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マルクトール王国編

112話 主人公、図書館を歩き回る

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 お茶を飲みながら、お菓子を食べて待つこと数十分。アドラが、精霊球の探索が終了したことを告げる。

 はっ、早いな。

「では、行きましょうか。ドーム内は、タクミとリオン、シオンでお願いします。僕はエレーナと地下の禁書専用保管庫に行きます。」



 ライルの指示でドーム内に戻った僕達の周りに、精霊球が集まってきた。

「じゃあ、手分けして回収するよ。」
「この光ってる精霊球の後についていくんだ。案内してくれるから。」
「分かった。ミライ、行くよ。」

 僕はミライと光る精霊球の後を追う。

「それにしても不思議な玉だよな。どういう仕組みなんだろう?」
「精霊球は、アースにある機械と似たような構造だよ。周りを感知するセンサーが付いていて、登録された紋様を発見すると、場所を記録して使用者に教えてくれる。そのうち、アースでも開発されるかも!」
「けっこう単純な構造なんだ。でもアースで開発されるのは難しいと思うよ。まず浮かす技術が無いし。一番は動力源だよ。」
「アースにも精霊いるんでしょ?難しいのかな?」
「セシルさまが言ってたよ。アースの精霊は年々、少なくなってるって。」
「そうなんだ。困ったね。エレメンテでは、この精霊球があるから、出生率が下がっても大丈夫なんだけど。」
「出生率?あっ、この精霊球が労働力になってるってことだね?」
「あい!農業国のベアルダウン王国では、いろんな種類の精霊球が使用されてるよ。」
「そうなんだ。たしかに何かを育てるって時間も手間もかかる。それを助けてくれる道具なんだ。」
「あい!だから、たった1人で農耕や牧場をやってる人も多いんだよ。今度、タムに教えてもらったら?」

 そうだね。タムが元気になったら、ベアルダウンのタムの家に行こう。約束したからね。

「あっ、タクミ!ここみたいだよ!」

 僕達の前をフワフワと移動している精霊球の光が点滅に変化している。

 僕達が探しているのは一階の中央付近だ。高さのある本棚の前で止まった精霊球は、点滅したまま動かない。

 あの高さは届かないな。

「ミライ、ちょっと取ってきてくれる?」
「あい!」

 ミライはパタパタと飛ぶと、本を一冊抱えて降りてくる。

「この本がそうなんだ?」

 和紙のような材質の紙が紐で閉じてあり、外観は江戸時代の本のように見える。

 この世界のものはアースにあるものと共通するものが多いな。
 異世界への穴が開いて、エレメンテからアースへ、アースからエレメンテへ落ちた人がいたって言ってたから、それも関係してるのかな?

 でも本当にこの本であってるのか?
 疑問に思ってよく見ると、本の裏表紙の隅に、かすかに流浪の民の紋様があるのが分かった。

 こんな小さなものでも見つけてくれるんだ。精霊球って、じつはすごい性能なんだな。

「タクミ!次の本を探すよ。ついていこう!」

 精霊球がまた光っている。
 次の本へと案内してくれるようだ。

 今度は三階。棚の中に置いてあるのは、巻物のような古文書だった。

 さっきのより、年代が古そうだ。
 取り扱い注意だな。

 そんな感じの要領で、数冊の本を回収した僕達は、先ほどの部屋に戻った。

 しっかし、本当に広いな。この図書館。数冊を回収しただけなのに、ものすごく疲れたよ。広過ぎる。

 ソファーに座ってぐったりしていると、リオンとシオンも本を持って部屋に入ってきた。

「はぁ、ホントここって広いね。疲れたよ。」
「タクミも疲れた顔してるね。タクミとリオンは、ちょっと運動した方がいいね。リオン、久しぶりに戦闘訓練する?」
「えーっ!ヤダよ!戦闘訓練だとシオン厳しいもん!」

「あっ、僕は戦闘訓練したいかも。できることが増えたら、何かあった時に役に立つと思うから。」
「おっ!タクミもやる気になった?じゃあ、訓練してみようか?」

 そんな会話をしていると、ライルとエレーナも戻ってきた。

「おや、戦闘訓練ですか?僕も参加しましょうか?」

「「ライルは絶対ヤダ!!」」
 双子が全力で拒否している。

 映像でみたライルはかなり戦闘に慣れているようだった。双子がこんなに拒否するということは、ライルの戦闘訓練は厳しいのかも。

 テーブルの上には、様々な種類の書物が集まった。

「みなさん、ありがとうございます。それでは、これをじっくり解読してみます。」

 僕は集まった書物を見る。

「ライル。これらは年代も文字もバラバラだね。流浪の民って人達は同じ種族の人達では無かったってことかな?」

「はい。僕は先ほどのリオンとシオンが言ったとおり、秘密結社のような組織だったのではないかと推測しています。ひとつの種族ではなく、その考えに賛同した人達で構成された組織。だから、文字や年代が統一されていない。」

「その組織の人達が色々な国に常に存在したってこと?」

「そうです。そして賛同した人達の仕事や身分も様々だったと推測しています。例えば、この巻物はその時代の料理一覧の本なのですよ。」

「えっ?それって、本当に流浪の民に関係してるの?」

「はい。僕の推測どおりであれば間違いないと思いますよ。じっくり確かめる必要がありますが。」

「じゃあ、時間がかかりそうだね。」
「僕達は戦闘訓練でもして、待つことにする?」

「いえ、リオンとシオンにはやってもらうことがあります。お願いできますよね?」

 にっこり笑っているライルには、逆らえないような雰囲気があった。

 あー、なんか厄介な感じがするよ。

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