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アース編
23話 セシル、国に帰る
しおりを挟むそれからしばらく経ったある日、陽子達が住むアパートで、陽子と月子の母親は訪問者を待っていた。
『お母さんに会わせたい人がいるの。』
陽子と月子は、真剣な表情でそう言った。陽子ひとりに言われたなら、彼氏かしら?と思うところだけど。月子も揃って言うなんて、何かしらね。不思議に思いながらも、その人物の到着を待つ。
あっ、来たようね。
陽子と月子がドアを開けて、入ってきた。とても綺麗な女の人と、可愛らしい女の子と男の子が一緒だ。
親子かしら?でも、どこかで見たような…。
「お母さん、私と同じクラスの榊セシルちゃん。そして、セシルちゃんのお母さんと弟のトールくんだよ。」
月子が紹介する。
月子と同じクラスの榊さん!学校行事で見たことがあった。お話ししたことはないけど。
「はじめまして。いつも月子がお世話になっています。狭いところですけど、どうぞ、上がってください。」
小さなアパートの一室には不似合いな、派手な親子を招き入れ、それぞれに飲み物を出す。
それにしても、本当に美形な親子ね。
3人それぞれの魅力があって。きっと、お父さんも美形なのね!
見惚れていると、セシルの母親と名乗る綺麗な女性が、見てほしいものがあると言って、一枚の古い写真を見せてくる。
あまり背の高くない男性と共に、陽子に良く似た綺麗な女性が写っている。
「あっ、あの。これは?」
「はい。この写真の男性は私の父、セシルとトールの祖父になります。そして、一緒に写っているのは、陽子さんと月子さんの曽祖母にあたる女性です。私の父は、その女性にとてもお世話になったと、生前申しておりました。事情があって会うことができないけど、何か恩返しがしたいと。先日、偶然にも、陽子さんと月子さんがその女性の血を引いていることがわかり、恩返しがしたいという父の言葉を思い出したのです。」
「恩返し?」
「はい。何か困っていることがあれば、そのお手伝いがしたいと。」
「あの、それはわざわざありがとうございます。でも、困っていることとかは特に無いですし、お気持ちだけで充分です。」
「そう言われると思いました。」
セシルの母親という女性は、そこで一旦言葉を区切り、意を決したように続ける。
「月子さんの症状について、詳しく聞きました。実はわたくしは少し医療の心得がありまして。このまま自然に治るのを待つのではなく、治療をした方がいいと思うのです。」
「お母さん、セシルちゃんのお母さんは、病院で働いていたことがあるんだって。だから、月子のことを相談したの。」
陽子が、そう説明してくれる。
あの事を話せるくらい信頼してるのね。確かに月子は、家でよくセシルのことを話してくれていた。セシルは月子と仲良くしてくれていたんだわ。セシルから、セシルの母に相談したのかもしれない。
「実は、ウチのセシルは身体が弱くて。近々、海外の病院へ入院することになりそうなんです。そこの病院には、月子さんの症状に詳しい先生がいまして。その先生に診てもらうというのはどうでしょう?」
セシルの母親の話は、有難い話だ。しかし、
「それは有難い話ですけど、うちには海外の病院に通うようなお金はありませんし、榊さんにそこまでしてもらう義理はありません。陽子と月子のひいおばあさまのことは分かりましたけど、陽子と月子は、その女性ではありませんから。」
と、先読みして断った。
月子の病気を治してくれるという有難い話だが、恩返しを受け取るべき女性はもう亡くなっている。私達には関係ないことだわ。
「回りくどい言い方は、逆に失礼でしたね。では、単刀直入に言います。陽子さんと月子さんを、榊家の養子にください。」
セシルの母親は、サラッとなんでもないことのように言った。
なっ!養子って?
なに?どういうこと?
「陽子さんの夢は海外留学だと聞きました。そして、月子さんを診てくれる病院は海外です。月子さんも陽子さんと一緒の方が心強いと思いますし。」
だからって!
養子って!
セシルの母親は、淡々と続ける。
「陽子さんも月子さんも、成績優秀だと聞いています。榊家は、事業をいくつかしておりまして。将来はセシルとトールが、それぞれ受け継ぐことになっています。ですから、この子達をサポートできる人材を探していました。特にセシルは身体が弱い。陽子さんと月子さんには、家族として、この子達を支えてほしいのです。」
だからって!
なんで、養子なのよ!
「榊さんのお話はわかりました。でもこんな急なお話、困ります。2人の気持ちもありますし。」
「お母さん!私達は、榊さんのご好意に甘えようと思ってる。」
陽子がしっかりとした口調で、そう宣言する。
えっ?なんで?どうして?
お母さんのこと、嫌いになっちゃったの?
「お母さん。私もこの声が治るなら、そうしたいの。」
月子も、小さい声だが、ハッキリとそう言う。
2人とも、お母さんのこと、もう必要ないの?
「月子ちゃんのお母さん。私、とても身体が弱いんです。だから、あまり学校も行けなくて。学校に行けたときは、月子ちゃんがいつも親切にしてくれるんです。そんな月子ちゃんが家族になってくれるなら、楽しいだろうなって。」
セシルが話しているが、もう耳には入ってこなかった。
「陽子さんと月子さんのお母さんは、困惑しているようですね。少し時間が必要でしょう。子供は少しお外で遊びましょうか。近くに公園、ありましたよね。」
一番小さいトールが、子供達を外に誘う。その不自然さにも気付かないくらい、混乱していた。
子供達が出て行ってから、何分くらい経ったのだろう?
気付くと、目の前に熱いお茶が置いてあった。
「すみませんが、勝手に入れさせていただきました。」
セシルの母親が言う。
「あっ、ありがとうございます。」
お礼を言って、お茶を飲む。温かい。少し心が落ち着いた。
「あの。養子の話ですけど…。」
話そうとした言葉を遮り、セシルの母親が、唐突に話し出す。
「少し早いですが、お嫁に行ったと思ってはどうでしょう?」
意図がわからない。返事が出来ずにいると、そのまま話をしてくる。
「陽子さん達は、もう十分、貴女に感謝しています。だから、貴女には幸せになってほしいと思っています。
失礼ですが、少し調べさせてもらいました。同じ会社の人に結婚を申し込まれていますね?陽子さん達は、それを聞いて、この養子の話を決意されました。私達が居ない方が、お母さんは幸せになれるから、と。
それに、陽子さんは月子さんの心の病気のためにも、そうしたい、と。
月子さんは、陽子さんの海外留学したいという思いのためにも、そうしたい、と。」
「でも、養子だなんて。そんなことになったら、私の子供じゃなくなっちゃう。そんなの、そんなの…。」
「いえ。それは違いますよ。2人とも貴女のことが大好きです。いつまでも貴女の娘ですよ。だから、お嫁に行ったと思ってください、ということなんです。結婚すると、籍が変わりますよね?でも貴女の娘だということには、変わらない。
こちらに帰ってきたときは、会えますし、いつでも連絡できますよ。」
「でも…。」
この人の言ってることは理解できるが、心がついていかない。
「それに。失礼ですが、貴女、どこか身体が悪いのでは?このまま、無理して働くのはやめた方がいいと思いますよ。それこそ、命に関わりますよ。
陽子さんと月子さんは、貴女がその男の人と結婚して、仕事を辞めることを望んでいます。
日本の多くの会社では、正社員として働くと、残業は断れないし、休日に出勤しなければならないこともあるでしょう。それが嫌なら、非正規のパートやバイトとして働くしかない。でも、それでは生活は安定しない。だから、身体が弱い貴女のような人も無理して働かなくてはならない。もっと、各個人の事情に適した仕事が多くあれば良いのに。今の日本には、残念ながら、そんなに都合の良い仕事はない。だから、身体や心を壊してしまう人も多くいるのです。
貴女のお子さん達は、貴女の身体と心を心配しているのです。」
陽子と月子は、私のことを心配しているのね。でも…。
「貴女は、もう十分、頑張ったと思いますよ。今度は、貴女がお子さん達に甘えてみたらどうですか?本当に良い子達です。貴女の育て方が良かったのだと思いますよ。」
そんな言葉をかけられて、今まで溜め込んでいたものが、ドッと溢れ出る。
「わっ、私の育て方は間違ってなかったですか?陽子に家事を任せっきりで。月子の病気のことも気になってましたけど、病院にも通わせずに。私はダメな、母親、だっ、て。」
もう涙が止まらなかった。
「陽子さんは、お母さんが頑張っているから、自分も頑張れる、と言っていました。だからこそ、今まで頑張ってきたお母さんに、幸せになってほしいと。」
「わっ、私。本当はあの人に結婚しようって言われて、ホッとした自分がいたの。これで、もう頑張らなくていいって。陽子と月子の父親が亡くなってから、2人を施設に預けたらって言う人もいたわ。でも、そんなの絶対ダメって。私の子供なんだから、私が育てるって意地になってた。
でも、現実はそんなに簡単じゃない。正社員として働くなら、残業だって、休日出勤だってしなくちゃいけない。
あの子達にも負担ばかりかけているわ。それに…。
あの子達、学校でイジメにあってるのよね?」
「ご存知でしたか?」
「えぇ。陽子と月子の同級生のお母さんが、それとなく教えてくれました。少し度が過ぎてる行為をされてると。でも、陽子も月子も、家ではそんなこと一言も言わなくて。」
「貴女に心配させたくなくて、言わなかったのでしょう。」
「ダメな母親よね。子供に気を遣わせるなんて。」
「いえ、貴女はダメではありませんよ。あの子達が優しいのです。ただ、そういう優しい子達がイジメで自殺するのも事実です。どうして言ってくれなかったの?と、家族は一生悔やむでしょう。
貴女達は、お互いに優しすぎる。もっと、自分を優先してもいいと思いますよ。」
「海外に行けば、あの子達はもうイジメられないのよね?」
「はい。セシルの病院がある国は、差別がほとんどない国です。陽子さんも月子さんも、頭は良いし、環境にも馴染む力がある。今のイジメられている状況が、何かの間違いなくらいです。色々な事が重なって、このような状況になっています。
陽子さんは、勉強ができることで、目をつけられてしまった。
月子さんは、声が小さいことで、みんなの対象となっている。
こんな事がイジメの対象になるなんて。でもそれが現実です。一度イジメの対象になると、抜け出すことは難しい。学校の卒業を待つか、転校するか。環境を変えることで良くなる場合も多いですが。
環境を変えるというのは、重要です。ただし、ただ変えればいいというものでもありません。
公立の学校から、公立の学校に変わっただけでは意味が無い場合が多い。公立の学校は、良くも悪くも価値観が一緒ですから。変えるならば、公立から私立、あるいはフリースクールなど、価値観が異なる所が良いと思います。
一番してはいけないのは、引きこもりという選択をすること。確かに、その一時は、心が休まりますし、その子は落ち着くでしょう。でもその後はどうするのです?将来は、何かの仕事をしなければ生活はできません。人と関わらなくても良い仕事など、ほとんどありませんから。
ですから、必ず家族以外の人と関われる場所に行くことをお勧めします。
いま、陽子さんと月子さんは、新しい場所へ行くチャンスを得ました。あの子達は、そのチャンスを生かしたいと願っている。
母親である貴女は、どうしますか?」
あの子達のことを思うなら、こんなに良い話は無い。それに榊さんが経営していると口にした会社のいくつかは、聞いたことがあるほど有名だ。榊さんのお家は、お金持ちなのだろう。
でも、心が追いつかない。
「すぐに返事はできないと思います。陽子さんと月子さんと、よく話し合ってください。お返事は、いつでもいいので。では、私はこれで失礼して、子供達を呼んできますね。」
嵐のような出来事だった。1人になった部屋は、シンと静まりかえっている。
あの子達と話をしよう、と思う。
でも、あの子達の心は決まっているのだろう。
『お嫁に行ったと思ってください』か。
こんなに早くお嫁に行かせるつもりはなかったのに。
私も覚悟を決めるしかないのね。
陽子と月子の母親は、そう強く思ったのだった。
「セシルさまのシナリオ、すごいですね。」
マンションの最上階、広いリビングにある大きなテレビで、一部始終を見ていたタクミは感心する。
「これ、どういう仕組みなんですか?」
テレビには、陽子と月子の母親とエルの話し合いの様子が映っていた。
「リアルタイム中継みたいな感じのヤツ。」
ノアがボソリと言う。
なんだか、分かったような分からないような説明だが、とりあえず実際に今2人が話している様子で間違いないようだ。
「陽子ちゃん達のお母さんは、これで納得するかな?」
「子供の幸せを願わない親はいませんからねぇ。」
タクミの疑問に、千代が答える。
「後は時間が解決してくれると思いますよ。」
「でも、エルって医療の心得があるの?陽子ちゃん達のお母さんの身体のどこかが悪いって言ってたけど。」
「エルは医療、教育のエキスパートですよ。転生を繰り返すセシルさまをサポートするため、研究したそうですからねぇ。エルは常に、セシルさまの育ての親なんですよ。」
そうか、エルは746歳って言ってたな。転生する度に、セシルを探し出して、仕えているってこと?セシルとエルは、どういう関係なんだろう?ただの主従には、見えないんだけど。
「「あーっ!面白そうなの見てるじゃん!!」」
双子が乱入してきた。今日も騒がしい。
「セシルさまのシナリオ通りになりそうかな?」
「大丈夫じゃない?なんだか納得した顔になってたよ。」
「後は、陽子達がダメ押しで、記憶と感情の操作するんでしょ?」
「大体さ。この国の親って子離れするの、遅いよね。」
「そうそう。子供も20歳で成人だったっけ?それも遅いよね。」
言いたい放題の双子だが、気になることを言っていたから、聞いてみる。
「エレメンテでは、成人は何歳なんですか?」
「「16歳だよ!!」」
即答される。
日本だと、ちょうど義務教育が終わったくらいか?
「早いですね。」
素直な感想を言うと、思い切りイヤな顔をされる。
「「遅いくらいだよ!」」
「多くの子達は12歳くらいで、将来なりたいものを見つけてる。早く大人になりたくて仕方ないんだよ。」
「なのに、それから3年かけて、紋章システムの使い方や仕事のやり方を学ぶんだよ。」
「早くセシリアから出たかったよね。」
「そうそう。」
「セシリアっていうのは、セシルさまの国ですよね?」
「タクミ、知らないの?エレメンテで生まれた子供は全員セシリアで育つんだよ。」
???
「えっ?じゃあ、お父さんとお母さんはどうしてるの?一緒に住んでないの?」
「エレメンテでは、結婚っていう制度はもう無いよ。子供を授かったら、母親だけセシリアに移住して、そこで産む。生まれた子供は、ファミリアで育つ。それで、」
「ちょっ、ちょっと待って!結婚が無いって???」
双子の説明は続いていたが、どうしても理解できなくて、話を止めてしまう。
「タクミ~!もういい加減慣れなよ~。アースとエレメンテは、全然違うって分かってきてるでしょ!」
「えっ、でも。結婚ですよ。日本では結婚して、子供を授かって、夫婦で育てるっていうのが、一般的で。」
「タクミってさ。悪い意味で頑固だよね。」
「そうそう。固定観念に囚われて、新しい考え方を受け入れられないタイプ。」
「そっ、そんなことないですっ!でも…。」
反論しようとするが、確かにそういう所があるかもしれないと思い、口ごもる。
「仕方ないなぁ。分かりやすく説明してあげるよ。」
何だか今日は双子が優しい。いつもは揶揄われてばかりなのに。
「タクミはさ。なんで結婚すると思う?」
「それは、相手の人が好きだからですよね?」
僕は結婚したことも、誰かと長くお付き合いしたことも無いけど。
「好きなだけなら、結婚しなくてもいいよね?彼氏と彼女って関係でもいいでしょ?」
「確かにそうですけど。あっ分かりました!子供を養うためです。」
「まぁ、そういう要素もあるけど。」
「結婚って、その時代、文化で様々だけど、共通していることは、ただ一つ。社会を混乱させないための制度っていうだけなんだよ。」
「どういうことです?」
「いま、ここに。タクミと正反対の超絶モテモテな男がいたとします。」
どうせ僕はモテませんけど、その例えはどうかと思います!断固抗議します!ヒドイです!
その通りですけど…。
「すごくモテるので、彼女がいっぱいいます。その彼女達がそれぞれ子供を産んだら、誰が面倒をみるのでしょう?アースの歴史では、古来から経済的に自立できる女性の割合はとても少ない。彼女のいっぱいいる男には、子供を育てるためのお金は出せないとしたら?父親も母親も、お金が無いとしたら、その子供はどうなるでしょう。そして、そんな子供が増えたら?」
「困ります!」
「だよね。だから、古来から、社会を治めてきた王様や国家は、そういう子供が増えないように、結婚という制度を作って、結婚した夫婦間の子供はその夫婦がしっかり面倒をみるように、と決めたのです。」
おぉ!先生みたいだ!
なるほど!双子先生、よく分かりました!
「はい、では、エレメンテではどうでしょう?」
「えっと、エレメンテでは衣食住が国で保障されてるんですよね。」
「ということは?」
「あっ、そういうことですか!アースでは、結婚した男女が子供の面倒をみるのが一般的だけど、エレメンテでは、その役割を国がしてくれるんだ!」
「「正解!!」」
双子が笑顔で答えると、後ろから別の声がした。
「大体な、結婚なんていう制度は、お互いを縛り付けるだけの、前時代的な制度じゃよ。」
セシルさま!帰ってきたんだ。
「「セシルさま。おかえり~。どうだった?」」
「まぁ、ほぼ成功と言って良いじゃろう。あとは、陽子達の母親の心が落ち着くのを待って、ノアにチョチョイと細工してもらうだけじゃ!」
あぁっ!また非合法な香りが!
「それより、タクミさん。面白そうなの話をしていましたね。結婚についてですか?」
「トールくん。エレメンテではもう結婚って制度は無いって、リオンとシオンが言うから、教えてもらってたんだよ。」
「そうですね。セシルねえさまは前時代的って言ってましたけど、ここアースでは、このまま継続していくと思いますよ。特にこの日本では、結婚は無くなることはないですね。」
「どうして、そう言い切れるの?」
「専業主婦っていう考えや制度が根強いからですよ。
国民全てに仕事があり、子供の教育は全て国が面倒みます!となれば、自然に結婚という制度は形を変えると思いますけど。
まぁ、この日本では無理ですね。男性が外で働いて、女性は子供を育てることが普通だ、と潜在的に考えてる人が多いですからね。」
確かに、経済的に無理だから共働きっていう家庭が多いって聞いたことがある。経済的に余裕があるなら、専業主婦になりたいと希望する人も多いらしい。
日本は、先進国と呼ばれている国の中でも男女差別が強く残っている国だ。エレメンテでは、そういうのは無いのだろうか?
「セシルさま。そろそろタクミにエレメンテの教育をした方がいいと思うんだけど。」
「そうそう。質問ばかりで、話が進まないんだよね。」
リオンとシオンが口々に言う。
「うむ。我もそろそろ連れて行こうかと思っておったところじゃ。陽子と月子は、しばらくしたら、学校が長期の休みに入る。その休みを利用して、2人をエレメンテに連れて行こうかと思うておる。タクミも同行するが良い。もう変現にも慣れたじゃろう?」
「はい。タクミさんも、変現のコントロールが出来るようになっていますので、大丈夫だと思いますよ。」
変現の師匠であるトールが太鼓判を押してくれる。
「我とトールのファミリアに滞在させて、学ばせようかと考えておる。リオンとシオンも来い。久しぶりじゃろう?自分達のファミリアは?」
セシルの言葉に、双子は複雑そうな顔をする。
「なんじゃ?行きたくないのか?」
「そういう訳じゃないけど。あそこには、天敵がいるんだよね。」
「あいつってまだいるんだよね。苦手なんだよなぁ。」
双子はブツブツ呟いている。
「我、今回はとっても頑張った!だから、しばらくエレメンテに戻って休養するのじゃ!」
セシルのよく分からない宣言によって、僕は再び、エレメンテに行くことになったのだった。
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