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監禁十日目
監禁十日目⑦ 紫音
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「そうよ。私の家系はずっと御子神家に仕えてきた。私も、貴方の殺した父、雨宮順三も」
葉子は雨宮の娘だった。突然の告白に、何も言えなかった。
「父。あの、雨宮が……」
しばしの沈黙の後に、ようやく絞り出すように声を出す。葉子は、腕を組んだまま、憮然とした態度で立っている。蒼子と紅子はそれを静かに見守っていた。
「もちろん、貴方が父を殺したことに違いないわ。しかし、こんなことをしてるんですもの。それをどうこうするつもりはないわ。それは貴方のせいではない、殺された父の責任よ」
葉子の眼鏡の奥はかすかに涙を浮かべているように見えた。雨宮は紛れもない犯罪者だ。優夜をここへ拉致監禁していた。そして、おそらくは以前にも。だが、同時に一人の娘の父親だった。
それを殺した俺の罪は、果たして赦されるものだろうか。しかし、そう思ったのも束の間、すぐに和奏を思い浮かべた。コイツらは俺だけでなく、妹まで拉致監禁し、あんなに惨いことを……それを絶対に赦されてはいけない。
「お喋りし過ぎたわね。ごめんなさい」
葉子は優夜ではなく、蒼子と紅子にそう告げた。
まだまだ訊きたいこと、いや訊かなければならないことは山ほどある。しかし、三人はそのまま去っていってしまった。
優夜は拘束されたままの姿で、確認できない妹の身を案じていた。和奏、俺のせいで酷い目に……
雨宮葉子の告白によって、優夜はあらためて雨宮順三という老人への罪の意識に苛まれそうになった。しかし、和奏の顔を思い浮かべた瞬間に、それは消えてなくなった。
しっかりしろ。なんとか、和奏を連れてここから逃げ出すんだ。考えろ、考えろ。今は強固な拘束だが、必ずチャンスはある。そのチャンスを、見逃すな。
扉が開いた。そこにいたのは、見覚えのある男。
ガリガリと呼べるほど細身で、猫背で背が高い男だ。顔は爬虫類を思わせる細目で鋭い目つきに、軽くパーマを当てた髪はラフだが、整っている。
それは肖像画の男、そして優夜の主治医だった、あの医者であった。
「どうも。元気かい、僕を覚えてるかな」
「ああ、あの時は神様に見えたけどな」
「医者は神の意志に背く存在だよ。尤も、我々の存在そのものが神に背く存在かもしれないが」
「あらためて自己紹介しておこう。僕は御子神紫音だ」
飄々とした態度を崩さないまま、紫音は優夜に近づく。
「色々見せてもらったよ。若さとはいいね。そのバイタリティは生命力の証であり、君の生命力こそ、我が御子神家の力となる」
「俺の血を、何だと思ってるんだ」
「君の血液は特別なんだよ。血液こそ人の命だ。そして、その特殊な型ゆえ、珍しさが足枷にもなる。君が運ばれてきて驚いたよ。まさか、自分たちのもとに求めてた血液を持つ人間が来るなんて」
葉子は雨宮の娘だった。突然の告白に、何も言えなかった。
「父。あの、雨宮が……」
しばしの沈黙の後に、ようやく絞り出すように声を出す。葉子は、腕を組んだまま、憮然とした態度で立っている。蒼子と紅子はそれを静かに見守っていた。
「もちろん、貴方が父を殺したことに違いないわ。しかし、こんなことをしてるんですもの。それをどうこうするつもりはないわ。それは貴方のせいではない、殺された父の責任よ」
葉子の眼鏡の奥はかすかに涙を浮かべているように見えた。雨宮は紛れもない犯罪者だ。優夜をここへ拉致監禁していた。そして、おそらくは以前にも。だが、同時に一人の娘の父親だった。
それを殺した俺の罪は、果たして赦されるものだろうか。しかし、そう思ったのも束の間、すぐに和奏を思い浮かべた。コイツらは俺だけでなく、妹まで拉致監禁し、あんなに惨いことを……それを絶対に赦されてはいけない。
「お喋りし過ぎたわね。ごめんなさい」
葉子は優夜ではなく、蒼子と紅子にそう告げた。
まだまだ訊きたいこと、いや訊かなければならないことは山ほどある。しかし、三人はそのまま去っていってしまった。
優夜は拘束されたままの姿で、確認できない妹の身を案じていた。和奏、俺のせいで酷い目に……
雨宮葉子の告白によって、優夜はあらためて雨宮順三という老人への罪の意識に苛まれそうになった。しかし、和奏の顔を思い浮かべた瞬間に、それは消えてなくなった。
しっかりしろ。なんとか、和奏を連れてここから逃げ出すんだ。考えろ、考えろ。今は強固な拘束だが、必ずチャンスはある。そのチャンスを、見逃すな。
扉が開いた。そこにいたのは、見覚えのある男。
ガリガリと呼べるほど細身で、猫背で背が高い男だ。顔は爬虫類を思わせる細目で鋭い目つきに、軽くパーマを当てた髪はラフだが、整っている。
それは肖像画の男、そして優夜の主治医だった、あの医者であった。
「どうも。元気かい、僕を覚えてるかな」
「ああ、あの時は神様に見えたけどな」
「医者は神の意志に背く存在だよ。尤も、我々の存在そのものが神に背く存在かもしれないが」
「あらためて自己紹介しておこう。僕は御子神紫音だ」
飄々とした態度を崩さないまま、紫音は優夜に近づく。
「色々見せてもらったよ。若さとはいいね。そのバイタリティは生命力の証であり、君の生命力こそ、我が御子神家の力となる」
「俺の血を、何だと思ってるんだ」
「君の血液は特別なんだよ。血液こそ人の命だ。そして、その特殊な型ゆえ、珍しさが足枷にもなる。君が運ばれてきて驚いたよ。まさか、自分たちのもとに求めてた血液を持つ人間が来るなんて」
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