上 下
52 / 247
セシリア王国編

48話 主人公、呪われし者の真実を聞く

しおりを挟む
 

 あれから、僕達はフラルアルド王国の王宮に滞在していた。

 王様を失った王宮はひっそりとしている。アルド王に仕えていた人達は、王代理を含めた2、3人を残して、後はこの王宮を去ると言う。

『元々、王に仕えていると言っても特にやることはないからのぅ。皆、自分の仕事の合間に、王の話し相手をしているようなものじゃよ。どこの王宮もそんな感じだ。』

 セシルはそう言っていたが、去っていく人達はみんな、すごく悲しそうだ。本当にアルド王のことが好きだったんだろう。とても好かれていた王様だったんだな。

 儀式が終わった後、セシルに連れられて、このフラルアルド王国に来た僕は、王宮の一室にいた。リオンとシオンはいない。王宮を覆うように結界が張ってあるので、王宮にいる間は、一人になっても大丈夫だと教えてもらう。
 そういえば、ガンガルシア王国でドラゴンに変現した時、上空に壁があったな。あれが結界だったんだ。

 セシルと僕しかいない部屋で、セシルが口を開く。

「呪われし者は、ただ紋章システムが使えないだけの存在ではないのじゃ。田中には、そのうち話そうと思うておったが、アルドの事があったのでな。説明より先に、見ることになってしまったな。」

「呪われし者って一体、どういう存在なんですか?」
 僕はズバリと聞く。もし、自分にも同じような事が起こるなら、聞かない訳にはいかない。

「呪われし者は、その名の通り、大いなる呪いの影響を受けた者のことじゃ。素晴らしい才能を授かっているが、大いなる呪いも受けている。その者が、グールに取り憑かれた時には、普通の人以上の怪異となるのじゃ。世界を滅ぼすために。

 田中は、ドゥイガーン王国の話を聞いたな。じつはそのドゥイガーン王国に現れた怪異は、この呪われし者だったのじゃ。

 呪われし者が必ず怪異になる訳ではない。普通に天寿を全うすることもある。ただ、何がキッカケとなって、怪異になるのかは分からない。双子に魔が差す瞬間の話を聞いたな。呪われし者にその瞬間が訪れた時、世界を滅ぼす怪異となるのじゃ。

 田中に結界を渡したのは、お主を守るためではない。お主を閉じ込めるためのものじゃよ。我ら王は、皆、同じ結界を身に付けておる。

 呪われし者である我ら王は、常に怪異となる恐怖と戦っておる。そして王に仕える者は、王が怪異になった時に討伐する役目もあるのじゃ。」

「それじゃ、王宮に仕える者は、武力もないといけないって言っていたのは…。」

「そうじゃよ。アースのグールを散らすためでも、王を守るためでもない。王が怪異となった時に王を討伐するために、武力が必要なのじゃ。」

 そんな……。
 王宮に仕えている人達は、みんなそれを承知で王の側にいるってことか?

「じゃあ、今回の儀式は何?」

「アルドは一年前に、最愛の妻であるファラを亡くしておる。アルドには自覚があったのじゃよ。自分がそのうち、怪異になると。

 王に仕えている者が気付く場合もある。アースでグール狩りをするのは、グールの気配を覚えさせるためだ。王に仕えている者は、王に異変を感じたら、進言するのじゃ。返還の儀をしましょうと。」

「返還の儀?」

「田中が今日見た儀式のことじゃ。ガンガルシアで、ガルシアが紋章システムに似た力を使っていたのを覚えているか?」

「そういえば、自分の国にいる時は、王の力が使えるって言ってましたね。」

「紋章システムに似た力はな。その国の守護精霊と特別に契約しておるからじゃ。紋章システムのような力を授かる代わりに、最期はその身を捧げるという契約なのだよ。

 アルドは、ファラを亡くして一年後の今日に、返還の儀をすることを自分で決めておったのだろう。」

 セシルは淡々と話を続ける。

「天寿を全うした王の返還の儀は、ひっそりと行われる。王の亡骸を祭壇に捧げて、守護精霊が出現するのを待つだけじゃ。

 しかし、今回のような場合は、すべての王と側近が集まる。怪異となる姿を見せて、王という呪われし存在はいつかこうなるのだ、と分からせるために。

 呪われし者は、言うなれば生贄のようなものじゃ。怪異が現れない時期が長ければ長いほど、次に発生する怪異は、巨大で強大なものとなることが分かっておる。だから、自覚のある王は自らが怪異となり、次の怪異が強大にならぬようにするのじゃ。

 アルドの前に怪異となって返還の儀を行なった王は、二代前のマルクトール王じゃよ。」

 モイラさんから、トール様って呼ばれてた顔色の悪い男の人?

「そのトールは、身体が弱くてな。病気で長くは生きられぬと知っておったのじゃよ。病気で死ぬくらいなら、怪異となって、皆の役に立ちたいと言っておった。」

「でも、グールは心が弱ってる人に取り憑くのでしょう?」

「そうじゃ。アルドは、最愛の妻を亡くして自らも死んでしまいたいくらい悲しんだ。先先代のトールは、病気で心が弱っておった。まだやりたい事はいっぱいあるのに、どうして自分が病気になるのだ、と。」

「じゃあ、僕もいつかそうなるかもしれないんだね。」

 僕の言葉に、セシルは僕をジッと見る。

「呪われし者が同時に存在するのは、必ず7人なのじゃ。これはわれが紋章システムを開発してから、500年間そうだったからな。間違いない。だから、田中が呪われし者である可能性は少ない、と我は思うのじゃ。しかし、お主はドラゴン。今までドラゴンに紋章を授けたことは無いからのぅ。もしかしたら、それが原因なのかもしれないが。

 これまでにも、数は少ないが、紋章を授かれない者がいたのじゃ。紋章システムは、万能という訳ではないからな。その者達には様々な理由があったのじゃが、原因が見つかった者は、紋章を授かることができた。だから田中も、原因さえ分かれば紋章を授かることができるはずじゃ。」

「原因が分からなかった人はどうなったんです?」

 セシルが一瞬、黙る。そして、「怪異となって、討伐された者もいた。」と、真実を告げる。

「皆が持っている便利な紋章が無いというのは、相当堪えるらしい。どうして、自分だけがこんな苦労をしなくてはいけないのだ、と精神を病む者もいた。」

 そうか。紋章が無いってことは、自分だけ仲間外れにされてるようなものなんだ。それはツライな。僕もそう思う日がくるかもしれない。僕が危険な存在であるのには、違いないんだ。ドラゴンは精神耐性が高いらしいけど、僕は元々、そんなに我慢強くない。

「田中よ。それでじゃな。」とセシルが言葉を続けようとすると、誰かが声をかけてくる。

「セシルさまよ。その小僧を俺に預けてみないか?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔術師リュカと孤独の器 〜優しい亡霊を連れた少女〜

平田加津実
ファンタジー
各地を流れ歩く旅芸人のリュカは、訪れた小さな町で、亜麻色の髪をした自分好みの少女アレットを見かける。彼女は中世の貴族のような身なりの若い男と、やせ細った幼女、黒猫の三体の亡霊を連れていた。慌てて彼らを除霊しようとしたリュカは、亡霊たちを「友達だ」と言い張るアレットに面食らう。リュカは、黒猫の亡霊に彼女を助けてほしいと頼まれ、なりゆきで一人暮らしの彼女の家に泊まることに。彼女らの状況をなんとかしようとするリュカは、世間知らずで天然な彼女と、個性的な亡霊たちにふりまわされて……。 「魔術師ロラと秘された記憶」の主人公たちの血を引く青年のお話ですが、前作をお読みでない方でもお楽しみいただけます。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界魔王召喚〜オッサンが勇者召喚じゃなくて魔王召喚されてしまった件!人族と魔族の間で板挟みになってつらい〜

タジリユウ
ファンタジー
「どうか我々を助けてください魔王様!」 異世界召喚ものでよく見かける勇者召喚、しかし周りにいるのは人間ではなく、みんな魔族!?  こんなオッサンを召喚してどうすんだ! しかも召喚したのが魔族ではないただの人間だ と分かったら、殺せだの実験台にしろだの好き勝手言いやがる。 オッサンだってキレる時はキレるんだぞ、コンチクショー(死語)! 魔族なんて助けるつもりはこれっぽっちもなかったのだが、いろいろとあって魔族側に立ち人族との戦争へと…… ※他サイトでも投稿しております。 ※完結保証で毎日更新します∩^ω^∩

26番目の王子に転生しました。今生こそは健康に大地を駆け回れる身体に成りたいです。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー。男はずっと我慢の人生を歩んできた。先天的なファロー四徴症という心疾患によって、物心つく前に大手術をしなければいけなかった。手術は成功したものの、術後の遺残症や続発症により厳しい運動制限や生活習慣制限を課せられる人生だった。激しい運動どころか、体育の授業すら見学するしかなかった。大好きな犬や猫を飼いたくても、「人獣共通感染症」や怪我が怖くてペットが飼えなかった。その分勉強に打ち込み、色々な資格を散り、知識も蓄えることはできた。それでも、自分が本当に欲しいものは全て諦めなければいいけない人生だった。だが、気が付けば異世界に転生していた。代償のような異世界の人生を思いっきり楽しもうと考えながら7年の月日が過ぎて……

悪行貴族のはずれ息子【第1部 魔法講師編】

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン! ★第2部はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/450916603 「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」 幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。 東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。 本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。 容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。 悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。 さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。 自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。 やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。 アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。 そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…? ◇過去最高ランキング ・アルファポリス 男性HOTランキング:10位 ・カクヨム 週間ランキング(総合):80位台 週間ランキング(異世界ファンタジー):43位

悪行貴族のはずれ息子【第2部 魔法師匠編】

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
※表紙を第一部と統一しました ★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン! ★第1部はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/822911083 「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」 幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。 東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。 本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。 容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。 悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。 さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。 自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。 やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。 アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。 そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…? ◇過去最高ランキング ・アルファポリス 男性HOTランキング:10位 ・カクヨム 週間ランキング(総合):80位台 週間ランキング(異世界ファンタジー):43位

護国の鳥

凪子
ファンタジー
異世界×士官学校×サスペンス!! サイクロイド士官学校はエスペラント帝国北西にある、国内最高峰の名門校である。 周囲を海に囲われた孤島を学び舎とするのは、十五歳の選りすぐりの少年達だった。 首席の問題児と呼ばれる美貌の少年ルート、天真爛漫で無邪気な子供フィン、軽薄で余裕綽々のレッド、大貴族の令息ユリシス。 同じ班に編成された彼らは、教官のルベリエや医務官のラグランジュ達と共に、士官候補生としての苛酷な訓練生活を送っていた。 外の世界から厳重に隔離され、治外法権下に置かれているサイクロイドでは、生徒の死すら明るみに出ることはない。 ある日同級生の突然死を目の当たりにし、ユリシスは不審を抱く。 校内に潜む闇と秘められた事実に近づいた四人は、否応なしに事件に巻き込まれていく……!

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

処理中です...