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セシリア王国編
28話 主人公、ファミリアの説明を聞くー2
しおりを挟む僕とライルのやり取りに、聞くだけだった月子が、ポツリと言う。
「ここには、お父さんはいないの?」
「ほとんどいません。エレメンテでは、結婚という制度がないので、男女の付き合いはアースの常識と大きく異なっています。」
ライルはそこで一呼吸おいて、話し続ける。
「エレメンテには紋章システムの精霊がいるよね。精霊によって、エレメンテの人の心は安定している。すると、どんどん出生率が下がっていったのです。」
「どうしてです?」
「アースの結婚という制度は、一種の精神安定剤だからです。こんな自分を必要としてくれる。しかも一生一緒にいることを誓う存在。人は誰かに必要とされる、ずっと一緒にいてくれる、そんな存在がいることで、精神的に安定するんだよ。」
確かに、会社勤めをしている頃は早く結婚して落ち着くのがいいって言ってる人がいたな。実際、結婚して仕事をバリバリこなすようになった人もいた。
エレメンテには精霊がいるから、結婚相手という精神安定剤は必要ないんだ。日本で言うところの、独身主義者が増えたってことかな?
「ただ、性欲、繁殖したいという本能は生き物である限り、存在します。だから、紋章システムのせいだけではないんだよ。混血が進んだことも、一因だと考えられています。」
「混血?このエレメンテには、純粋なヒト種はいないって聞きましたけど、それと関係が?」
「はい。500年前、セシルさまが紋章システムを開発するまでは、エレメンテでは各種族が別々に暮らしていました。最も繁殖力が強かったのは、ヒト種です。その次が獣人種。そして妖精種、精霊種となります。」
「妖精種?精霊種?」
「妖精種とは、精霊とヒト種、獣人種の混血の子孫だと伝えられています。例えば、リオンとシオンのホビット族。500年前のセシルさまのドワーフ族。そして、僕のサラマンダー族なんかは、妖精種と呼ばれています。」
「ライルはサラマンダーなんですか?」
「そうですよ。僕はサラマンダーの血が強く出ました。いま、215歳です。」
双子達が素直に言うことを聞いていた理由は、これか!リオンとシオンより、ライルの方が年上なんだ!
「精霊種は、ヨーコとツキコのようなシルフ"風の精霊"、ウンディーネ"水の精霊"、ガイア"土の精霊"、フレア"炎の精霊"などがいます。このエレメンテに存在する精霊は、通常は意思を持たない、ただそこにあるものなんだけど、何かの拍子に意思を持って具現化した存在が、君達のような精霊種だと考えられている。だから、とっても希少なんだよ。」
「希少。じゃあ、私達みたいな精霊種は居ないってことですか?」
陽子が不安そうに聞く。
「いや、希少っていうだけで、確実に存在します。現にエルがそうですよ。」
そうだ!たしか、エルは746歳だって言ってたな。エルは精霊種なんだ!
「エルさんが、そうなんですか…。知らなかった。」
「うん。でも何の精霊なのかは、教えてくれないんだよね。セシルさまは知ってると思うけど。いつも上手くはぐらかされちゃうんだよ。」
ライルも知らないなんて!ますます気になる。でも直接、本人に聞く勇気はない。まぁ、そのうち教えてもらおう。
「じゃあ、話を戻すよ。
繁殖力と寿命は密接に関係しています。ヒト種の寿命は、だいたい80年。獣人種は100年、妖精種は300年。そして、精霊種は1000年。ドラゴンは別格で、2000年です。まぁ、ドラゴンに関しては伝説ですけど。確かめた者がいないので。このように、寿命が短い者ほど、繁殖力が高いのです。」
「そうか!混血が進んだから、出生率が下がったっていう考え方もできますね。」
「そうです。エレメンテでは、男女の付き合いがあっても、子供を授かることは滅多にない。だから、男性は付き合ってる女性に子供が出来たことを知らないことも多いのです。」
「えっ!女の人は教えたりしないの?」
「エレメンテでは、付き合ってる男女が一緒に暮らしていることの方が少ないのです。それぞれに仕事がありますから。お互いの都合がついた時に会う。そういう関係なのです。エレメンテには、結婚という制度はないので、同時に何人もの女性とお付き合いしている男性もいますよ。」
なっ!なんていう男!
うらめしいっ!じゃなくて、うらやましい!
「生き物の本能からしたら、それは当然です。より良い相手を選ぶ権利が、男女それぞれにありますから。だから、逆に何人もの男性とお付き合いしている女性もいますよ。父親が誰か分からないっていう女性もいます。」
なんと!日本では考えられない!日本だとそんな女性は、性にだらし無い悪い女と呼ばれるだろうな。
「エレメンテでは、当然のことなので、責める者はいませんよ。」
ライルが僕の表情を読み取って、教えてくれる。
「数は少ないですが、ここエレメンテにも、アースの結婚というような形で暮らしている男女がいます。そういう男性は、女性と共にファミリアに滞在して、子供達の世話をします。ここファミリアの子供達の父親として。」
ライルは、陽子と月子を見て続ける。
「ここエレメンテには、父親のいない子供も母親のいない子供もいません。ファミリアにいる全員が家族なのだから。」
「私達は、お父さんが居なかったから、それを寂しく思う時もありました。でも、ここではそんな思いをする子供はいないのね。」
「いいところだね!お姉ちゃん!」
「そうだね。」
陽子と月子は、素直によろこんでいる。
「だいたい理解できたかな?混乱するといけないので、先に説明しました。では、実際にファミリアを見てもらいます。特にヨーコとツキコは、ここで家族になるのだから、よく見てね。」
ライルの言葉に陽子と月子は、目を輝かせる。
「そうか、家族!家族が増えるのね。」
「お姉ちゃん、楽しみだね!」
ライルの話を聞いて、僕も興味津々だ。
僕達は期待に満ちた顔で、建物の中に入っていった。
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