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来客
第十話
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「違うって? そんなわけないよなぁ。こんな分かりやすい状況なのに。
それと、この部屋に入った時、微かだけどアンモニア臭がした。 それに下の脱衣所を見た時に、洗濯機にタオルとパンツが濡れたまま入っていて、スカートが洗面台に浸けてあった。
何があったかなんて想像つくさ。職業柄、そういうことには鋭いからさ。君はここで……」
「いや!やめて!」
雪子は声を上げる、しかしその声は、虚しい叫びとなって部屋に木霊するだけだった。
「今まで仕事をしていて、人と出くわしてしまうこともあって、そうした時は申し訳ないが、ちょっと脅して大人しくさせてもらったんだ。といっても殺したわけじゃなくて、君みたいに縛っただけだよ」
何をこんなにペラペラと喋っているんだろう、と雪子は不思議になっていた。普通、強盗とはもっと焦って犯行に及ぶものではないのか。
「普段はこんなベラベラ喋らないんだけどね。頂くのを頂いてとっとと消える、それがモットーだから」
雪子は心を読み取られたように雄弁に語る男に驚く。
「だけど、こんな面白い女の子なかなかいないから、長居しちゃったよ。まぁ、君の両親がまだまだ帰って来ないことは知ってるからさ、偶然温泉の券が当たったんでしょ。正直、一人分払って三人で温泉へ行くと思ってたのにさ。まさか君が残ってるとは。
でも、家を見ると窓は開いてたし、君はすっかり寝込んでいたようなので、お邪魔したというわけさ」
なんて余裕をかましている強盗なんだ。普通であれば、目的を達成したら現場からはいち早く立ち去りたくなる心理のはずだ。
「縛られることに興味ある女の子なんて、そうそういないからさ。興味が出ちゃったんだ。しかし、君も、今日は大変だっただろうし、あんまり付き合わせちゃ悪いからね。結局、身体を縛らせてもらってるんだけども。そろそろ、おいとまさせてもらうよ。
ま、悪く思わないでね。願望を叶えてあげたんだし。それじゃ」
窓を開ける音がして、それきり男の声も気配もなくなっていた。
様々な事象が重なり過ぎて、頭がついていかない。雪子の心はもう限界だった。
今、自分の身に起こっていることが、もう分からなくなっていた。雪子には、その絡まってしまった感情をほどく気力も残っていない。
「誰か……助けて」
雪子は気を失った。
置き去りにされた雪子だが、三時間後に両親によって発見され、警察と救急車が呼ばれた。家にあったアクセサリーや金品が盗られていた。
一方、雪子は大した怪我もなく、膝を軽く擦りむいた程度──しかも怪我をしたのは自縛していた時に自分でぶつけた──だったが、念のため一晩入院することとなった。
警察からいくつかの質問をされたが、眠っているうちに拘束され、目隠しをされていた雪子には役に立つようなことは答えられなかった。
警察は窓を開けて昼寝している時に、物盗りが侵入したのだろうという結論であった。雪子の証言もあり、それは、ここ最近、近所を騒がせていた強盗の犯行であると結論づけた。
犯行は雪子の家で六件目だった。他の家も同様に金品が盗まれ、他にも一軒、偶然家に人がいた事件があり、その時もガムテープで住人を拘束して逃げたという。その被害者は拘束以外の危害を加えられていなかったらしい。
それはあくまでも雪子の住む街で発覚している事件の数であり、日本各地で同一犯と思われる手口の窃盗、強盗事件が起きているという。犯罪の性質柄、関係ない事件の数も多く、特別な特徴があるわけではないが、侵入方法などに似通う点が見受けられる事件があるらしい。
両親は雪子がトラウマになっていないか、トラウマになるほど心配していた。たが雪子は自縛した日に、本当の強盗に襲われ拘束されてしまったという事実、更には自縛で自爆してしまったことの方がトラウマになりそうだった。
それと、この部屋に入った時、微かだけどアンモニア臭がした。 それに下の脱衣所を見た時に、洗濯機にタオルとパンツが濡れたまま入っていて、スカートが洗面台に浸けてあった。
何があったかなんて想像つくさ。職業柄、そういうことには鋭いからさ。君はここで……」
「いや!やめて!」
雪子は声を上げる、しかしその声は、虚しい叫びとなって部屋に木霊するだけだった。
「今まで仕事をしていて、人と出くわしてしまうこともあって、そうした時は申し訳ないが、ちょっと脅して大人しくさせてもらったんだ。といっても殺したわけじゃなくて、君みたいに縛っただけだよ」
何をこんなにペラペラと喋っているんだろう、と雪子は不思議になっていた。普通、強盗とはもっと焦って犯行に及ぶものではないのか。
「普段はこんなベラベラ喋らないんだけどね。頂くのを頂いてとっとと消える、それがモットーだから」
雪子は心を読み取られたように雄弁に語る男に驚く。
「だけど、こんな面白い女の子なかなかいないから、長居しちゃったよ。まぁ、君の両親がまだまだ帰って来ないことは知ってるからさ、偶然温泉の券が当たったんでしょ。正直、一人分払って三人で温泉へ行くと思ってたのにさ。まさか君が残ってるとは。
でも、家を見ると窓は開いてたし、君はすっかり寝込んでいたようなので、お邪魔したというわけさ」
なんて余裕をかましている強盗なんだ。普通であれば、目的を達成したら現場からはいち早く立ち去りたくなる心理のはずだ。
「縛られることに興味ある女の子なんて、そうそういないからさ。興味が出ちゃったんだ。しかし、君も、今日は大変だっただろうし、あんまり付き合わせちゃ悪いからね。結局、身体を縛らせてもらってるんだけども。そろそろ、おいとまさせてもらうよ。
ま、悪く思わないでね。願望を叶えてあげたんだし。それじゃ」
窓を開ける音がして、それきり男の声も気配もなくなっていた。
様々な事象が重なり過ぎて、頭がついていかない。雪子の心はもう限界だった。
今、自分の身に起こっていることが、もう分からなくなっていた。雪子には、その絡まってしまった感情をほどく気力も残っていない。
「誰か……助けて」
雪子は気を失った。
置き去りにされた雪子だが、三時間後に両親によって発見され、警察と救急車が呼ばれた。家にあったアクセサリーや金品が盗られていた。
一方、雪子は大した怪我もなく、膝を軽く擦りむいた程度──しかも怪我をしたのは自縛していた時に自分でぶつけた──だったが、念のため一晩入院することとなった。
警察からいくつかの質問をされたが、眠っているうちに拘束され、目隠しをされていた雪子には役に立つようなことは答えられなかった。
警察は窓を開けて昼寝している時に、物盗りが侵入したのだろうという結論であった。雪子の証言もあり、それは、ここ最近、近所を騒がせていた強盗の犯行であると結論づけた。
犯行は雪子の家で六件目だった。他の家も同様に金品が盗まれ、他にも一軒、偶然家に人がいた事件があり、その時もガムテープで住人を拘束して逃げたという。その被害者は拘束以外の危害を加えられていなかったらしい。
それはあくまでも雪子の住む街で発覚している事件の数であり、日本各地で同一犯と思われる手口の窃盗、強盗事件が起きているという。犯罪の性質柄、関係ない事件の数も多く、特別な特徴があるわけではないが、侵入方法などに似通う点が見受けられる事件があるらしい。
両親は雪子がトラウマになっていないか、トラウマになるほど心配していた。たが雪子は自縛した日に、本当の強盗に襲われ拘束されてしまったという事実、更には自縛で自爆してしまったことの方がトラウマになりそうだった。
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