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ガンガルシア王国編

213話 主人公、熟考するー2

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 この世界の人々が自分の価値観を否定されずに自由に生活できるのは、紋章システムとそれぞれの国に別れて暮らすっていう制度があるからだ。

 それが無くなったら、きっとまた争いだらけの世界になってしまう。

「タクミは、この世界の存続を願うだか?」

「うん。初代王タイジュが考えた制度は、とても素晴らしいよ。でも、それだけではここまで続いていないはずだ。代々の王が、この制度を引き継ぎ、いろいろな問題に答えを出してきたから、今のエレメンテになったんだと思う。」

「んだ。人は常に幸せに生きたいと願っているだ。不幸せな状態は変えたいと思うし、幸せな状態は続いてほしいと思うだよ。この制度が続いてきたということは、幸せな人が多かったからだべ。そして、いろいろな問題に答えを出した人がいたからだ。代々の王がそうしてきたように、いま答えを出すのはオラ達だ。オラは今の人々だけでなく、未来の人々が幸せになる答えを出したいだよ。」

『何を大事にするか』が違えば、答えは違うものになってしまう。それを価値観の相違という…。

 僕が一番大事にしたいものはなんだろう?

 タムの言葉の意味をじっくり考えていると、誰かがドアを叩いた。

「タクミ。タムは大丈夫デスか?」
 入ってきたのは、カシムだった。

「タム、身体はどうデスか?」
 起きているタムに、心配そうに聞いている。タムの容態が気になって、訪ねてきたようだ。

「いつものことだから、気にしないでほしいだよ。ありがとう、カシム。それより、今、タクミとあの問題について、話をしていただよ。オラはカシムの考えを聞きたいだ。」

「あっ、僕もカシムに聞きたいことがあるんだ。どうしてガンガルシアを知ってほしいって言ったのか。理由を教えてほしい。」

 カシムは僕とタムの顔を交互に見ながら、真剣な表情をする。そして紋章システムで椅子を出すと、そこに座る。

「ワタシも話をしたいと思っていまシタ。ワタシがタクミに知ってほしかったのは、この国の人々デス。この国の人は、少し特殊な人が多いデス。その人達の暮らしを見てほしかったのデス。」

「僕は少しの間だけど、討伐者として過ごして、町でいろいろな人を見たよ。すぐにカッとなって殴る人もいたけど、殴った方も殴られた方も楽しそうだった。僕が住んでいた日本では考えられないことだよ。」

「ガンガルシアの国民は特殊だと思われていマスけど、アースにもそういう人はいっぱい居マス。集団生活できなくて周りから浮いてしまう人、暴力的な人、自分の欲望を抑えられない人。でもそれは、ヒトなら普通のことデス。」

「日本では、集団で暮らすために、自分を押し殺して生きてるのが普通だ。みんなと同じように、人と違うことをしないように、って自制して生きている。このガンガルシアの人々は、自制が効かないタイプ。日本だったら、問題のある人だよね。」

「ワタシはガンガルシアの人々を見て確信しまシタ。パートナー精霊さえ居れば、そういう人でも問題なく暮らしていけると。」

「僕も思ったよ。アースにもパートナー精霊みたいな存在がいたら、人と人の些細な争いは減るかもしれないなって。」

 どんな人でも、自暴自棄な精神状態になる時はある。特に今の日本には、ストレスがいっぱいだ。自分のストレスを晴らすために、他人を攻撃する人もいる。もし、そういう人達にパートナー精霊のような存在がいたら…。

「ワタシはアースも、この世界みたいな平和な世界にしたいと思っていまシタ。紋章システムさえあれば、アースも平和になると単純に考えていまシタ。でも、タイジュにそれは無理だと言われてしまった。」

 タイジュは、この世界から戦争が無くなったのは、国とカネという仕組みが無くなったからだと言っていた。紋章システムだけでは、平和にならないだろうと。

「タイジュの言うことは正しいデス。今のアースに紋章システムだけを導入しても平和にはならないでしょう。国やカネという仕組みを無くすには、時間がかかるからデス。でも、少しでも何かしたいのデス。ワタシはこの世界で幸せになりまシタ。だから、今度はワタシがアースの誰かを幸せにしたいと思ったんデス。タクミ。タクミはアースの生まれだ。ワタシの気持ちを分かってくれマスよね?」

 僕だって自分が生まれた世界が良くなるなら何かしたいと思うけど、僕には何もできない。それに、この世界の問題をなんとかする方が先だ。

「カシムのアースへの思いは分かっただよ。でもこの世界のことは、どう思ってるんだべ?」

「ワタシもタクミ達と同じデス。紋章システムは継続するべき、大切な道具デス。でも、セシルさまを犠牲にはできない。セシルさまが実行しようとしている方法以外に何か手段はないのでしょうか?」

「うん。僕もそう思ってた。タイジュは、紋章システムの仕組みを全て公開することには反対みたいだけど、そうも言ってられない状況だと思うんだ。ジルが言ってたように、専門チームを作って研究するのはどうだろう?」

「んだな。オラもそれがいいと思うだ。タイジュに話をしてみるだよ。あとは…。リオンの主張はどう思ってるだ?」

 リオンの主張?
 リオンはグールと怪異、この世界に発生した呪いをひどく憎んでいる。だから、グールを呼び寄せる可能性のある王やセシルさまの本体をアースに移住させると言っていた。

 でも、それは問題だらけだ。


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