83 / 247
フラルアルド王国編
77話 セシル、思案する
しおりを挟むタクミが、パートナーであるドラゴンの幼体の相手をしている頃、セシルはアースの拠点である所有マンションでゴロゴロしていた。
今日も学校は自主欠席である。
いつものソファーでぐうたらしていると、エルが報告に来る。
「マスター。リオンとシオンから、連絡がきています。古代神殿でソラというドラゴンと会ったと。」
ソラ!その名前を聞くのは、何百年ぶりだろう?
古代神殿で会ったじゃと?
あっ!たしか、いろいろな神殿に仕掛けをしたと、昔、自慢していたのぅ。
でもドラゴンにしか分からない仕掛けだったはずじゃ。
そうか、タクミがそれを見つけたということか。ソラに会ったと言っておるが、本体はこの世界には居ないからのぅ。たぶん分身体の方じゃな。
「それで、何と言っておるのじゃ?」
「侵入者撃退アトラクションという名のダンジョンをガンガルシア王国に移設したいと、ソラが希望しているようです。」
「なんじゃと!まったく、ソラには困ったものじゃのぅ。いつも自分が楽しむことを一番に優先するのじゃからなぁ。」
「どうしますか?」
「断るわけにもいかぬじゃろう?ガルシアには我から話しておこう。」
「分かりました。それと、ジルから紋章システムに関する申請がきています。タクミ専用の紋章システムを作ったので、認証してほしいとのことです。」
エルはそう話すと、空中にデータを表示する。
「ふむふむ。なるほどのぅ。ジルはまた面白いことを思いついたな。このチームの参加者の発想も良いな。タクミ専用というより、ドラゴン専用の仕組みじゃな。これなら、問題ない。許可しておいてくれ。システムの変更は可能じゃろう?」
「はい、問題ありません。ジルのことですから、細かな調整も済んでいると思います。そして、もうひとつ報告が。タクミの協力で、国外活動装置の開発に成功したとのことです。」
「国外活動装置?」
「これです。」と言いながら、エルは空中にまた別のデータを表示する。
「ほほぅ、ドラゴンの力を込めた球を利用した装置。国外の精霊が少ない場所での活動が可能になるもの、ね。」
「マスター、この装置は私の方で独占指定をしました。暗黒大陸での活動も問題なくできる装置だと推察します。ですが、暗黒大陸への進出は時期尚早かと。」
「独占指定か。時期尚早。我もそう思うが…。」
「何か気になることが?」
「うむ。ドラゴンの先祖返りであるタクミや純血のシルフにも劣らない能力を持つ陽子と月子の出現。ソラとタクミの出会い。何かが動き初めているのかもしれないのぅ。」
空中のデータを見ながら思案していると、エルが話を続ける。
「マスター。その神殿でリオンとシオンが、ソラから古文書をもらったと。いまライルが解読しています。が、どうやら空白の歴史についての記載があるようです。どうしますか?」
そうか。アレについて書かれた本があったとはな。よく今まで見つからなかったものじゃのぅ。
ソラが意図的に隠していた?
いや、ソラにはそんな意図はまったくないじゃろう。珍しい本があったから、ダンジョン攻略の褒美にしようと思って持っていた、というのが正解かのぅ。
「そのままで良い。」
やはり何かが動き始めたのかもしれぬのぅ。
「わかりました。では最後に、これはタクミとソラの個人的な約束みたいですが。各国の最古の遺跡に仕掛けをしたから会いに来るようにと、ソラから言われたようです。攻略するごとにドラゴンの事を教えると。」
そうか。やはり、タクミの出現が何かのキッカケになるかもしれないな。
「タクミからマスターに伝言です。『ソラはセシルさまの友達なんですよね?セシリア王国にある最古の遺跡に一緒に行きませんか?分身体だけど、ソラに会いたくないですか?』と。」
友達ねぇ。アレを友達と言うのかのぅ?
まぁでも。昔なじみじゃからな。
「そうだな。会いに行くことにしようかのぅ。が、最古の遺跡とは?ヒントはそれだけなのか?あいかわらずソラは大雑把じゃのぅ。」
「私の方で調査しておきます。ただ、ライルが同行したいと言い出すかと思いますが。」
「構わないぞ。では、判明次第、行くとするかのぅ。」
「ですが、マスター。お身体のことを考えると、しばらくはスカラに滞在してください。」
スカラか。
「約束の日まで、残された時間はあとどれくらいじゃったかのぅ?」
「残りは6年です。」
「そうか。残りは少ないな。だからスカラは無しじゃよ。」
「マスター。いまスカラの特別チームが、治療方法を必死で探しています。お願いですから、一度スカラに滞在を!」
珍しくエルが必死に頼んでくる。
「我はここで良い。もしダメなら、これも天命じゃよ。スカラに滞在する時間が惜しいからのぅ。」
「マスター……。」
エルが哀しそうな目で、セシルを見る。
その目を見たセシルは、エルを見つめてこう返事をする。
「エル、私で最後にしたいの。だから、お願い。ワガママでごめんね。」
はるか昔の記憶を鮮明に思い出し、セシルはエルにそう懇願したのだった。
0
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
追放された宮廷錬金術師、彼女が抜けた穴は誰にも埋められない~今更戻ってくれと言われても、隣国の王子様と婚約決まってたのでもう遅い~
まいめろ
ファンタジー
錬金術師のウィンリー・トレートは宮廷錬金術師として仕えていたが、王子の婚約者が錬金術師として大成したので、必要ないとして解雇されてしまった。孤児出身であるウィンリーとしては悲しい結末である。
しかし、隣国の王太子殿下によりウィンリーは救済されることになる。以前からウィンリーの実力を知っていた
王太子殿下の計らいで隣国へと招かれ、彼女はその能力を存分に振るうのだった。
そして、その成果はやがて王太子殿下との婚約話にまで発展することに。
さて、ウィンリーを解雇した王国はどうなったかというと……彼女の抜けた穴はとても補填出来ていなかった。
だからといって、戻って来てくれと言われてももう遅い……覆水盆にかえらず。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。
冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜
影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。
けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。
そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。
ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。
※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。
前世は不遇な人生でしたが、転生した今世もどうやら不遇のようです。
八神 凪
ファンタジー
久我和人、35歳。
彼は凶悪事件に巻き込まれた家族の復讐のために10年の月日をそれだけに費やし、目標が達成されるが同時に命を失うこととなる。
しかし、その生きざまに興味を持った別の世界の神が和人の魂を拾い上げて告げる。
――君を僕の世界に送りたい。そしてその生きざまで僕を楽しませてくれないか、と。
その他色々な取引を経て、和人は二度目の生を異世界で受けることになるのだが……
フェンリルに育てられた転生幼女は『創作魔法』で異世界を満喫したい!
荒井竜馬
ファンタジー
旧題:フェンリルに育てられた転生幼女。その幼女はフェンリル譲りの魔力と力を片手に、『創作魔法』で料理をして異世界を満喫する。
赤ちゃんの頃にフェンリルに拾われたアン。ある日、彼女は冒険者のエルドと出会って自分が人間であることを知る。
アンは自分のことを本気でフェンリルだと思い込んでいたらしく、自分がフェンリルではなかったことに強い衝撃を受けて前世の記憶を思い出した。そして、自分が異世界からの転生者であることに気づく。
その記憶を思い出したと同時に、昔はなかったはずの転生特典のようなスキルを手に入れたアンは人間として生きていくために、エルドと共に人里に降りることを決める。
そして、そこには育ての父であるフェンリルのシキも同伴することになり、アンは育ての父であるフェンリルのシキと従魔契約をすることになる。
街に下りたアンは、そこで異世界の食事がシンプル過ぎることに着眼して、『創作魔法』を使って故郷の調味料を使った料理を作ることに。
しかし、その調味料は魔法を使って作ったこともあり、アンの作った調味料を使った料理は特別な効果をもたらす料理になってしまう。
魔法の調味料を使った料理で一儲け、温かい特別な料理で人助け。
フェンリルに育てられた転生幼女が、気ままに異世界を満喫するそんなお話。
※ツギクルなどにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる