120 / 247
グランエアド王国編
セシルさまのお悩み相談室 【本日のお題 感情】
しおりを挟むタクミ
今日のお題は『感情』です。
今回、グランエアド王国での出来事で、人の感情って難しいなと感じました。
どうして、紋章システムでは、創作を限りなく自由にしたのですか?
セシル
それを説明する前にヒトの感情について、話をしようと思う。
人には感情がある。感情があるから、人間なんだと主張する人がいるくらいだ。だが、時として感情によって社会が破壊されることもある。
タクミ
集団生活の中で、自分の思ったままに行動していては、争いになってしまうってことだね?
セシル
そうじゃ。いまのアースでは、理性によって感情をコントロールするのが大人なんだという考えがある。
タクミ
理性ですか?
セシル
理性とは、感情におぼれずに物事を考え判断する能力のことじゃ。だが、人である限り感情は無くならないし、感情がある限り間違いを起こす可能性は無くならない。
タクミ
大人は理性で、感情をコントロールすることができますよ。
セシル
本当にそうだと言い切れるのか?完璧にコントロールできるのなら、揉め事や犯罪など起こらないじゃろう?
タクミ
まぁ、そうですね…。
セシル
だから我はパートナー精霊に、ある機能を持たせたのじゃよ。
タクミ
感情による間違いを起こすのが人なのだから、パートナー精霊はそれを補う存在にしたってことだね?
セシル
そうじゃ。この世界では、感情に囚われて抜け出せなくなる前に、パートナー精霊が上手く道を示してくれる。
タクミ
たしかに同じ感情を持ち続けていると、人は変な行動を起こしてしまうことがありますよね。僕にも覚えがあります。
(グールに取り憑かれた時、僕は居なくなってしまいたいっていう感情で心がいっぱいになって、他の事は考えられなくなっていたな)
セシル
理性というのは、結局のところ、感情を抑え込んでいる状態だ。我慢した感情を上手く消化できたらいいが、そう上手くいかない場合もある。すると、我慢しきれずに感情を爆発させる者が出る。その方が周りに迷惑じゃよ。
タクミ
たしかに頭では分かっていても、あまりにも怒りの感情が強過ぎると手が出ることがありますよね。
でも、じゃあ、この世界では、感情をコントロールしようとしないってこと?
セシル
それは少し違うな。
例えば、人里離れた誰も居ない場所で、大声で叫ぶのは誰かの迷惑になるか?
タクミ
うーん。誰も居ないなら、叫んでもいいのでは?
セシル
叫ぶことで感情が発散できるなら叫ぶべきじゃ。この世界ではこのように、ため込むのではなくて、上手く発散するのがちゃんとした大人じゃという考えになっておる。そして、それを手助けしてくれるのが、パートナー精霊という存在なのじゃ。
タクミ
リオンがウサ吉に愚痴る、ウサ子がシオンにハーブティーを入れるってヤツだね?
セシル
そうじゃ。個々に合わせたストレス発散法をパートナー精霊達が実践してくれる。
この世界の者達には、出来るだけ自由に生きてほしいからのぅ。感情も我慢するより、出せばいいのじゃ。パートナー精霊が手助けしてくれるから、安心じゃよ。
タクミ
でも日本では、感情をそのまま出すのは子供っぽいと取られますよ。
セシル
もちろん、何をしても良いわけではない。成人までの試用期間に、言葉の重みと共に自分の行動に責任を持つように厳しく言われる。一番効果があるのは、自分の行動の映像を見せられることだ。これはかなり恥ずかしいぞ。皆、一度見ただけで、行動を改めるようになる。
タクミ
えっ?それは、やり過ぎのような気がしますよ。
セシル
この世界には、警察や役所は無いのだぞ!自分の問題は自分で解決できるようにならないと困るじゃろう?
タクミ
じゃあ、警察みたいなところを作ればいいのでは?
セシル
そうやって、なんでも人任せにしているから、どんどん大人が無責任になっているのじゃと思うぞ。
タクミ
無責任?
セシル
警察がいたら、警察がやってくれる。役所があったら、役所がやってくれる。そうなるじゃろ?
タクミ
まぁ、そうですね。
でも、それの何がいけないのです?
セシル
ヒトはそうなると、誰かがやってくれるのが普通になって、自分では何もしなくなる。そして、上手くやってくれないとその誰かを責めるようになる。
タクミ
あぁ、なんでやってくれないのってヤツですね。
セシル
誰かがやってくれるというのは、恐ろしい考えじゃよ。
タクミ
どういう事です?
セシル
アースで出会ったサヤカを覚えておるか?その周りにいた子らを。
タクミ
陽子ちゃんをイジメてた子達ですね?
セシル
あやつらがまさにそうじゃよ。自分がイジメているのでは無い。サヤカがイジメているのだ。サヤカと陽子の問題は本人達が解決するか、自分ではない誰かが解決してくれるだろうって思っておる。
タクミ
たしかにそういう感情はあるかもしれませんね。僕も学生時代は、自分が何を言っても変わらないだろうって思ってました。
セシル
そうやって、無責任な大人ができあがるわけじゃな。
タクミ
それは、言い過ぎですよ。
セシル
だから我は、創作は限りなく自由にしたのじゃよ。
タクミ
???
話が飛躍し過ぎで、ついていけませんけど。どういう意味です?
セシル
創作という形で、ありとあらゆる感情を表現して欲しかったのじゃよ。創作なら、普段、口では言えないことも表現できるじゃろう?
我は、自分の感情を表現することで、他人との違いを学んでほしいと思ったのじゃ。
タクミ
他人との違いを学ぶ?
セシル
昔から日本という国では、人と違う者は敬遠されがちじゃろう?
タクミ
和を大切にする文化ですからね。
セシル
大切にするのはいいが、行き過ぎると困ったことになる。
オピニオンリーダーというのを知っておるか?
タクミ
意思決定に関して、大きな影響力を持つ人のことですね?
セシル
おぉ!よく知っておったな!
では、インフルエンサーは?
タクミ
ネット上でのオピニオンリーダーって定義だったと認識してます。
セシル
うむ。そんな解釈で良いかと思うぞ。
お主は、こういう知識はあるのじゃな。
タクミ
僕だって、社会人でしたからね。それくらいの知識はありますよ。
セシル
和を大切にする文化は、時として、このオピニオンリーダーの意思通りに進んでしまうことがあるのじゃよ。
タクミ
有名な芸能人が良いっていったものが流行るとか、そういうことですか?
セシル
特に日本は、その傾向があるな。
テレビなどで何回も同じことが繰り返し放送されると、それが良いってことで流行しがちだ。
タクミ
みんなが良いって言ってるから!ってヤツですね?
セシル
人と違うことはダメなことだと思い込まされた子は、大多数の意見に迎合するようになる。我はこれが一番怖い。
かつてこのエレメンテで戦争が多かった時代にも、同じことが起こった。戦争はイヤだと思う人も、大多数の人が戦争するしかないと言っているのを聞いて、それを受け入れた。皆が言っているのだからと。
タクミ
アースでも、同じようなことはありますね。何度も同じものを見ていると、そうなのかなって思ってしまいがちです。
セシル
思想誘導というヤツじゃよ。時の権力者が良く使う手段じゃ。人と違うことを言うと、仲間はずれや村八分にされるからな。だから、大多数の人の意見に流されることを選ぶ。
タクミ
人と違う意見を言うって勇気が必要ですからね。
セシル
和を大切にする人は、自分の意見を言わないからのぅ。
タクミ
みんながそれでいいなら自分もいいよって、僕は良く言ってましたよ。流されてたわけじゃないんですけど、別にいいかなって。
セシル
そうやって譲れるのは日本人の美徳じゃが、気をつけないと、本当に必要な時に自分の意見を言えなくなるぞ。
我はかつてのようなエレメンテになって欲しくなかった。だから、創作を限りなく自由にして、自分の考えや感情を表現できる場を作ったのじゃ。
エレメンテに生きる人々には、様々な価値観を知って、様々な考えの人を受け入れられるようになってほしいから。
タクミ
なるほど。
セシル
1人のヒトが実際に経験できることなど、限られておる。しかし、世界には色々な出来事がある。大切な人が早くに亡くなることもあるし、自分が生死に関わる病気になることや、とんでもない事件に巻き込まれることだってある。書物はそれらを疑似体験できる貴重な道具なのじゃよ。
タクミ
たしかに人って、自分が体験してみないと理解できないことも多いですよね。でも本で読んだことがあれば、何となく対処できます。
セシル
自分が体験したことしか分からない人が増えると、争い事も増えるからのぅ。
タクミ
他人を理解できないから、争いになってしまうってことですね?
セシル
だから、特に成人前の子供達には、書物でも映像でもいいから、様々な人生を疑似体験してほしいのじゃ。多くの創作に触れている人は、想像力が働くようになるからのぅ。
タクミ
同じようなものばかり読むのも面白いですけど、違う系統を読むことで、新たな発見がありますからね。
セシル
そうじゃよ。
様々な価値観を受け入れることができる、大きな心を持ってほしい。
そして、ただ受け入れるのでは無く自分の意見を持ち、自分ならどうするかを考えてほしいのじゃ。
タクミ
そこまで考えて、このシステムを作ったのですね!さすがセシルさま!
セシル
うむ…。そうなのじゃ!
(いや、ただ単に規制するのが面倒だったからだということは、タクミには黙っておこう)
タクミ
では、セシルさまの素晴らしさが分かったところで、今回の話は終わりです。
ありがとうございました。
0
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。
課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」
強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!
やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!
本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!
何卒御覧下さいませ!!
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました
葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。
前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ!
だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます!
「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」
ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?
私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー!
※約六万字で完結するので、長編というより中編です。
※他サイトにも投稿しています。
メイドから母になりました
夕月 星夜
ファンタジー
第一部完結、現在は第二部を連載中
第一部は書籍化しております
第二部あらすじ
晴れて魔法使いレオナールと恋人になった王家のメイドのリリー。可愛い娘や優しく頼もしい精霊たちと穏やかな日々を過ごせるかと思いきや、今度は隣国から王女がやってくるのに合わせて城で働くことになる。
おまけにその王女はレオナールに片思い中で、外交問題まで絡んでくる。
はたしてやっと結ばれた二人はこの試練をどう乗り越えるのか?
(あらすじはおいおい変わる可能性があります、ご了承ください)
書籍は第5巻まで、コミカライズは第11巻まで発売中です。
合わせてお楽しみいただけると幸いです。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません
ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」
目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。
この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。
だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。
だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。
そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。
人気ランキング2位に載っていました。
hotランキング1位に載っていました。
ありがとうございます。
こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる