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監禁十日目
監禁十日目⑩ 人形
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浴室から出ても、呆然としたままだった。逃亡はおろか、ただ呼吸をするだけで精一杯になっていた。
もちろん拘束は解かれることはなかった。来たときの手順を綺麗に逆になぞるように椅子に拘束された。
しかし、違っていたのは、椅子の横に何らかの機械があっこと、そしてその横に紫音がいたことだ。
「どうも」
拘束を終え、葉子が部屋を出ると、またも飄々とした態度で挨拶をしてきた。
「それは、何だ」
「これは、採血するための機械だよ。実は君の血液はここに連れてきた時にこれで一度抜かせて貰ってる。といっても君は気絶していたけどね」
そう言うと、紫音は注射針を優夜に刺した。
「血を四百ミリリットル抜くのに、退屈だろうから少し話に付き合ってあげよう。ちなみに妹さんは無事なので、それ以外で」
「お前たちは、本当に血を使って、生きているのか」
「そうだね。なかなか理解しづらいだろうけどね」
その顔はまるで爬虫類のように見える。
「こうして動いている上で血は必要不可欠なものだ。身体に栄養を巡らせ、脳に酸素をもたらす。血液は我々を生かすために大切な要素だ」
「血をどうやって使っている」
「輸血みたいなものと思ってもらえればいい。一概にそうとは言えないが、ここから先は、君が理解しがたい世界の話だ。君が信じてきた常識という偏見が、この話を受け入れるか、わからない」
紫音はひとつ息を呑み、それまで見せたことない真面目な顔でゆっくりと語った。
「君は“魂”を信じるかい」
「“魂”だと……?」
その時、扉に二つの影が見えた。
ひとつは、紅子のようだ。そして、もうひとつの影。その影が姿を表した時、優夜は息をすることさえ忘れていた。
「優夜様、お元気ですか」
向こうからやってきた“それ”は、あの老人、雨宮順三であった。そして優夜が恐怖を抱いたのは、その身体だった。
雨宮順三の声で喋るもの、それは雨宮順三を模した人形の姿であったからだ。
「優夜様、私も改めてご挨拶を。“この姿”はお初にお目にかかるのですから」
──違う。それは紅子の容姿とは似ているが、紅子ではない。しかし、その姿はそれまで見てきたものとは違うもの。
それは人形ではない、紛れもない人間の姿形をした御子神蒼子そのものであった。
もちろん拘束は解かれることはなかった。来たときの手順を綺麗に逆になぞるように椅子に拘束された。
しかし、違っていたのは、椅子の横に何らかの機械があっこと、そしてその横に紫音がいたことだ。
「どうも」
拘束を終え、葉子が部屋を出ると、またも飄々とした態度で挨拶をしてきた。
「それは、何だ」
「これは、採血するための機械だよ。実は君の血液はここに連れてきた時にこれで一度抜かせて貰ってる。といっても君は気絶していたけどね」
そう言うと、紫音は注射針を優夜に刺した。
「血を四百ミリリットル抜くのに、退屈だろうから少し話に付き合ってあげよう。ちなみに妹さんは無事なので、それ以外で」
「お前たちは、本当に血を使って、生きているのか」
「そうだね。なかなか理解しづらいだろうけどね」
その顔はまるで爬虫類のように見える。
「こうして動いている上で血は必要不可欠なものだ。身体に栄養を巡らせ、脳に酸素をもたらす。血液は我々を生かすために大切な要素だ」
「血をどうやって使っている」
「輸血みたいなものと思ってもらえればいい。一概にそうとは言えないが、ここから先は、君が理解しがたい世界の話だ。君が信じてきた常識という偏見が、この話を受け入れるか、わからない」
紫音はひとつ息を呑み、それまで見せたことない真面目な顔でゆっくりと語った。
「君は“魂”を信じるかい」
「“魂”だと……?」
その時、扉に二つの影が見えた。
ひとつは、紅子のようだ。そして、もうひとつの影。その影が姿を表した時、優夜は息をすることさえ忘れていた。
「優夜様、お元気ですか」
向こうからやってきた“それ”は、あの老人、雨宮順三であった。そして優夜が恐怖を抱いたのは、その身体だった。
雨宮順三の声で喋るもの、それは雨宮順三を模した人形の姿であったからだ。
「優夜様、私も改めてご挨拶を。“この姿”はお初にお目にかかるのですから」
──違う。それは紅子の容姿とは似ているが、紅子ではない。しかし、その姿はそれまで見てきたものとは違うもの。
それは人形ではない、紛れもない人間の姿形をした御子神蒼子そのものであった。
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