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マルクトール王国編

116話 主人公、戦闘訓練をするー3

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「エレーナの精霊球にはどんな攻撃も効かないのです。早く降参するのです。」
 アドラはそう言うと、精霊球の数を増やす。

 ちょっ!ちょっと待った!
 いくらでも増やせるのか?

 僕の鱗も無限に出せるけど、操るのは限界がある。

 んっ?

 エレーナの精霊球は、思考波で動かしているって言ってたな。ということは、エレーナも操れる数には限界があるはず!

 と思ったが、精霊球の数は、どんどん増える。

 マジか?!エレーナに限界はないのか?

 増殖したエレーナの精霊球のレーザーが、身体に当たるようになる。
 ドラゴンの防御能力で傷はつかないが、当たった部分に違和感を感じる。

「さすがはドラゴンなのです。そのレーザーに当たった生物は、普通は動けなくなるのです。超大型生物専用の麻痺レーザーなのです。」

 超大型生物専用?
 失礼だな!僕はいま人型だよ!

 なんか悔しくなってきたぞ。
 絶対負けたくない!

 こんなことなら、ソラにもっとドラゴンの戦い方を習っておけば良かった。

 ソラのことが頭に浮かんだ瞬間、耳元で声がする。

『タクミ、呼んだ?』

 うわっ!びっくりした!

『毎回それだな。驚き過ぎたよ』

(ごめん。ソラのことを呼ぶつもりじゃなかったから)

『ずいぶん苦戦してるようだな』

(えっ?分かるの?)

『ふふん、僕はこの世界最強のドラゴンだぞ。それくらい分かるさ。そうだなぁ。攻略のヒントをやろうか?』

(ヒント?)

『そのむすめはタクミの想像どおり、精霊の気配を感知して、精霊球を動かしている。周囲の精霊を撹乱かくらんできれば、精霊球を動かせなくなるぞ』

(撹乱って!そんなこと、どうやって……)

『僕達はこの世界最強のドラゴンだ。ドラゴンはこの世界で最も精霊に愛されてる存在だと言われているが、それは少し違うんだよ』

(どういうこと?)

『力関係で言うと、僕達ドラゴンが最上位で、精霊が最下位だ。だから、精霊達は僕達ドラゴンに必ず近寄ってくる。それは本能のようなもので、逆らうことはできない。だから、ドラゴンであるタクミが願えば、精霊達は言うことを聞いてくれる。あとは自分で考えろ』

(分かった。ありがとう、ソラ!)

『タクミ、頑張れよ。僕もいま、ラスボスで忙しいから!じゃあまたな!』

 その言葉を最後にソラの声は聞こえなくなった。

 それにしても、ラスボスで忙しいって…。

 ダンジョン移設は上手くいったようだね。サーシャ達が攻略してるのだろうか。

 僕も頑張らないとな。

 ソラの言葉を繰り返し考えてみる。
 僕が望めば精霊達は願いを聞いてくれるって言っていたけど。

 エレーナは精霊の気配を感知して、精霊球を動かしていることで間違いない。

 ということは…。僕はある事を思いつく。

 やってみるか。

 僕はクナイ型の鱗を操るのをやめて、神経を集中する。

「おや?降参なのですか?」

 アドラが聞いてくるが、集中している僕には答えられない。

「答えないということは、続行なのですね?ドラゴンが動けなくなるまでの火力が知りたいので、データが取れるまでレーザーを打ち込ませてもらうのです。」

 レーザーの嵐が容赦無く、降り注ぐ。

 レーザーが当たった箇所の違和感が大きくなる。

 なんか痺れてきたかも。
 でも、もう少し。もう少しで何かが起こりそうな予感。

 精霊達よ。僕の願いを聞いてほしい。
 いや、聞くんだ!

 強く願う。
 僕の金色の瞳が一際、輝く。
 そして、それは訪れた。

 タクミを中心としたこの辺り一帯から、精霊の気配が消えたのだ。

 エレーナの精霊球が地面に落ちる。
 付近を警戒していた精霊球も。

 そして、アドラの姿が消えた。

 エレーナの顔に驚愕の表情が浮かぶ。
「なっ、何をしたの?アドラ!アドラ!」

 エレーナ、ちゃんと話せるんだ?
「降参する?」
 エレーナに降参を促すが、エレーナは「アドラ!アドラ!」と叫び続けている。

 僕の話を聞いてないな。

「タクミ!何をしたの?」
「僕達の紋章システムも使えなくなってるよ!」

 リオンとシオンも驚いている。

 この辺りの精霊が居なくなると、パートナー精霊は具現化できなくなって消えるし、紋章システムも使えなくなる。

 僕の考えたとおり、エレーナの武器は無効化できたが、影響が大きいようだ。

「アドラ!アドラ!」
 エレーナが一層大きな声でアドラを呼ぶ。が、エレーナの声が変だ。取り乱し方が尋常じゃなくなっている。

「やばい!シオン、薬ある?」
「いや、いま手元には無いよ。紋章システムが使えないから、すぐには出せないし。」

 リオンとシオンの焦った声が聞こえる。

 もしかして、僕のした事でなんかマズイことになってる?

 エレーナの様子に、僕も異常を感じたところで、ミライの声がした。
「心拍数の上昇を確認。対処します。」

 ミライがパタパタと、エレーナの腕の中に飛んでいく。

 そして、「エレーナ、エレーナ。ギュッと抱きしめて。大丈夫だよ。エレーナは1人じゃないよ。」と、優しくエレーナをなだめる。

 そんなミライをエレーナはギュッと抱きしめる。そして、安心したような顔をした後、そのまま意識を失った。

 危ない!
 僕は慌ててエレーナを抱きとめる。

 なっ、何が?
 僕の所為だよな、これ…。

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