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ベアルダウン王国編
185話 主人公、精霊王の秘密を知るー3
しおりを挟む「精霊王様、王妃様。今まで大変お世話になりました。嫁ぎ先が決まったので、もうここには来ることができません。だから、最後のご挨拶を。」
ヒト種の幼い姫は、丁寧に別れのあいさつをする。
「そう。そうなの…。ヒトの世界では、まだ政略結婚があるのね…。貴女は王家の姫。仕方のない事とはいえ、なんと言えばいいか…。」
「いえ、いいのです。王妃様。かつて王妃様もそうなる予定だったのですよね。だから、私の気持ちも理解してもらえると思います。」
「えぇ、分かるわ。あの頃は最も酷かった時代。私は嫁ぎ先が決まっていたのだけど、戦争の激化で嫁ぐ前に死ぬところだった。そこを救ってくれたのが、※※※※様よ。そして恋に落ち、この世界に来たの…。」
(この世界来た?)
「やはり伝承は本当だったのですね。我が国は、異世界からやって来たヒト種が作ったのだと伝わっています。ただの言い伝えとばかり…。」
「私とお兄様は、わずかな従者を連れて神殿に逃げ込んだ。そこで、私は一心に祈ったわ。誰か助けてください、と。その呼び掛けに応じてくださったのが、※※※※様よ。あの世界には生きていく場所が無かった。だから、このエレメンテに来たの。そして、私はこの方のところに嫁いだ。お兄様は、新しい国を作ると言って、従者を連れて出て行かれたわ。でも、ちゃんと国をお作りになった。それが貴女の国よ。」
「そうだったのですね。私のルーツが知れて、嬉しいです。他国へと嫁ぎますが、私の中に流れる血のことは誇りに思います。」
「△△△姫。お元気で。」
「はい。精霊王様も、いろいろご助力ありがとうございました。あのタネのおかげで飢えをしのぐ事ができました。」
ヒト種の姫は涙ぐみながら、別れのあいさつをしている。
(あれ?あの影はなんだろう?)
ドラゴンに瞳を発動していた僕は、姫の後ろに薄気味悪い気配を感じる。
精霊王も気付いたようだ。
が、遅かった。
幼い姫の手には短剣が。
そして、その短剣で王妃の胸を一突きに。
王妃の胸から、大量の血が流れ出す。それと同時に大量のチカラが溢れ出すのが見える。そして、精霊王も胸を押さえて苦しがっている。
(なに?なにが起こった?)
精霊王の姫が異変に気付いて叫ぶ。
「どうして?どうして、こんな事を!」
精霊王は胸を押さえながらも、幼い姫の背後を睨む。すると、あの嫌な気配が霧散し、姫は気絶する。
「ははっ…。油断した…。まさか、ボクの弱点を知っていたとは…。どこの術者だ?ヤバイ。再生しない。王妃の核は完全に砕かれたみたいだ…。もう助からない。」
精霊王の腕に抱かれた王妃の胸から、止めどなく血が流れ出す。
「母さま!母さま!」
精霊王の姫が、泣きながら王妃を呼び続けている。
「うっ、うん。なにが?」
幼い姫の目が覚める。
「なっ、なに?この血が付いた短剣は?えっ?王妃さまの胸から血が…。わっ、私が?」
異変に気付いたトゥーラ達が駆けつけてくる。
「トゥーラ、マズイ。核が砕かれた。ボクに残された時間は無い。その子は悪くないよ。操ってる奴がいた。奴はボクの弱点を知っていたよ。王妃の胸の核とボクの核が同じだと。」
「そんな、こんな時に…。※※※※様。報告です。武器を持ったヒト種が大量に入り込み、罪もない我が国民を殺戮しています。」
「わっ、私の国の者が?そんな…、そんな事…。」
「分かってるよ。この城に強固な結界を張った。この中は安全だ。この国の者達は出来るだけ助ける。ここに転移させるから、治癒してやってくれ。」
「わかりました。では、※※※※様。ついにその時が来たのですか…?」
「うん、トゥーラ。悪いけど、後は頼むよ。」
「父さま?何を言ってるの?母さまは助かるのでしょ?父さまも。」
「◯◯◯、これでお別れだ。ボクが居なくなったこの世界がどうなるか、想像もつかない。どうしても困った事があったら、ソラを呼ぶんだ。いいね。」
「父さま?どういうことなの?」
精霊王の姫は、茫然としている。
そんな姫の目の前から、精霊王と王妃の姿が消えた。
(ここは?城の上空?)
王妃を抱きしめた精霊王が、城を見下ろしている。
「※※※※様、ごめんさない…。やっぱり私が重荷になってしまった…。あなたと共に永遠を生きるなんて…。そんな申し出を受けてはいけなかったんだわ。あなたはこの世界に必要な存在…。」
「何を言ってるんだよ。ボクは君に会えてとても嬉しかったよ。ボクに誰かを愛する事ができるなんて、想像もしてなかった。しかも、ボクと君の子供まで。君はボクにたくさんのモノをくれたよ。言ったよね。君が死ぬ時は、ボクも死ぬ時だって。」
「愛してます、あなた…。」
王妃は最後の力を振り絞って、精霊王に愛を伝える。
「うん、ボクも愛してるよ。」
そのまま王妃は動かなくなった。そして、光に包まれて、霧散する。
「クッ…。時間がない。できるだけ、助けなくちゃ。」
精霊王は胸を押さえて、転移する。
「ここの国民はなんて貧弱なんだ。無抵抗じゃねえか。」
「この国は平和主義なんだとよ。暴力反対ってヤツだよ。」
「クククッ!じゃあ、やりたい放題だな!」
武器を持った男達が、無抵抗の人達を斬りつけてる。
(笑いながら、人を傷付けてる?)
僕は見ているのが辛くなる。過去の出来事だとわかっているけど、今すぐ助けたい。
(なんてヤツらだ。理解できない)
「アハハっ!恨むなら精霊王を恨めよ。オレ達の国が戦争ばかりなのは、精霊王のせいなんだよ!オレ達は世界のために、精霊王を退治しに来たんだ。ついでにこの国も掃除してやるよ!」
男が無抵抗の子供を斬ろうとした時、精霊王が目の前に現れる。
「ボクの大切な国民に何をする気かな?」
急に現れた精霊王に驚いた男達だが、すぐに正気に戻り、精霊王を取り囲む。
「獲物が自らやって来てくれたぜ。オレ達がお前を退治してやる!お前が居なくなれば、世界は平和になるんだよ!」
「誰がそんな事を言っているの?」
「誰?そんなの街のみんなが言ってるぜ。オレの国では常識だよ!」
「常識ねぇ。本当にボクが居なくなったら、世界は平和になるのかな?」
「フハハッ!そんな事はどうでもいいんだよ!お前を殺して、この国を奪う。この豊かな国をヒト種の国にするんだよ!」
「あっ、やっぱりそっちが本音?でもね。君たちには、この国はあげられないよ。だって、この国はもう無くなるんだから。」
「なに言ってんだよ、コイツ。おぅ!みんな、やっちまえ!」
男達が全員で精霊王に飛びかかるが、精霊王の姿は消えていた。そして、周りにいた精霊王の国の人々も。
残された男達に精霊王の声が聞こえる。
『悪いけど、君たちは自力で何とかしてね。生きて帰れるといいけど…。』
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