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フラルアルド王国編
68話 主人公、ご褒美をもらう
しおりを挟むタクミが戻る少し前、宝物庫の壁の前では、モミジが泣きそうになっていた。
「どうしよう!ウチのせいで、タクミが壁に飲み込まれちゃったよ!」
「モミジ!大丈夫だよ。タクミはドラゴンだ!ドラゴンには、高い身体防御能力があるからね。」と、リオンが言う。
「でも、ここに無事に帰ってこれる?タクミって、闘えるの?さっきみたいなガーディアンが、いっぱい出てきたら?」
モミジが不安そうに言う。
「タクミって、防御能力は最高って言ってたけど、戦闘はできないんだよね?それって大丈夫なの?戻ってこれる?」
サクラも心配そうに、そう話す。
「確かに、タクミに戦闘訓練はさせてない。ドラゴンだから、大丈夫だろうって安心してた。こんな場合を想定してなかったよ。」と、シオンがつぶやく。
「どうしよう!ウチが不用意に壁を触ったから!」
「そういえば、どうしてモミジはその壁が気になったの?」と、リオンが聞く。
「この壁の紋様に見覚えがあって。前に親方が見せてくれた気がするんだ。ねぇ、サクラも見覚えがあるでしょ?」
モミジはサクラに、見るように訴える。
「あっ!これって!ドラゴンの紋様じゃない?」
「「ドラゴンの紋様??」」
リオンとシオンが、見事にハモる。
「そうだよ。親方が言うには、すごく昔の遺跡で発見されることが多い紋様で、その紋様がある遺跡では、ドラゴン関係のものが発見されることがあるんだって。だから、親方はこの紋様のことを、ドラゴンの紋様って呼んでるんだよ。」
サクラの説明に、リオンとシオンは何かに気付く。
タクミが言っていたな。映像でドラゴンの男の子を見たって。
もしかしたら!
そう思った瞬間、それは起こった。
壁のドラゴンの紋様が光ったのだ。
眩しさに目をそむけると、次の瞬間には、タクミが壁の前に立っていた。
「ちゃんと無事に戻ってこれたようだ。良かった!」
僕がそう独り言を言っていると、モミジが抱きついてくる。
「良かった!タクミ!ちゃんと戻ってきた!ごめんなさい!ウチのせいで!」
モミジが泣きながら、僕をギュッと抱きしめる。
モミジの尻尾が顔や腕に当たる。
もふもふ!モフモフ!
この感触最高だ!
じゃ、なかった!
僕はモミジの背中をトントンと優しく叩く。
「モミジ。大丈夫だよ。僕は無事だ。どこもケガしてないし。モミジこそ大丈夫?僕には、モミジの方が大事だからね。」
ジルの大事な弟子にケガなんかさせたら、一大事だ。
モミジが無事なら、それでいい。
そう思って言ったのだが、モミジの反応が少し変だ。
「タクミは、ウチが大事なの?」
モミジの顔が赤い。
「そりゃあ、もちろん!」
モミジはジルの大事な弟子だからね!
「あっ、あの。それって、ウチのこと……」と言いかけたところで、誰かに邪魔をされる。
「タクミ!無事で良かった!すっごく心配したんだよ!」と言いながら、サクラも僕に、抱きついてくる。
サクラの尻尾もモフモフ、もふもふ。
なに?これ?僕へのご褒美なのか?
尻尾の感触を楽しんでいると、双子の冷たい視線と目が合う。
「はいはーい。2人ともタクミから離れてね。」
「そうそう。タクミには、いろいろと聞きたいことがあるからね。」
リオンとシオンに言われて、離れていく2人。
あぁっ!もう少しモフモフを!
「「で!何があったか、説明してくれる?」」
双子の事情聴取がはじまった。
「そう。壁の向こうにはドラゴンがいたんだね?ソラっていう名前なの?」
「セシルさまとエルの知り合いらしい?前にエルが言ってたドラゴンのことかな?」
僕は、ソラの話を双子にする。
「でもタクミ。なんかいろいろあったみたいだけど、タクミが壁に飲み込まれてから、少ししか時間が経ってなかったよ。本当にそんな出来事があったの?」
「えっ?少ししか経ってないだって?」
どうなってるんだ?
いや、でも、ソラのことはハッキリと覚えている。
それに、この腕のリブロスもどき。
七色だった石が金色に輝いている。
間違いない。
ソラーっ、どうなってるの?
僕は心でそうつぶやいたのだが、それに返事があった。
『えっ?サービスだけど?』
ソラの声が聞こえる。
(うわっ!びっくりした!)
『僕のこと、呼んだだろ?タクミと僕をつないだからね。呼んでくれたら、いつでも話せるぞ!でも、この僕の声はタクミにしか聞こえないからな!』
そうなんだ!じゃない!
(リオンとシオンが、少ししか時間が経ってないって言うんだけど!)
『だから、サービスだよ。タクミが壁に飲み込まれてすぐの時間に戻したやったんだよ』
(えっ?そんなことできるの?)
『だから言ったろ?ドラゴンは至高の存在だって!』
(本当に何でも有りなんだ!)
『仲間には、僕の不思議な力でこうなったって説明するといいぞ!』
(そうだね!それしか説明のしようがないけど。)
『その仲間達へのご褒美は、この宝物庫に用意しておいたから。ちゃんと持って帰るんだぞ!』
(分かったよ。ありがとう!ソラ!)
『じゃあ、またな!タクミ!』
ソラとの心の会話を終えた僕は、ソラに言われた通りのことを説明する。
そして。
「そうだ!ソラが、みんなにもご褒美を用意したって言ってたよ!見てみようよ!」と、強引に話題を変えた。
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