86 / 247
フラルアルド王国編
80話 主人公、スカラに行くー1
しおりを挟むリオンとシオンを呼びに行こうとする僕に、ミライが声をかける。
「タクミ!リオンとシオンには連絡したから、サクラとモミジに事情を説明してきて!」
了解!
甘えん坊だったミライが、急に大人になったような変化に戸惑うが、その言葉通りに下へと向かう。
途中でリオンとシオンにすれ違う。
「ジルをお願い!僕はサクラとモミジに説明してくるから。」
双子はうなずくと、ジルの部屋に入っていった。
下に降りた僕はサクラとモミジに、ジルが病気だからスカラに連れて行くと説明する。が、2人は泣き出す。
「スカラに連れて行かなくちゃいけないほど、悪いの?」
「親方、帰ってこれる?」
2人は号泣している。
こんなに泣くなんて!スカラって病気を治すところじゃないのか?
戸惑っていると、リオンとシオンがジルを担架のようなものに乗せて降りてきた。
担架が空中に浮いてる?
「サクラ、モミジ。ここには、貴重な研究成果も多い。留守は任せたよ。」
「すぐに連絡するから!出来るね?」
リオンとシオンの言葉に、2人は泣きながらも、コクンとうなずく。
「じゃあ、タクミはついてきて!」
「ミライも問題ないね?こっちだ。」
こうして、僕はジルをスカラに連れて行くことになった。
スカラがあるのは、セシリア王国だ。
ジルの工房に一番近い扉から、まずはフラルアルドの王宮に向かう。王宮にある扉からセシリア王国へ行き、セシリアの王宮にある扉からスカラへと行く。
空間をつなぐ扉のおかげで、長い距離をあっという間に移動できるという。
扉を出たり入ったりしているだけだから、あまり自覚はないけど。
最後に出た扉の先には、森が広がっていた。どうやら、セシリア王国の国土のほとんどがこのような樹木が多い場所らしい。
本当にこんなところにあるのか?
不思議に思いながら少し歩くと、ひらけた場所に学校のような建物が建っていた。その大きな建物の周りに様々な作りの家がある。ジルの工房で出してもらったログハウスのような建物もある。
周りの建物は、誰かが紋章システムで出したってことか?
周りをキョロキョロ見回しながら歩く僕とは違い、リオンとシオンは迷いなく学校のような建物に近づいて行く。
すると、その建物から白衣を着た人達が出てくる。
担架のようなものに乗せられたジルを見ると、「後はこちらで対処する」と言い、ジルとドグーを連れていった。
「これでジルは大丈夫なんだよね?ここって、病院みたいなところなんでしょ?」とリオンとシオンに聞くが、あまり元気がない。
「タクミには、まだ説明してなかったね。ここは、アースにある病院とは根本的に違うんだよ。」
「アースにある病院は病気を治療するところだよね?このスカラで実施される治療は、アースで言う治療とは全く別物だ。」
「えっ?じゃあ、何をするところなの?」
「紋章システムができてから、前とは比べものにならないくらい、医療の分野も進歩した。世界中に分散していた症例がひとつにまとめられ、知識が統合されたからだ。それこそ、あやしげな民間治療だって、症例として、まとめられているんだ。」
「じゃあ、医療はかなり進んでいるんだよね?ジルだって、助かるんじゃ?」
「ここはね。どの症例にも当てはまらない難病、治療方法が分からない人が来る施設なんだよ。だから、治療というより研究みたいな扱いをされる。今までにない治療だから、どうなるかは分からないんだ。」
「そう。だから、生きてスカラを出られる確率は限りなく低い。」
だからか!ジルはスカラに行きたくないって言うし、サクラとモミジは号泣していた。
「ここに来る人はね。それでもいい、望みがあるならって覚悟した人達なんだ。エレメンテでは、生きる自由と死ぬ自由が保障されているから。」
「生きる自由はわかるけど、死ぬ自由ってどういうこと?」
「この世界にはね。もう自分は十分に生きた、これ以上はいいって心境になった人が行く場所が用意されてるんだよ。」
「そう。それが、"安らぎの大樹"だ。その場所に行った人達は、もう仕事はしなくていい。最期の時を迎えるまで、自分のパートナー精霊と穏やかに過ごす事ができるんだ。」
「エレメンテの人々の最期は、様々だ。アースにあるような定年って制度は無いからね。最期まで仕事をして自分の家で亡くなる人もいるし、病気が進行して望みを捨てずにスカラに来たけど、そのまま亡くなる人もいる。そして、年齢に関係なく、もう十分だと思った人が行くのが、安らぎの大樹だよ。」
「えっ?ちょっと待って。年齢に関係なくってことは、寿命じゃないってことだよね?自殺ってこと?」
「だから言っただろう?この世界には、死ぬ自由も保証されてるって。」
「パートナー精霊によって、心の安定を得ている僕達だけど、万能じゃないからね。どうしてもこれ以上生きていけないっていう人もいるんだ。パートナー精霊は、その人の分身だ。だから、その精霊が安らぎの大樹に行くことを認めた場合にだけ、行く事ができる。」
「ジルをスカラに運んだのは、ドグーがそうしてくれって言ったからだ。ドグーはジルの分身だ。ジルは口では、もう十分だと言っていたが、心ではもっと生きたいと思っているんだ。だから、ドグーは安らぎの大樹ではなく、スカラに運んでくれって言ったんだよ。」
0
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説
花の国の女王様は、『竜の子』な義弟に恋してる ~小さな思いが実るまでの八年間~
杵島 灯
恋愛
子どもの頃に義弟を好きになったお姫様(後に女王様)の想いが実り、幸せになるまでの物語。
----------
花が咲き誇る小さな国の王女・ジゼルには、十四歳になったある日、弟ができた。
彼の名はライナー、年は十歳。
弟といっても彼は隣の帝国へ嫁いだ叔母の息子、つまり本来はジゼルの従弟だ。
今は亡き叔母と過去に話をしていたジゼルは、ライナーが自分の義弟になったいきさつを理解した。――理解できたはずだ。おそらく。
「安心して、ライナー。これからは私があなたを守ってあげるから」
こうして可愛い義弟と楽しい日々を過ごすジゼルだったが、ある日ライナーに好きな人がいるらしいことを聞いてしまう。
ショックを受けるジゼルは自身がライナーが好きなのだと自覚したが、この恋は実らないものだ。諦めるためにライナーから距離を取り、更には自身の婚約者候補まで探し始めるジゼルは……。
----------
※他サイトでも掲載しております。
表紙イラスト&タイトルロゴ:むなかたきえ様(@kkkie_m)
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
悪行貴族のはずれ息子【第2部 魔法師匠編】
白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
※表紙を第一部と統一しました
★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン!
★第1部はこちら↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/822911083
「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」
幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。
東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。
本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。
容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。
悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。
さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。
自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。
やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。
アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。
そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…?
◇過去最高ランキング
・アルファポリス
男性HOTランキング:10位
・カクヨム
週間ランキング(総合):80位台
週間ランキング(異世界ファンタジー):43位
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜
とかげになりたい僕
ファンタジー
不慮の事故で死んだ俺は、女神の力によって転生することになった。
「どんな感じで転生しますか?」
「モテモテな人生を送りたい! あとイケメンになりたい!」
そうして俺が転生したのは――
え、ここBLゲームの世界やん!?
タチがタチじゃなくてネコはネコじゃない!? オネェ担任にヤンキー保健医、双子の兄弟と巨人後輩。俺は男にモテたくない!
女神から「クリアすればもう一度転生出来ますよ」という暴言にも近い助言を信じ、俺は誰とも結ばれないバッドエンドをクリアしてみせる! 俺の操は誰にも奪わせはしない!
このお話は小説家になろうでも掲載しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる