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フラルアルド王国編

57話 主人公、実験台になる?ー1

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 チームを作ると言い出したジルは、とても生き生きしている。
 そして、「タクミ!お前は紋章が授かれなくて、いま不便だな。それを俺が解消してやろうと思うが、どうだ?」と言う。

 そりゃ、使えるようになるなら、お願いしたいですよ!

「「ジル!そんなこと出来るの?」」
 双子がそろって、そう聞く。

「このスマホっていうのがヒントになったんだな。後は、タクミがドラゴンに変現したところを見たからな。これなら、いけそうかなって案が浮かんだぞ。」

「ジルが言うなら、出来るかも!タクミ!お願いしてみようよ!」
 リオンが、自分のことのように喜んでいる。

「じゃあ、お願いします!」
 僕もジルに懇願する。このままずっと、双子のお世話になるのも心苦しいし。

「おぅ!任せとけ!ただし、俺一人じゃ出来ないからな。協力者がいるな。精霊工学の専門家と造形家が必要だな。紋章システムは俺とセシルさまでいいとして、結界の専門家もいるな。」

「かなり大掛かりなチームになりそうだね!集めるの大変じゃない?」とシオンが心配そうに言う。

 チーム?集める?
 僕の不思議顔を見た双子が教えてくれる。

「ここ、エレメンテでは、各個人で仕事してる人が多いんだけど、全く新しいものを作る時は、各専門家が集まってチームを作って開発する時もあるんだ。その仕事の成果は、チーム名で発表できる。毎回、違うチームを組んで活動してる人もいるし、いつも同じメンバーで活動してる人もいるんだ。」

「おぅ!俺は必要な時にメンバーを募集するスタイルだ。固定のメンバーはいないからな。まぁいつもは、弟子達から選ぶけどな。」

「ジルの弟子は大勢いるんだよ。それこそ、分野も様々だよね。」

「あぁ、あいつらは、俺のところにヒントをもらいに来てるだけだからな。ちょっとアドバイスしただけで、すぐに伸びるヤツばかりだ。で、すぐに出て行く。俺のところは、煮詰まったヤツの駆け込み所みたいになってるんだな。」

 ただし、困ったことが一つあるなぁと、本当に困り顔で、ジルが言う。

「優秀なヤツほど、もうどこかのチームに入ってたり、他の研究に没頭してたりするからな。どうやって人材を集めるかだが…。」

「ランキング上位にいる人ほど、人を集めるのが上手なんだよ。アースだとお金で人を集めるよね。この世界には、お金はないからね。人を集める時には、人望がモノを言うんだよ。ジルが言うなら、人は集まると思うんだけど。」

 こう言うリオンの発言に、ジルはそれだけじゃ弱いな、とつぶやく。

「タクミの状況を見るに、早いうちに開発した方がいいよな?」

 ファラさんの場合は、原因が分かるまで20年もかかったって言ってたし。原因が分かるまで待つより、なんとかなるなら開発してほしい。でも、無理してまでは、望んでいない。

「僕が我慢すればいいことだから、ゆっくりでいいよ」と伝えると、「俺の都合もあるしな」とジルが答える。

「あまり時間がないんだ。一気に優秀なヤツを集めるために、ちょっと裏の手を使うかな。」

 ジルは、エア様につないでくれ、とドグーに指示をする。すると、ジルの前に真面目そうな男の人が現れた。

 立体映像?黒縁眼鏡にピシッとした髪型。ひと昔前のサラリーマンのような格好だ。

「おや、ジル。久しぶりですね。いまエア様はリハーサル中でしてね。用件はマネージャーの私が聞きますよ。」

「そうか。それは忙しいとこ悪かったな。悪いけど、以前都合してくれるって言ってたチケットを10枚ほど、用意して欲しいんだが。お願いできるか?」

「ジルにはお世話になりましたからね。あれから、舞台装置が快適になりまして、エア様も喜んでいますよ。チケットなら何枚でも用意します。」

「そうか!なら、頼む。」

「頼み事など普段しない貴方の頼みですからね。よほど重要なのでしょう。すぐに送りますから。」

「おぅ!ありがとう!エア様にもよろしく伝えてくれ!」

 そうジルが言うと、男性の映像は消えた。

「「ジル!まさか!今のって!」」
 会話を聞いていた双子が興奮している。

「グランエアド王国、アイドルランキング一位、いま大人気の"エアリー"のライブチケットだ!」
 ジルがニヤリとしながら、そう答える。

「信じられない!それって、毎回、抽選で、なかなか手に入らないチケットだよ!」
「それを連絡しただけで、手に入れるなんて!ありえない!!!」

「おぅ!エア様には、ちょっと貸しがあってな。いつでも用意してくれるって言ってたのを思い出したんだよ。これで、どんなヤツでも、すぐに集まるぞ!良かったな!タクミ!」

「えっ?確か、エア様って、グランエアド王国の王様だよね?」

「「エア様は、エアリーって名前でアイドルやってるんだよ。」」

「アイドル?エレメンテにもアイドルって人がいるんだ!」

「グランエアド王国は、芸術の国だからね。なんでも有りだよ!エア様は日本でアイドルを見て、思いついたらしいんだけど。今ではライブが大人気で。チケットは毎回抽選だから、取るのすっごく大変なんだよ!」

「リオンとシオンもファンなの?」

「ライブ映像見たけど、舞台装置とかスゴイんだよ!あっ、まさか?」

 何かに気づいたリオンが、ジルを見る。

「おぅ!その舞台装置を改良したのが、俺だ!その時に、いつでもライブチケット用意するって言われてな。今回、役に立ったな。エアリーのファンは多いし、これで優秀なヤツも集まるだろうな。」

「良かったね!タクミ!これで開発してもらえるよ!」

「ジル!ありがとうございます!」
 僕は素直に感謝する。
 会ったばかりなのに、こんなに親身になってくれるなんて!と感激していた僕だが、ジルの次の言葉に固まる。

「おぅ!任せとけ!タクミには実験台になってもらうからな!頼むぞ!」

 実験台!?
 何をする気なんだ!?

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