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ベアルダウン王国編
197話 主人公、正解の無い問題を考えるー3
しおりを挟む「みなさん、いろいろな意見があると思います。しかし、どの対策も問題がある。それをどう解決するかも含めて、考えないとダメですよ。」
ライルの言葉に、リオンとカシムが黙る。自分の意見は一方的だと分かっているのだろう。
「今すぐ答えを出すものではありません。これは、この世界の未来を決める重要な問題です。じっくり考えて決めないとダメです。そうですよね?タイジュ。」
「あぁ、そうだ。すべての情報は提供する。他に何か聞きたいことは無いか?」
「ひとついいかい?アタイ達、ドラゴノイドは戦闘好きが多い。たしかに闘う相手が居なくなるのは困るけど、スポーツみたいな形で発散させるのも出来たと思うんだが、なぜそうしなかったんだい?」
「そうだな。発散なら、武闘大会でもいいだろう。でもそうしなかった理由は、道具はいつか壊れるものだからだ。この世界は異世界への穴が開いてることが普通だ。そこから、様々なモノが入ってくる。異世界への穴を塞いでいる道具が壊れたら、どんなモノが入って来るか分からない。ソイツが攻撃的で、意思の疎通が出来ないヤツだとしたら、対抗するしかない。武力には武力でしか対抗できないんだ。」
「闘うことに慣れていないと、闘えないってことかい?」
「精霊王の国は平和主義者が集まっていた。攻撃してきたヒト種に対抗できる能力のある種族ばかりだったのに、そうしなかった。だから、入り込んだヒト種達は笑いながら、子供を斬っていたよ。オレはそれを絶対許さない。対抗するチカラは常に磨くべきだと思う。武力があると悪い事に使うヤツが出るから禁止するっていう意見には、オレは反対だ。それはチカラを使うヤツの問題だよ。それにオレは常に、防御結界で防げない術は禁術にした。そして、その術を防御できるように結界の能力を進化させてきた。」
「つまりタイジュは、武力も大切だけど、防御優先だってこと?」
「もちろん、そうだ。制御できないチカラが一番危険だからな。たとえどんな攻撃を受けても、防御結界さえあれば命は助かる。」
「だが防御だけでは、退けることはできない。だから武力が必要だってことかい?」
「まぁ、そういう事だ。」
「良く分かった。それも含めて、ベアル様に報告する。ベアル様と王宮のみんなでどうするかは相談させてもらうよ。」
ユーリはベアルダウンの王宮に仕えている。ベアル王も呪われし者、当事者の一人だ。
「そうだな。各自、王と相談してくれ。」
「そうですね。これ以上ここで話をしても結論は出ません。各国の王と相談しましょう。ガンガルシアのガルシア様はここにいますので、問題無いですね。ベアルダウンのベアル様にはユーリが、フラルアルドの王代理にはジルが話をしてください。」
「おぅ!わかった。」
「アタイも分かったけど、ここの映像は見せてもいいのかい?」
「いいぜ。精霊王の話はお前達の体験だから映像は無いが、ここでオレが話していることはお前達の精霊が記憶している。ただ守秘の約束はしてくれ。王宮関係者以外に知られては困る。紋章システムが使えなくなるなんて分かったら、世界が大混乱するからな。」
それはとても良く理解できる。今の日本で明日から電気が使えないと言われたら、それこそパニックだ。紋章システムは電気より便利だ。大混乱どころじゃないよな、きっと。
「マルクトールのトール様には、僕が説明します。マルクトールは、トール様が成人するまでは前王の王代理がいますから、彼らと相談します。グランエアドのエア様には、リオンが話をしてください。イリステラのイリス様には、シオン、君に頼むよ。」
「「分かった。」」
双子は複雑な顔で返事をする。
「事情を話した後は、セシリアに戻るけどいいよね?」
「僕達はセシリアに仕えている。セシル様と、仲間と相談したいんだ。」
セシリアの王宮には、ノアやチヨ、王代理のローグがいる。そして、エルやセシルさまも。
僕もセシリアに行った方がいいよな、と考えていると、カシムが僕に訴える。
「タクミはまだガンガルシアに滞在したことは無いデスよね。しばらく滞在して、知ってほしいデス。そして、僕の話を聞いてほしいデス。」
「タクミ、頼む。そうしてやってほしい。カシムは本当に、アースのことを何とかしたいと思ってるんだ。日本人だったお前になら理解できるだろ?」
「えっ?でも…。」
僕はチラリと双子を見る。2人はこの世界での僕の保護者だ。
「いいよ、タクミ。ガンガルシアを見て、いろいろ考えてほしい。今回の問題は、タクミにも深く関わってることだからね。」
「タクミは、もうこの世界の重要人物だ。いろいろなことを知って、判断してほしい。僕達はいなくても大丈夫。タムがいる。お願いできるね、タム。」
「もちろんだべ。タクミはオラの嫁探しにも付き合ってくれた。今度はオラがタクミの力になる番だべよ。」
ガンガルシアに行くのは少し不安だが、タムがついてきてくれるなら、心強い。
「じゃ、お前達の行き先は決まったな。何か情報が欲しい場合は、オレを呼んでくれ。パートナー精霊に頼めば、オレに繋いでくれるから。」
そう言った後、タイジュはひどく真剣な顔をして話を続ける。
「最後に王の話をしようと思う。どうしてオレが呪われし者を王にしたかを。」
王の話?
「この世界には、法律や国会などは無い。何か問題が起こった時は、当事者同士で話し合うのが普通だ。しかし、国レベルの問題が発生した時には、判断する人が必要だ。例えば、ガンガルシア以外の場所で異世界の穴が開いて、異世界から何者かが入ってきたら?討伐か、移住させるか、それをどうするか決める事ができるのは、その国の王だけだ。」
呪われし者は特殊な才能がある。どこにいても目立つので王にした、と以前聞いたが、そういう理由もあったのか。
「呪われし者を王にするのは、もちろん不安もあった。だが、王は皆、妙なカリスマがある。そして王には良い仲間が集まってくる。王と仲間なら、どんな事でも判断できると思ったんだ。」
誰かが決めなくてはいけない時は、必ずある。そのための王と仲間達ってことか…。
「お前達がどんな未来を選んでもいい。でも、王が居なくなった時にどうなるかを考えてほしい。」
その後、僕達はこの暗黒大陸からそれぞれ各国へと移動した。王と相談するために。
そして、僕はこの世界に来た時に最初に行ったガンガルシア王国に、再び行くことになる。
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