自縄自縛 榎並雪子の長い一日

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自縄

第四話

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 呼吸が荒くなっている。

「私、こんなことして、興奮して……」

 その気持ちは坂道から転がり落ちる石のように、止められないものとなっていた。

 ロープを余らせた状態で胸の前で一度固結びにする。これで胸のロープが留まった。呼吸する度にロープが胸に食い込む、それが再び雪子の心を刺激した。あとは手首を縛るのみである。だが、それが自縛を行う上で最も困難な作業であった。

 当たり前だが、自分で自分の手を縛ることはできない。自縛を紹介していたサイトでは手首は手錠や手枷で拘束することが主流だったが、十五歳の雪子にそんな道具を手に入れる術はなかった。

 調べていくと数は少ないが、縄を使った自縛を紹介していた人もいた。その中のひとつの方法を雪子は実行することにした。

 上半身を縛っている縄の余りで、二重の輪を作る。両手首がギリギリ入りそうなくらいに輪の大きさを調整し、その中心を束ねるように一度縦に縄を回す。さながら即席の手錠のようになった。最後に胸元から伸びているロープに戻して結びつける。

 ロープを滑らせていき、胸の結び目と、今作った輪の部分を背中側にずらす。二の腕も縛っているので動き辛いし、少しキツくしすぎてしまったが、なんとか背中側に持ってこれた。あとは。

 先程の輪にそれぞれ左右から手首を捩じ込む。その状態で手首を下に落とすと、結び目がずり落ちて手首の縄が狭まり、キツく絞まった。

 できた。これで手首を縛れた。

 作業を終えると、雪子はそのままベッドに倒れこんだ。ただ身体を縛るだけなのに、思った以上の疲れだった。自縛とはこんなに疲れるものなのか。塞いだ口からくぐもった声がまた溢れる。

 身を捩ってみるが、ロープは弛むことなく、雪子を括りあげていた。

 あの日見た画像のような麻縄ではないし、決してプロが縛ったような美しい緊縛でもない。しかし、初めて拘束された身体は、芯から熱くなり、身体中を巡る背徳と羞恥、そしてそれを越えた快楽であった。

「まるで誘拐されたみたい──」

 部屋の端にある姿見で自分の姿を見る。雪子は、自分が悪者に捕らえられ監禁されている、そんな姿を想像する。それはいつか読んだマンガのワンシーンのように。

 自分の弾む息遣いが身体に響いていた。

 強く身体を動かしてみても、相変わらずロープは弛む気配がない。その度、絞まって身体に食い込むロープにムグっムグっと、声にならない声が溢れる。

 動けない、喋れないという日常生活ではまず起こり得ないシチュエーションである。それでも雪子はその身の不自由とは裏腹に心の自由を得ている気持ちとなっていた。
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