異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味

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セシリア王国編

30話 主人公、ホームを見学するー2

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 そんな話をしていたライルが何かに気付いたように、視線を一人の子供にうつす。

「ハル、ちょっとこっちに来てくれる?リーネを抱っこしたままでいいから。」

 ライルは一人の少年をこちらに呼ぶ。その子は、1歳くらいの赤ちゃんを抱っこしている。

「ライル、何か用?」

「タクミ達に紋章の説明もしようと思って。ハル。君の紋章を見せてくれる?」

「あぁ、これ?もうすぐ生まれると思うんだけど。早く会いたいなぁ。」
 ハルと呼ばれた少年は嬉しそうに左手の甲を見せてくれた。

 前に見た朔夜の紋章とは、違う紋章だ。

「タクミ、これは、セシリア王国の紋章だよ。エレメンテで産まれた子供は、全員、最初にセシリア王国の紋章を貰うんだよ。ハル、リーネの左手を見せて。」

 本当だ。こんなに小さい赤ちゃんの手にも紋章が見える。

「紋章システムの精霊は、0歳から10歳くらいまでは存在しません。だから、紋章システムは使えないのです。」

「使えないってことは、何でも好きなものを出して貰えないってこと?」

「紋章システムが使えるのは、仕事をしている大人だけです。だから、子供達は自給自足の生活をしているんだよ。でもこれは必要なことなんだ。何でも自分で出来ないと、将来困ることになるのはその子だからね。」

「はぁ。厳しいんですね。」

「便利なものを利用するには、使用する本人が賢くなくてはいけないからだよ。便利な道具が全てやってくれるとなると、人はドンドン退化していくからね。」

「なるほど。」

「だから、子供達の精霊は10歳になるまでは、紋章の中で眠っている。言わば、卵の状態です。10歳までの期間にその個人の嗜好や行動パターンを読み取り、個人差はありますがだいたい10歳くらいに精霊が誕生します。このハルは10歳なので、そろそろ精霊が誕生する頃なのですよ。ハル、楽しみだね。」

「うん!早く会いたいなぁ。僕の精霊はどんな子なんだろう?」

 ハルが嬉しそうに左手を見ている。

「お姉ちゃん、あの子の左手!」
 月子がハルの左手を凝視している。
「そうだね。ちょっとお手伝いしてみようか。」
 陽子はそう言うと、ハルに近づく。

「初めまして、ハル。私はヨーコって言います。ちょっと左手見せてくれる?」

「こんにちは、ヨーコ。いいよ。」
 ハルは陽子に左手を差し出す。

 陽子はハルの左手の甲に手を添えると、左手が淡く光り出した。

「えっ!なに?これ?」
 驚いているハル。すると、突然、何かが出現した。

「はじめまして、ハル。僕がハルの精霊だよ!」
 出現したのは、小さなタヌキだった。

「あっ!ハル、よかったね。精霊が生まれたよ。それにしてもタヌキか。ハルはもしかしたら狐狸族こりぞくの血が強いのかもしれないね。」

「わーい、はじめまして。僕はハルだよ。よろしくね。」
 ハルがタヌキに向かって、挨拶している。
「知ってるよ!僕はハルの精霊だよ。ハルのことなら、なんでも知ってる!これから、ずっと一緒だよ。」

 喜ぶハルと精霊だが、その時ハルに異変が起きる。ポムッという音と共に、ハルにタヌキの耳と尻尾が現れたのだ。

「やっぱり、狐狸族だ。」

「どうなってるの?僕、普通のヒト種の血が強いと思ってたのに。」
 ハルも驚いている。

 確かにさっきまでのハルには、耳も尻尾もなかった。この光景に僕達もポカンとなる。

「ハルは知らないだろうけど、ハルが寝てる時に耳と尻尾が出てることがあったんだよ。」
 ライルがハルに教えている。

「狐狸族は、耳と尻尾を隠すのが上手な種族でした。見た目は普通のヒト種です。アースにも、似たような話がありますよね。狐と狸に化かされるというヤツだよ。」

「日本昔ばなしで見たことあります!」
 タクミは、おじさん的模範解答の返事をする。

「アハハ。タクミって面白いね。ヨーコとツキコは分からないと思うよ。それ。フハハッ。」
 ライルは笑いが止まらないようだ。

 そんなに面白かったかなぁ?確かに陽子と月子は、知らないと思うけど、昔、そういう子供番組があったんだよ!

 ライルはしばらすると、笑いがおさまったようで、話を続ける。
「精霊が生まれると、心と身体が安定して、自分の中の血が発現することが多いんだ。だいたいは、成人までにわかるけどね。だから、前のセシルさまみたいにお爺さんになってから、妖精種の血が発現することは珍しいんだよ。まぁ、王には精霊がいないから、その影響もあったと思うけどね。」

「僕は狐狸族なの?」

「そうだね。訓練で耳と尻尾も上手く隠せるようになるよ。」

「そうなんだ!楽しみだなぁ!」
 喜ぶハルを見ていたライルが、陽子に聞く。
「ヨーコ、ハルの紋章に何かしたの?」

 陽子がハルの左手を触った途端に、精霊が誕生した。今までこんな事は、見たことがない。

「精霊が生まれたそうにしてたから、お手伝いをしてみたのだけど。」
「うん!周りの精霊達がね。もうすぐだよ、もうすぐ会えるよって言ってたの。」
 陽子と月子が、口々に言う。

「さすがシルフの娘達ですね。セシルさまに聞いていた通り、色々と規格外のようだね。やはり、あちらのホームに入れるしかないかな?」

 ライルのひとり言のようなつぶやきが聞こえる。

「じゃあ、ハル。精霊に名前をつけてあげると、もっと喜ぶからね。考えてあげてね。僕達はこれから、ホームノワールに行くから。」

「えっ!ヨーコとツキコはノワールに入るの?そうなんだ!頑張ってね!」
 ハルはホームノワールと聞いて、少し不安そうな顔をして、言う。

 何かあるのかな?ハルが、"頑張ってね"をものすごく強調している。僕達は、少し不安になりながら、ライルの後について行くのだった。

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