上 下
240 / 247
ガンガルシア王国編

222話 主人公、未来を知るー2

しおりを挟む
 

「人が人である限り、呪いは無くならない。それがソラの結論ね。」

「うん。そうだよ。どの異世界にも、ヒト種が存在するところにはグールがいた。」

「そのグールに取り憑かれた成れの果てが、このエレメンテにすべて現れているってこと?それって、その世界に発生するはずだった化け物をこのエレメンテで退治してるってことだよね?良いことしてるってことじゃない?」

「そういう考え方もあるか…。タクミの思考は面白いね。」

「ソラに言われたくないよ。ソラは呪いのことなんか何とも思ってないよね?」

「攻撃してくるヤツはブッ倒す!それだけだよ。呪いがどうとか考えたこともない。」

 さすが異世界最強ドラゴン。
 この世界に現れた攻撃的なモノは、ソラがすべて倒していたらしいが…。

「とにかく、父さまでも解呪することができなかった呪いよ。私達にどうにか出来るわけないわ。」

「そうだね。でも解呪の方法を探すことはできるよ。王妃の一族のことがあるから、公表できなかったんだよね?この世界は混血だらけになった。もう公表してもいいんじゃないかな?この世界は、紋章システムのおかげで、全世界の人が研究者だ。きっと呪いを解く方法が見つかるよ。知恵は多い方がいい。そうでしょ?」

 僕の提案にタイジュが同意する。

「まぁ、そうだな。あの頃とは事情が違う。いまの世界の人々は、真実を見極める目を持っている。昔みたいに、根拠のない噂話を信じるヤツはいない。そのための紋章システムとパートナー精霊だ。」

「呪いの真実を公表して、全世界の人に解呪方法を探してもらう。これなら、リオンとシオンも納得するんじゃないかな?」

「どうかしら?シオンはそれで承知するかもしれないけど、リオンは無理ね。あの子は頑固だから…。何か、もっと説得力のあるものを提案しないと…。」

 交渉できない相手と話し合う時は、相手の価値観を理解することが重要だ。相手が何を重要だと思っているかを知ることで、それにそった案を出すことが出来る。相手は自分が尊重されたと体感することで、こちらの話を聞いてくれるようになる。

 話し合いとは、人と人の関わりだ。こちらの接し方次第で、良いようにも悪いようにも進んでしまう。

「リオンは大切な人を呪いのせいで亡くしているんだよね?助けられなかったことを悔いているのかな?」

「そうね。だから、冒険者からグール研究者になったのかも。あの子は自分を責めている。もっと早くグールの気配に気付いていたら助けられたのかもしれないって。」

 無力な自分を責めている。そういうことか…。

「リオンはきっと自分が解決したいんだよ。今のエレメンテには、グール研究所みたいなところはないんだよね?」

「あぁ、そうだ。呪いの事実を公表することはできなかったからな。個人で研究してるヤツばかりだ。それに、今のエレメンテでグールに遭遇することは滅多にない。この世界に住んでるヤツラはグールに興味がないんだよ。」

「じゃ、グール専門の研究機関を作って、リオンとシオンには、そこの責任者になってもらおうよ。」

「なるほどな。事実を公表することで、様々な意見が出る。それを統括する機関は必要かもな。」

「そうね。助けられなかったあの人の代わりに他の人を助けることで、リオンの心は救われるかも。」

 僕の意見にタイジュもセシルも同意してくれる。

「じゃ、リオンとシオンにはそれを提案してみよう。あとは、紋章システムを継続させる方法だけど…。」

 僕の言葉にソラが即答する。

「だから、ボクが核になるって言ってる。タクミには任せられないよ。」

「それなんだけど…。ソラ、君の耳の飾りって、もしかして長年身に付けているものじゃない?」

 僕は分身体ではない本物のソラが現れた時に気が付いた耳の飾りのことを聞いてみる。

「あぁ、これ?アイツから貰ったんだよ。身に付けてから、何千年も経ってるけど?」
 ソラはピアスのような飾りを外して見せてくれる。

「この石から強い波動を感じるよ。ドラゴンのチカラが宿ってる。いや、他のチカラも感じるな。ねぇ、ミライ。これって、代わりになるかな?」

「あい!タクミの言いたいことは分かるよ。紋章システムの核は、エンシャントエルフやドラゴンのようなカリスマのある存在でなければならない。これだけチカラのある石なら、代用になるかも!」

「まさか?タクミはこの石を核にした紋章システムを作ろうっていうの?」

「そうだよ。このミライは、僕のチカラを込めた特別な素材から誕生したんだよ。それと同じような要領で開発できないかな?」

「ミライは人工精霊だったね。でもボクには信じられないな。そんなものを開発できる者がいたとは…。」

「誰か一人の力じゃないんだよ。この世界はね。みんなの協力で開発するんだ。知識の統合、共有化ってそういうことだよ。」

「時代は進化してるってこのことか。やはり、タクミの存在がキーになっていた…。」

 ソラの唐突な言葉に、一瞬思考がとまる。
「それって、どういうこと?」

「ボクが見た未来の中に、タクミは居なかったんだよ。ボクは可能性の高い未来から見ていった。ボクが見ていないのは、最もそうなる可能性が少ない世界。」

 なんだって?
 僕が生きてこの世界にいる可能性は、限りなく少ないはずだったってこと?


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

追放された公爵令嬢はモフモフ精霊と契約し、山でスローライフを満喫しようとするが、追放の真相を知り復讐を開始する

もぐすけ
恋愛
リッチモンド公爵家で発生した火災により、当主夫妻が焼死した。家督の第一継承者である長女のグレースは、失意のなか、リチャードという調査官にはめられ、火事の原因を作り出したことにされてしまった。その結果、家督を叔母に奪われ、王子との婚約も破棄され、山に追放になってしまう。 だが、山に行く前に教会で16歳の精霊儀式を行ったところ、最強の妖精がグレースに降下し、グレースの運命は上向いて行く

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

処理中です...