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自縛
第五話
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第三章 落下
「……どれくらいの時間が経っただろう」
肉体的にも、精神的にも疲れてきたし、トイレにも行きたくなってきた。初めての自縛としては上出来だったではないか。そろそろ終わろう。
ベッドにあるハサミを探さなくては。
不自由な身体で悶えていると、掛けていたメガネがずり落ちた。反射的に顔を上げたが、メガネは振り上げた顎に当たりどこかへ飛んでいった。メガネが床に落ちるような音がする。
「……しまった!」
やっしまった。メガネがないと、何も見えなくなってしまう。突然ボヤけた視界に、思わず声を上げそうになったが、それはハンカチに吸い込まれて、虚しい叫びとなった。
「手探りで探すしかない」
メガネを探すか、ハサミを探すか、雪子は迷った。しかし、ベッドの上にハサミがあるのは間違いない。それに床に降りたらベッドに昇れないかもしれない。だから、なんとかハサミを見つけて、ロープを切ってメガネを拾おう。
この決断を雪子は、後に後悔することになるが、この時点ではそれが最善であると考えた。
記憶を呼び戻しハサミを置いた場所を探る。……ない。
ベッドの隅を探すが、不自由な身体は思うように動かせない上に、ハサミは見つからない。
「こっちだったかな?」
そう思い、身体を反転させようとした。
──その時、悶えていた足が何かに当たり、壁にぶつかってベッドから落ちる音がした。まさか。
「壁とベッドの隙間に、ハサミが落ちた?」
慌ててベッドを探し続けるが手探りで見つかったのは、ガムテープだけであった。足が壁に触れたことから、落ちたとしたらベッドの壁側の隙間だ。そして、その隙間に落ちたとなれば、隙間から手を差し込むしかないが、縛られた雪子の腕が届く距離ではない。
メガネだけじゃなくて、ハサミまで……
自分はなんて間抜けなのだろう。雪子の心は曇っていた。最初から自縛なんて無茶だったんだ。本当は、もっと信頼できる人と……
しかしながら、そんなことを悠長に考えている余裕はなかった。
先程までの充足した心は一転していた。不安と焦り、そして恐怖が雪子を襲った。このままほどけなかったら、どうしよう。両親はまだ帰って来ない。もし帰ってきたとしても、娘のこんな姿、見せられない。
「……どうしよう」
手首を動かそうとしても、キツく絞まったロープはほどけるどころか、食い込むばかりであった。最初からハサミで切ってほどくつもりだったので、自力でほどくなど想定していなかった。
脱出する時に切りやすいように細めのロープにしたが、その分、細いロープは雪子の身体に食い込んでしまっていた。
「このままほどけなかったら……」
不意に雪子を恐怖が襲った。怖い、動けないまま、喋れないまま、私は。畏れは弱った心の隙間に呆気なく染み込んでいった。
このままでは誰かにほどいてもらわないといけない、しかしこんな恥ずかしい姿、人に見せられない。
「……どれくらいの時間が経っただろう」
肉体的にも、精神的にも疲れてきたし、トイレにも行きたくなってきた。初めての自縛としては上出来だったではないか。そろそろ終わろう。
ベッドにあるハサミを探さなくては。
不自由な身体で悶えていると、掛けていたメガネがずり落ちた。反射的に顔を上げたが、メガネは振り上げた顎に当たりどこかへ飛んでいった。メガネが床に落ちるような音がする。
「……しまった!」
やっしまった。メガネがないと、何も見えなくなってしまう。突然ボヤけた視界に、思わず声を上げそうになったが、それはハンカチに吸い込まれて、虚しい叫びとなった。
「手探りで探すしかない」
メガネを探すか、ハサミを探すか、雪子は迷った。しかし、ベッドの上にハサミがあるのは間違いない。それに床に降りたらベッドに昇れないかもしれない。だから、なんとかハサミを見つけて、ロープを切ってメガネを拾おう。
この決断を雪子は、後に後悔することになるが、この時点ではそれが最善であると考えた。
記憶を呼び戻しハサミを置いた場所を探る。……ない。
ベッドの隅を探すが、不自由な身体は思うように動かせない上に、ハサミは見つからない。
「こっちだったかな?」
そう思い、身体を反転させようとした。
──その時、悶えていた足が何かに当たり、壁にぶつかってベッドから落ちる音がした。まさか。
「壁とベッドの隙間に、ハサミが落ちた?」
慌ててベッドを探し続けるが手探りで見つかったのは、ガムテープだけであった。足が壁に触れたことから、落ちたとしたらベッドの壁側の隙間だ。そして、その隙間に落ちたとなれば、隙間から手を差し込むしかないが、縛られた雪子の腕が届く距離ではない。
メガネだけじゃなくて、ハサミまで……
自分はなんて間抜けなのだろう。雪子の心は曇っていた。最初から自縛なんて無茶だったんだ。本当は、もっと信頼できる人と……
しかしながら、そんなことを悠長に考えている余裕はなかった。
先程までの充足した心は一転していた。不安と焦り、そして恐怖が雪子を襲った。このままほどけなかったら、どうしよう。両親はまだ帰って来ない。もし帰ってきたとしても、娘のこんな姿、見せられない。
「……どうしよう」
手首を動かそうとしても、キツく絞まったロープはほどけるどころか、食い込むばかりであった。最初からハサミで切ってほどくつもりだったので、自力でほどくなど想定していなかった。
脱出する時に切りやすいように細めのロープにしたが、その分、細いロープは雪子の身体に食い込んでしまっていた。
「このままほどけなかったら……」
不意に雪子を恐怖が襲った。怖い、動けないまま、喋れないまま、私は。畏れは弱った心の隙間に呆気なく染み込んでいった。
このままでは誰かにほどいてもらわないといけない、しかしこんな恥ずかしい姿、人に見せられない。
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