上 下
112 / 247
グランエアド王国編

102話 主人公、批評家を知るー4

しおりを挟む
 

「ホンファがブランカの批評をした頃から、ホンファには様々な感想や意見が送られてきました。賛否ありましたけど、多くが他の人についても批評してほしいというものでした。」
 ドロシーが眼鏡をクイっと上げながら話す。

「批評って頼まれてするものなの?」
 僕はこっそりミライに聞く。
「有名な批評家に批評された人は知名度が上がるからね。それを望む人もいると思うよ。」

 なるほどね。

「ホンファはそういう批評はしないと断っていました。ところがある時、エアリーのライブチケットが送られてきたのです。エアリーのチケットは全て抽選ですから、手に入れることは難しく、すごく貴重なものです。チケットと共に、こうメッセージがきていました。『このチケットでライブを観て、エアリーの批評をしてほしい。不思議な演出は王の力を使っているのではないか?ホンファなら何か分かると思うから、ライブに行ってほしい』と。
 ホンファは非常に困惑しました。エアリーのライブは一度、実際に観てみたいと思っていたからです。ですが、王の力を使っているのでは?という偏見を持ったまま観て、批評するのは公正ではないとホンファは思っていました。」

 ホンファって、自分にも厳しいんだね。
 でも、じゃあどうしてあんな批評を?

「エアリーのライブが近づいたある日、ホンファにはひどく落ち込む出来事がありました。そこで、私がエアリーのライブに行くように勧めたのです。きっと、いい気分転換になるから、と。ホンファなら、何を観てもきっと公正な批評をすると信じていたから。
 ところが、ホンファはライブでもっと落ち込むものを観てしまった。あの批評は、そんな気持ちのまま書いてしまったものなのです。」
 ドロシーは、止められなかったことを後悔してるような感じで語った。

「えっ?ボクのライブ、面白くなかった?ホンファを落ち込ませるモノって何?」

 エア様って、本当にど直球だな。

「ブランカの衣装よ。」
 ホンファがポツリと言う。
「あの見たことのない形状の衣装は、ブランカのデザインではないわね?誰かのデザインにブランカが手を加えて作ったような衣装だったわ。」

「ホンファ、すっごい!よく分かったね!アレはボクのラフをもとに、ブランカに作ってもらったんだよ!」

「ブランカにあんなものを作らせるなんて…。ブランカには、咲き誇る華のような衣装を思う存分作ってほしいのよ。」

「ホンファは本当にブランカが大好きなんだね。でも、アレはブランカが自ら進んで作ってくれたものなんだよ。」

「うっ、ウソよ!そんなの!」

 激しく動揺するホンファを見て、エアがジークに指示をする。
「ねぇねぇ、ジーク。あの時ジークもいたよね?映像あるでしょ?見せてもいいか、ブランカに聞いてみてよ。」

 エアの言葉に、ジークはすぐに行動に移す。気付いた時には、ジークの左手に白いヘビがまきついていた。

 ジークのパートナー精霊だろうか?

「エア様、ブランカの許可が取れました。映しますよ。」

 ジークが空中にある映像を表示する。

『じゃあ、ブランカ作ってくれるの?』
『いいわよ!このデザイン面白いわね。私もそろそろ次の段階に進みたいと思っていたのよ。新しいものを吸収するときだわ。私、王宮に仕える!だから、アースに連れていってちょうだい!』
『いいの?行くことになったら、しばらくこのお店もできないよ。』
『いいのよ。依頼のあった衣装は、すべて作り終えたわ。私ももっと成長しないと!私のことを批評してくれたホンファに、もっと認めてほしいからね。』

 その映像を見たホンファは、呆然として言葉を失っている。

「これは、ライブの前の映像だよ。やっとブランカが王宮に仕えてくれるって言うから。」

 アースのことも話しちゃってるけど、こんなのホンファに見せても大丈夫なのか?

「じゃあ、私は本当にただ誤解してただけなのね。自分のことを過信して、あんな偏見に満ちた批評を書いてしまった。もうダメだわ。批評家としてもやっていけない。やっぱり私はダメな子なのよ。」
 ホンファの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

「ホンファ、泣かないで。私が公開を止めていれば。」
「ううん。ドロシーは悪くないわ。貴女の忠告を聞かなかった私が悪いのよ。」
「いいえ、私がもっとちゃんとしていたら、こんなことにはならなかったわ。パートナー精霊失格よ。」
 パートナー精霊であるドロシーが後悔しているような発言をする。

「パートナー精霊も反省するんだね。」
 僕の言葉にシオンが答えてくれる。

「パートナー精霊は、あくまでもサポートする存在だよ。最終決定は使用者である本人がすることだ。そうじゃないと、成長できないからね。」

「でも、間違いだったよ?」

「ヒトは間違えて成長するんだよ。それに、何が正解かなんて、誰にも分からない。生命に関わる間違いではない限り、パートナー精霊は使用者の要望を優先する。そうやって、ヒトは成長するんだ。ただし、同じような間違いは許してくれないよ。間違いを正せるように導くのがパートナー精霊の役割だからね。」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

【完結】暁の荒野

Lesewolf
ファンタジー
少女は、実姉のように慕うレイスに戦闘を習い、普通ではない集団で普通ではない生活を送っていた。 いつしか周囲は朱から白銀染まった。 西暦1950年、大戦後の混乱が続く世界。 スイスの旧都市シュタイン・アム・ラインで、フローリストの見習いとして忙しい日々を送っている赤毛の女性マリア。 謎が多くも頼りになる女性、ティニアに感謝しつつ、懸命に生きようとする人々と関わっていく。その様を穏やかだと感じれば感じるほど、かつての少女マリアは普通ではない自問自答を始めてしまうのだ。 Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しております。執筆はNola(エディタツール)です。 Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。 キャラクターイラスト:はちれお様 ===== 別で投稿している「暁の草原」と連動しています。 どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。 面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ! ※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。 ===== この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。

冷酷魔法騎士と見習い学士

枝浬菰
ファンタジー
一人の少年がドラゴンを従え国では最少年でトップクラスになった。 ドラゴンは決して人には馴れないと伝えられていて、住処は「絶海」と呼ばれる無の世界にあった。 だが、周りからの視線は冷たく貴族は彼のことを認めなかった。 それからも国を救うが称賛の声は上がらずいまや冷酷魔法騎士と呼ばれるようになってしまった。 そんなある日、女神のお遊びで冷酷魔法騎士は少女の姿になってしまった。 そんな姿を皆はどう感じるのか…。 そして暗黒世界との闘いの終末は訪れるのか…。 ※こちらの内容はpixiv、フォレストページにて展開している小説になります。 画像の二次加工、保存はご遠慮ください。

ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ
ファンタジー
大陸の端に存在する小国、ボーンネル。 バラバラとなったこの国で少女ジンは多くの仲間とともに建物を建て、新たな仲間を集め、国を立て直す。 そして同時にジンを中心にして世界の歯車は動き出そうとしていた。 これはいずれ一国の王となる少女の物語。

【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~

BIRD
ファンタジー
【転生者モチ編あらすじ】 異世界を再現したテーマパーク・プルミエタウンで働いていた兼業漫画家の俺。 原稿を仕上げた後、床で寝落ちた相方をベッドに引きずり上げて一緒に眠っていたら、本物の異世界に転移してしまった。 初めての異世界転移で容姿が変わり、日本での名前と姿は記憶から消えている。 転移先は前世で暮らした世界で、俺と相方の前世は双子だった。 前世の記憶は無いのに、時折感じる不安と哀しみ。 相方は眠っているだけなのに、何故か毎晩生存確認してしまう。 その原因は、相方の前世にあるような? 「ニンゲン」によって一度滅びた世界。 二足歩行の猫たちが文明を築いている時代。 それを見守る千年の寿命をもつ「世界樹の民」。 双子の勇者の転生者たちの物語です。 現世は親友、前世は双子の兄弟、2人の関係の変化と、異世界生活を書きました。 画像は作者が遊んでいるネトゲで作成したキャラや、石垣島の風景を使ったりしています。 AI生成した画像も合成に使うことがあります。 編集ソフトは全てフォトショップ使用です。 得られるスコア収益は「島猫たちのエピソード」と同じく、保護猫たちのために使わせて頂きます。 2024.4.19 モチ編スタート 5.14 モチ編完結。 5.15 イオ編スタート。 5.31 イオ編完結。 8.1 ファンタジー大賞エントリーに伴い、加筆開始 8.21 前世編開始 9.14 前世編完結 9.15 イオ視点のエピソード開始 9.20 イオ視点のエピソード完結 9.21 翔が書いた物語開始

エンジェリカの王女

四季
ファンタジー
天界の王国・エンジェリカ。その王女であるアンナは王宮の外の世界に憧れていた。 ある日、護衛隊長エリアスに無理を言い街へ連れていってもらうが、それをきっかけに彼女の人生は動き出すのだった。 天使が暮らす天界、人間の暮らす地上界、悪魔の暮らす魔界ーー三つの世界を舞台に繰り広げられる物語。 著作者:四季 無断転載は固く禁じます。 ※この作品は、2017年7月~10月に執筆したものを投稿しているものです。 ※この作品は「小説カキコ」にも掲載しています。 ※この作品は「小説になろう」にも掲載しています。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

処理中です...