8 / 11
切断
第八話
しおりを挟む
「……もうちょっと」
よくドラマや映画などで誘拐され、監禁されてしまった女の子を見ることがある。だが、こんなに辛い思いをしていたのか。もし、本当に知らない人に誘拐されてしまったら、どれだけ怖いだろう。
数十分の格闘の末、なんとか手首のロープを切ることができた。無我夢中で、手首と胸に掛かったロープを振りほどく。口のガムテープを剥がし、ハンカチを吐き出した。雪子の涎でぐちゃぐちゃになったハンカチは、床に汚物のようになって転がっていた。
大きく息を吸い込むと、欠乏していた酸素が一気に肺に流れ込み、雪子はむせかえってしまった。だが何度か繰り返すと、乱れた呼吸も少しずつ落ち着いてきた。
痺れた手で足の拘束もなんとかほどき、ロープを捨てるように床に放る。
ようやく、自由になった。
雪子はぐったりと床に倒れこんだ。
このまま横になって、眠ってしまいたい。
しかし、それも束の間、鼻を掠めたその臭いで現実に引き戻された。ほどくのに夢中ですっかり忘れていた……
思えば、さっきほどいたロープも濡れていた。床とスカート、そしてパンツの感触が戻ってくる。自分を縛るという行為で十分恥ずかしいはずが、雪子にはその事実の方が、心に重く伸し掛かり、恥ずかしめとなっていた。
床に落ちたはずのメガネを懸命に手探りで探した。幸いにもなんとか数分でメガネは見つけかり、拾い上げた。
掛けると徐々に視界がクリアになっていったが、それと共に見えてきたのは、床に散らばった惨状であった。
雪子はスカートのファスナーを下ろし、脱ぐと床に置いた。パンツも脱ぎ、その上に置く。ティッシュを数枚引き抜くと、自分の股関にそれを当てた。その時、気づいてしまった。
尿によって汚してしまったものとは別の感触がティッシュ越しに感じられたのだ。
「こんなことになったのに……私、こんなに……」
急に強烈な羞恥心が雪子に甦ってきた。こんな辛い目にあったのに、雪子の身体は、それを興奮として反応してしまっていた。
しかし、すぐに緊張と恐怖からの開放、そして疲労が呼び戻され、虚脱感にふらふらとしながら、雪子は一階の脱衣所へ向かった。バスタオルを手に取り腰に巻いた。そして積んであるハンドタオルを何枚か手に取ると、二階の部屋へ戻った。
部屋のドアを開けた瞬間、今度は強く鼻腔にアンモニア臭を感じた。部屋にいる時は夢中で気づかなかったが、一度他の空気を吸うと、その臭いが酷く鼻についた。濡れた床にハンドタオルを押し当て、二つある窓を全開にした。
床の尿を拭き取り、残ったタオルでスカートやパンツも少し拭いた。それらを持って再び脱衣所へ戻ると、流しに放り込む。水で軽く手洗いをしてから、洗濯機に放り込み、洗剤を入れて他の洗濯物と一緒に洗った。スカートだけは液体洗剤で手洗いし、浸け置きにした。
そのまま浴室へ行き、シャワーで下半身を洗った。神経が過敏になっているせいか、少しシャワーを当てただけで、雪子の身体はビクっと反応し、また羞恥心を感じてしまった。かなり汗もかいていたので、結局上も脱いで全身を洗い流した。身体にはロープによる痕がくっきりと残っていた。
身体を拭き、Tシャツとジーンズに着替えると、部屋へと戻った。換気のおかげで、臭いは少しずつだが和らいでいってるようだ。
雪子は床に散乱したロープや剥がしたガムテープ、涎まみれのハンカチを手に取ると、ロープを買った時のビニール袋へ押し込み、口を固く縛った。苦労して買ったロープだが、部屋に置いておくわけにもいかないし、何より一本は濡れてしまって使い物にならないので、後で捨てよう。
作業を終えると、雪子はベッドへ倒れこんだ。
「……疲れた」
気づくと雪子は、そのまま眠ってしまった。
窓からは夏の予感を到来させるような生温い風が吹き込んでいた。
よくドラマや映画などで誘拐され、監禁されてしまった女の子を見ることがある。だが、こんなに辛い思いをしていたのか。もし、本当に知らない人に誘拐されてしまったら、どれだけ怖いだろう。
数十分の格闘の末、なんとか手首のロープを切ることができた。無我夢中で、手首と胸に掛かったロープを振りほどく。口のガムテープを剥がし、ハンカチを吐き出した。雪子の涎でぐちゃぐちゃになったハンカチは、床に汚物のようになって転がっていた。
大きく息を吸い込むと、欠乏していた酸素が一気に肺に流れ込み、雪子はむせかえってしまった。だが何度か繰り返すと、乱れた呼吸も少しずつ落ち着いてきた。
痺れた手で足の拘束もなんとかほどき、ロープを捨てるように床に放る。
ようやく、自由になった。
雪子はぐったりと床に倒れこんだ。
このまま横になって、眠ってしまいたい。
しかし、それも束の間、鼻を掠めたその臭いで現実に引き戻された。ほどくのに夢中ですっかり忘れていた……
思えば、さっきほどいたロープも濡れていた。床とスカート、そしてパンツの感触が戻ってくる。自分を縛るという行為で十分恥ずかしいはずが、雪子にはその事実の方が、心に重く伸し掛かり、恥ずかしめとなっていた。
床に落ちたはずのメガネを懸命に手探りで探した。幸いにもなんとか数分でメガネは見つけかり、拾い上げた。
掛けると徐々に視界がクリアになっていったが、それと共に見えてきたのは、床に散らばった惨状であった。
雪子はスカートのファスナーを下ろし、脱ぐと床に置いた。パンツも脱ぎ、その上に置く。ティッシュを数枚引き抜くと、自分の股関にそれを当てた。その時、気づいてしまった。
尿によって汚してしまったものとは別の感触がティッシュ越しに感じられたのだ。
「こんなことになったのに……私、こんなに……」
急に強烈な羞恥心が雪子に甦ってきた。こんな辛い目にあったのに、雪子の身体は、それを興奮として反応してしまっていた。
しかし、すぐに緊張と恐怖からの開放、そして疲労が呼び戻され、虚脱感にふらふらとしながら、雪子は一階の脱衣所へ向かった。バスタオルを手に取り腰に巻いた。そして積んであるハンドタオルを何枚か手に取ると、二階の部屋へ戻った。
部屋のドアを開けた瞬間、今度は強く鼻腔にアンモニア臭を感じた。部屋にいる時は夢中で気づかなかったが、一度他の空気を吸うと、その臭いが酷く鼻についた。濡れた床にハンドタオルを押し当て、二つある窓を全開にした。
床の尿を拭き取り、残ったタオルでスカートやパンツも少し拭いた。それらを持って再び脱衣所へ戻ると、流しに放り込む。水で軽く手洗いをしてから、洗濯機に放り込み、洗剤を入れて他の洗濯物と一緒に洗った。スカートだけは液体洗剤で手洗いし、浸け置きにした。
そのまま浴室へ行き、シャワーで下半身を洗った。神経が過敏になっているせいか、少しシャワーを当てただけで、雪子の身体はビクっと反応し、また羞恥心を感じてしまった。かなり汗もかいていたので、結局上も脱いで全身を洗い流した。身体にはロープによる痕がくっきりと残っていた。
身体を拭き、Tシャツとジーンズに着替えると、部屋へと戻った。換気のおかげで、臭いは少しずつだが和らいでいってるようだ。
雪子は床に散乱したロープや剥がしたガムテープ、涎まみれのハンカチを手に取ると、ロープを買った時のビニール袋へ押し込み、口を固く縛った。苦労して買ったロープだが、部屋に置いておくわけにもいかないし、何より一本は濡れてしまって使い物にならないので、後で捨てよう。
作業を終えると、雪子はベッドへ倒れこんだ。
「……疲れた」
気づくと雪子は、そのまま眠ってしまった。
窓からは夏の予感を到来させるような生温い風が吹き込んでいた。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説


こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。


身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる