらく自分を気絶させたものと同じだろう。
屋敷から駅までは後ろ手に手錠をされ、目隠しとヘッドホンで音楽を聞かされた。
「もちろん特定されないために、回り道をして行くことになるから長旅になるよ」
そこまで屋敷の場所をひた隠しにしたいのだろう。その言葉の通り、二時間以上車に乗っていた。山道のような場所わ抜けた感覚こそあったが、場所を特定することは困難だろう。
暫くして電車がやったきた。あれに、莉乃が……
また駅から多くの人が出てきた。あれだけたくさんの人が、それぞれの人生を生きている。すぐそこに、いつもの日常があるはずなのに、車の中と外の境目は果てしなく広がっていた。
スタンガンで葉子を気絶させ、警察に駆け込もうかと何度も考えた。しかし、運転席と後部座席の間には分厚いプレートが取り付けられており、運転席にいる葉子に手を出すことはできなかった。車にはカメラが取り付けられていた。
「これで君を監視している。何か変な動きがあれば、わかるだろ?」
紫音のムカつく顔が思い出された。
人混みの中に、その姿を見つけた。どうやら、葉子も見つけたようだ。懐かしい横顔、しかし忘れられない横顔。その再会が、こんな形になるなんて。
莉乃は半袖の薄いピンクのノースリーブのブラウスに、白のロングスカートを履いていた。その姿を見た瞬間、優夜の心は、莉乃と恋をしていた日々がフラッシュバックした。
俺は、やっぱり莉乃が、好きだった。なのに、俺は、これから君を拉致するのか。
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