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ガンガルシア王国編
212話 主人公、熟考するー1
しおりを挟むその後。
ワイバーンは討伐隊によって、討伐された。
しかし、討伐完了まではかなりの時間が必要だった。このワイバーンは、少しでも残っていると再生するらしい。だから、欠片も残さず焼却するのに時間がかかったのだ。
倒すのにも時間がかかって、消滅させるのにも時間がかかるって…。さすが特A級。
そんなに強いワイバーンを相手にしてたんだ。
ホント死ぬかと思ったよ。
僕達はあれから、アリシアとシグルトに事情を説明した。「だましてごめんね」と謝る僕に、二人は自分達のためにしてくれてありがとうと言った。自分のパートナーと、いろいろ話し合ったようだ。
アリシアはその後、討伐者をやめてマルクトールに戻ることを選んだ。防御結界強化の研究をしたいから、という理由だ。
人を傷付ける術より、守る術を研究したいなんて…。防御結界が破壊されるという経験は、アリシアにとって余程ショックな出来事だったんだな…。自分の心が変化してしまうほどの、体験。それが良いことだったのか、悪いことだったのか、それは分からない。それを決めるのは、その後の人生だ。その後の人生が幸せなら、それは必要な経験だったと思えるのだろう。
シグルトは特A級の討伐に参加したことで、ランキングに名前がのることになった。これなら、サイゾウの出した条件を達成したことになる。アリシアとのチームを解消して、しばらくはサーシャのチームで修行すると言っていた。
サーシャは、「今のシグルトなら受け入れてやる」と言って、強制的に修行することになったらしい。『死にたがりとはチームを組めない』というのが、サーシャの考えのようだ。サーシャにはシグルトの本質が分かってたんだな。だから稽古をつけたけど、そのままにしてたんだ。生きて帰れば次がある。戦闘好きなサーシャは、それを信条としているのだ。
恐怖を知ったシグルトは、きっと闘い方も変化するに違いない。シグルトには、討伐者を続けてほしい。そして、生き残ってほしい。生きて帰る闘い方をデュラハンも望んでいる。後はデュラハンが、シグルトをうまくサポートするだろう。
僕達はこうして、アリシアとシグルトと別れたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「タムの様子はどうかな?」
ここは王宮の一室。僕とタムは現在、王宮に滞在している。部屋の中には朔夜がいた。
「タクミ。いま落ち着いて寝たところや。発作が定期的におきとる。原因は分からん。原因が分からんもんは、治癒の術も効かんから、なんともならん…。」
深刻そうな顔で話す朔夜。
タムの容態はかなり悪いのかもしれない…。
アリシアとシグルトと別れて、次はどうしようかとタムと相談している時にそれはおこった。
何の前触れもなく、タムが意識を失ったのだ。
タムの左手が光り、碧が出現する。
「タクミ、大変~。何かの病気が再発したの~。どこか休めるところはないかな~?」
いつもはノンビリな碧の声も、焦っているように聞こえる。
「ガンガルシアの知り合いはガルシア様だけだ。ミライ!ガルシア様に連絡!」
「あい!もうしたよ!」
さすがミライ!仕事が早い!
ガルシアはすぐに現れ、王宮へとつれていってくれた。王宮では朔夜が診てくれるが、原因は分からない。タムは言っていた。次から次へと病になるのだと。
まさか、もう再発?そんな…。
治ったばかりなのに…。
王宮の一室で眠るタム。
これからどうしよう。またスカラに行くことがいいのだろうか…。
眠るタムの顔を見ながら考えていると、タムの目が開く。思ったより時間が経っていたようだ。
「タクミ…。心配かけて悪かっただ。」
上半身を起こしながら、タムが謝る。
「もう起き上がっても大丈夫?」
「こんなことは、いつものことだべ。もう少しもつと思っただども…。」
「朔夜は原因が分からないって言ってた。スカラに行った方がいいんじゃ?」
「それは、後でいいだよ。タイジュからの問題を解決するまでは、スカラに行く気はないべよ。」
初代王タイジュから、答えを出せと言われた問題。この世界の未来を決めるもの。
「タクミ。少し話をしたいだよ。」
タムの真剣な表情に、僕は黙って頷く。
「タクミはこの世界の全ての国を体験しただな?感想を聞いてもいいだか?」
僕はこの世界で見たり聞いたり、体験したことを思い出しながら、言葉にする。
「この世界で出会った人達は、みんなとても良い顔をしていた。不幸な顔をしている人はいなかった。良い世界だと素直に思ったよ。そして、このガンガルシアを見て確信した。この幸せには、パートナー精霊の存在が絶対必要だと。」
「んだな…。ガンガルシアは特にそうだべ。この国の人達は、カッとなりやすいし、すぐに自分を優先しようとするだよ。誰か止めてくれる存在が絶対必要だべ。」
「アースにもカッとなりやすい人はいる。そういう人達が度を越えたことをしないように、法律や社会のルールがあるけど、完全な抑止力にはならない。」
「法律や社会のルールでは、目の前の暴力は防げないべ。それに、常に冷静沈着でいられる人なんていないだ。目の前で大切な人が傷付けられたら、カッとなるだよ。」
「うん。人が全員、理性的で非暴力的な人なら法律も社会的ルールも必要ないと思うけど、それは無理だよ。怒りは人が持ってる正常な感情なんだから…。」
「んだ。だから初代王タイジュは、紋章システムを開発しただよ。実際に止めてくれる存在であるパートナー精霊。そして、何があっても人を守る防御結界。だからこの世界には、絶対的な強者も絶対的な弱者もいない。パートナー精霊と防御結界が無くなったら、安心して暮らせないべよ。」
紋章システムはこの世界に必要なもの。
それが僕の考えた結論だ。
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